君は今どこで何をしているのだろうか

当時新卒入社したての頃、銀座のクラブで働いていた同い年の女の子とひょんなことで知り合いそれからしばしば会って酒を飲んだ。僕はホステスを職業とした女性と知り合うのはそれが初めてで最初の頃は緊張もしたものだが、お互い損なわれ続けることについてはちょっとした権威だったためか、そういった欠落感というか孤独感がなんとなく共通項として存在しており親近感を生んだのだと思う。だからすぐに仲良くなった。

ただ我々の奇妙な関係はそう長くは続かなかった。ある日一緒に酒を飲んでいると彼女は結婚と同時に本業の仕事もホステスも辞め彼のいる地方へ引っ越すのだと言った。そしてしばらくは会うこともないだろうということで我々は大いに酒を飲んだ。あの日、「銀座の街や集団から私たちはハブられているんだよな」と半ば当てつけのように呟きながらおよそ「銀座のホステス」とは思えないガラの悪い千鳥足で歩いていた君のことをよく覚えている。

生活圏が変わったとしてもきっと近いうちにまた安い酒を飲みながら君は僕の知らない誰かの悪口を言って僕を笑わせるだろうと彼女の境遇を聞いた時にはそう思ったが、結局その日が別れとなった。気づけば唯一の連絡手段であったSNSと彼女の生活を記したブログは削除されていた。

このありふれた別れは僕の人生に特に大きな影響を与えうるようなことではないと思っていた。もちろん断ることでもないが恋愛感情もなく我々は人生の輝き損ねた一瞬の隙間ですれ違った偶然の理解者同士に過ぎなかったからだ。ただ不思議なことに、その別れというか喪失感は時が経つにつれ存在感を増しいつまでも僕の心を捉えて離さず、時々彼女のことを思い出しては心が痛くなるようになった。

そして僕はまたばったりどこかで君に会えるだろうと高をくくってもいた。しかしそのいつかは未だに現れず僕の生活習慣も大きく変わり長くインターネットの世界から離れていたため、彼女とはもう無縁の人生となった。

ただ、僕はいつかまた君に会えるんじゃないかと思い続けている。

あるいは君ならなんとなく噓をついた気持ちのまま生き続けている僕の空虚感を理解してくれるのではないかという淡い期待を抱いているのかもしれない。君がもう既に損なわれた人だからこそ、そんな勝手を許してほしい。

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僕がいつか何かしらの書籍を出したら(当時僕は物書きになるのが夢だった)君はそれを大量に買って近所に配って回ると言った。よせよと僕は笑い飛ばしたが、彼女の目は本気だったように思う。少なくとも僕はそう感じたし、今でもそう信じている。

知らない街から届いた手紙の様に、いつか君にこの文章が届いたらとてもうれしい。

良かったら話しかけてください