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毎日の昼寝、生活を楽しむためのシエスタある暮らし

ここ数年、ほぼ毎日昼寝する生活を送っている。

2015年、僕は愛する妻と結婚するため、アルゼンチン南西部ネウケン州に移住した。ここにはシエスタ文化が根強く残っている。シエスタとは昼休憩の意味だが、昼寝の意味合いで使われることがほとんど。

家族みんなで昼食を食べたら、子供も大人もお昼寝タイム。シエスタの時間中は、町全体が誘拐されたように、ひっそりと静まり返る。通りに出る人々はほとんどいないから、開いている店もほとんどない。

毎日の昼寝というと、マイペース、はっきり言えば怠けていると思われる。僕もそう思っていた。でも、勤務時間に関しては真面目と評される日本と変わらない。

僕は2年ほど、アルゼンチンの園芸店と車の修理工場で働いた経験があるが、毎日きっちり8時間働いていた。

基本の勤務時間は、午前9時から13時と午後17時から21時の二部構成。つまり、13時から17時はシエスタの時間だ。

約1時間かけて家族全員で昼食を食べ、2時間ほど昼寝、そして午後の仕事に励む。21時から22時の間に夕食、だいたい深夜の1時ころに就寝する人が多い。

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こんな感じでシエスタこそあるものの、人々は毎日きっちり8時間働いている。シエスタは怠け者の文化ではない。むしろ僕は、とても合理的なものだとさえ思っている。

初めは、シエスタは家族愛の強いラテン国だからあるものと考えていた。

シエスタがあることで、家族全員で昼食と夕食を楽しめ、一緒に昼寝さえできる。妻と眠るシエスタは一番のデートだ。でも、それならブエノスアイレス州などにもシエスタ文化は残っておくべきだろう。

ネウケンでシエスタ文化が生き残っている理由は、外仕事が盛んだからかもしれない。

とびきり乾燥した空気の中、じりじりと焼きつくす太陽のもとで働くのは辛い。考えるだけで、気がめいってしまう。多くの男たちは、外仕事従事者の特有のこんがりと焼けた肌をしている。

特に太陽が天上に達する真昼間は、暑くて仕事にならないし、満腹で眠い。ダラダラ仕事するくらいなら、思い切って休んでしまおうってわけだ。8時間働けばいいのなら、涼しい夕方から始めてもいいではないか。

アルゼンチンでの勤務経験や知人の話を聞き、僕はこの仮説にたどり着いた。おそらく、都会は涼しいオフィスで働く人々が増えたため、シエスタの必要性が薄れてしまったのかもしれない。あと、観光客が多いことも理由だろうが。

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僕は今、フリーライターとして家の中で仕事している。涼しい室内で仕事をしながらも、もうシエスタなしの生活は送れない。

昼食を食べ終えた瞬間から眠い。眠いままパソコンの前に座っても、仕事ははかどらない。30分経っても、1時間たっても、キーボードを叩く音はリズムに乗らない。

寝よう。

夕方から4時間働けばいいじゃないか。何を一般的な労働時間に支配されているのだ。睡魔と闘っているだけで、何も生み出していない。フリーランスの魅力は、一般的な労働時間に縛られないことではないか。

ノー・シエスタ・ノー・ライフ

シエスタる(昼寝する)だけで、驚くほど頭はさえる。朝に頭がさえているのと同じ現象だ。シエスタを取り入れることで、午前中と午後の2回、あの超集中モードを手に入れられる。

あと精神面でもシエスタは良い影響を及ぼす。シエスタがあるだけで、「寝不足だけど今日大丈夫かな」というあの睡眠不足への不安がなくなる。

かつてアルゼンチン人の妻は「眠れない夜はあっても、眠れない昼はないのよ」と名言を残したが、本当にその通り。

不思議なことに、昼間はよく眠れる。大事なことなのでもう一度言うが、不安や悩みで夜は眠れなくとも、昼間は眠れる。

そもそも昼寝できる事実があるだけで、少しばかり徹夜や寝不足しても大丈夫になる。

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大工の棟梁の義父と建築家の知人は、少し大げさ気味にここの人々はシエスタ中心で住宅設計すると言った。寝室を日の当たらない場所に設置するのだ。

僕は移住してから3つ家を借りたが、どの家も寝室には直射日光が入らなかった。ただの偶然かもしれないが。

また僕の知り合いに限れば、多くの人々が寝室のカーテンは光を通さない濃い色を採用している。人気なのが、ワインレッドカラーのカーテン。情熱的な印象をもたらしつつ、光を十分に遮断してくれる。

妻は、夏は窓に黒の画用紙をはりつけ、ワインレッドのカーテンを閉める徹底ぶり。バンパイアなのだ。シエスタ中だけ、太陽光にあたると死んでしまうバンパイアへと変身してしまう。

シエスタ中心の生活を送っているからこそ、人々はシエスタの質にこだわっている。

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シエスタのある生活っていいもの。

同じ8時間働いているのに、昼寝があるだけで、なんだか豊かな生活を送っている気分になれる。もちろん、2時間も3時間も眠る必要はない。食後に読書して、さくっと昼寝してから、午後の活動に取りかかるのもいいかもしれない。

僕たちはみんな頑張っている。仕事をする人も、家事や育児に励む人も、子供も一生懸命生きている。だから、午前中が終わるともうくたくた。

朝から晩まで頑張り続けると、自由時間のための気力が残らない。かつての僕はそうだった。学校とアルバイトが終わると、あとは明日に備えて眠るだけ。

それだと働くだけの人生になってしまう。別にそれが悪いことではないと思う。でも、家族がある僕にとっては、仕事以外の時間も大切だ。

毎日の余暇を楽しむためにも、僕には少しばかりのシエスタが必要だ。毎日できれば最高だけど、たまの休みの日にお布団の上でたっぷりシエスタるのも贅沢な時間。

愛する人を追ってアルゼンチンまで来た。

家族との時間を楽しむためにも、僕はシエスタを続けていきたい。

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