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バーチャル・マッチング その4

 女郎蜘蛛の餞別

 例えば都市伝説など、眉唾物の話をするときの枕詞を知っているだろうか。「これは友達の友達から聞いた話なんだけど…」というフレーズである。恐らくあなたの友人がこんな切り出し方で話を始めたら、
「そんなん赤の他人じゃないか。」
とツッコんでしまうだろう。しかし、それは本当に赤の他人なのだろうか。

 私には付き合って4年になる彼女がおり、お互い30過ぎということでそろそろ入籍を考えている。手前味噌だが、かなり相性の良いお似合いの二人だと思っている。今後どんな困難に直面したとしても、力を合わせて乗り越えられるだろう。


 そんなパートナーに、唯一つだけ隠し事をしている。とは言っても別段やましい事でもないのだが、何故か話せていないのだ。それは今の彼女に出会うきっかけを作ってくれた人の事である。
 ひとまずその人の事をNさんと呼ぶことにしよう。当時、私とNさんは付き合っていた。正確には、付き合っていたのであろう、と表現した方が正しい。世間一般では冴えない部類に分類されるであろう私に、Nさんはいつも明るく接してくれた。いつしか私の方からも好意を寄せたのは必然だったように思える。そのようないきさつでそれなりに親交を深めたのだが、それは長続きしなかった。
「ねぇ、今度一緒に合コンに行ってくれない?」
Nさんが言ったあまりにも衝撃すぎる台詞に私は辛うじて空返事を返すのがやっとだった。確かに今の関係を明確に定義していないのが悪いのかもしれないが、それでもこんなのってないぜ、と一人拗ねたのを今でも覚えている。

 浮かない気持ちのまま合コンに参加したが、驚いたのはNさんの手回しの良さである。グダっとすることは一切なく、終始良い雰囲気だった。そして、合コン終わりの道すがら、Nさんはこう言った。
「左前の子、すごくタイプだったでしょ。」
確かに、合コンの中で一番可愛かったのはNさんが言った人だった。かと言って素直に肯定する気持ちにもなれず、
「んー。」
と言葉を濁すと、畳まれたレシートを握らされた。
「連絡先。あの子も君の事を素敵だって言ってたよ。」
結局、私はその子に連絡を取り、今もこうして続いているという訳である。


 さて、今の彼女と付き合い始めて1年が経った頃、酔った勢いでNさんにメッセージを送ったことがある。「Nさん、お元気ですか。私の方は変わりなく過ごしています。あの時紹介してくれた人とお付き合いしていて、とても良い関係を築けていると思います。当時は感謝の言葉を言えたことが無かったと思いますが、本当にありがとう。」
 すると、Nさんは何の言葉もなく一枚の画像を送ってきた。それはとても幸せそうなNさんと男性のツーショットだった。




 どうしてすっかり忘れていたのだろう、私はNさんから連絡先を受け取る交換条件として、とある人を紹介し返したのだ。Nさんの隣でにこやかにピースしている私の親友を見て、舌の奥から苦酸っぱい唾液が昇ってきた。

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