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『ルビンの壺が割れた』

宿野かほるさんの『ルビンの壺が割れた』を読破しました。


物語は水谷一馬が、かつての恋人未帆子へSNSでメッセージを送ることからはじまって、メッセージの内容が過去や思い出に変わるんだけど、要所々々で「なんか変だぞ」と違和感がでてくる。ラストシーンでは、水谷一馬がメッセージを送った思惑が明確になる、という感じです。
好きな芸人さんがおすすめしていたので読んでみたけど、おもしろかったです!文章がメッセージのやりとりだし、ページ数も少なめなのですらすら読めました。

ラスト一文の未帆子の気持ちに激しく同意しました。
あそこで文字のフォントを変える演出が好きです。


タイトルの由来が気になったので
ルビンの壺について調べてみました。

ルビンは『視覚的図形』の中で次のように論理を展開した。

共通の境界線を持つ2つの領域があり、一方を図、他方を地として見るとする。その結果、直接的知覚的経験は両領域の共通の境界線から生じ、1つの領域のみか、一方が他方よりも強く作用する行動形成効果に特徴付けられる。

(Wikipedia参照)

一方に集中すると、他方が認識する力が弱まったり気付けないってことですね。

つまり、タイトルの『ルビンの壺が割れた』は 

・未帆子によって、水谷一馬の考えや思想が壊された

・未帆子と水谷一馬の2つの言い分が見えた=ルビンの壺の定義が破壊された

って意味なのかなと思いました。


大どんでん返しというよりは、キーワードが要所々々で散りばめられてるので、じわじわとわかる感じでした。


※以下、ネタバレ含みます。ご注意ください。  


そもそも、私は読み始めから、この水谷一馬にあまり良い印象をいだいていませんでした。というのも…

前に、返事は不要と書きながら、実際にお返事がないと少し落ち込みました。
(中略)
だって、亡くなった人からのメッセージが届いたら大いに戸惑ってしまいます。
ごめんなさい、勝手に貴方を殺してしまって_。


メッセージいきなり送ってきておいて、実際に生きてる人にこんな文章送るとか失礼すぎるって思ったので。
一文目もめんどくさくて正直嫌いです(笑)

とはいえ、読み始めは、水谷一馬という男は
・現実に満足してなくて昔の良かった頃や過去最大の恋を思い返して酔いしれてる
・昔自分を捨てた恋人の真意を知りたいと思った
っていう感じでメッセージを送ったのかなと思いました。 
真実を知りたいという欲望ゆえにSNSであんな粘着質な発見をしたのかなと思いました。

 



全然そんなかわいいもんじゃなかったですね。


実際にはおぞましい事件の犯人で、自分が壊れたことを周囲の人間のせいにし、かつての恋人に、真綿で首を締めるかのようにじわじわと罪悪感をうえつけるような卑劣な人でした。

それを知ってからメッセージの内容を思い返して見ると、ぞっとしました。

・生まれながらの犯罪者などというものは存在しない
・決して彼だけが悪いのではない_

演劇部の宮脇さんの話を伏線に使うあたり狡猾だなと思いました。


内容だけじゃなく水谷一馬、ものすごく文章?やりとりが一方的なところにも恐怖を感じました。
未帆子からメッセージが帰ってこなくても送ってきたり、
未帆子からの返信がないとメッセージの冒頭で返信がないことに対して傷ついた旨を書いてましたし。
メッセージのボリュームに差があるところとか、内容も美帆子と話すことが目的じゃなくて、一方的に聞かせたい感があるんですよね…。

未定帆子の苗字「結城」は偽名じゃなかったと私は思います
彼女は彼の事件について知っていたので、嘘をついたのではないかなと思いました。仮に苗字がバレても居場所の特定には時間がかかりますしね。

途中、住所を聞いて来たのは胃ガンの再発で先が長くないことを悟ったことの焦りから、ストレートな聞き方になってしまったのかなと思いました。苗字のほうか答えるのにハードルが低いと思うので。


この小説男の人と女の人で感じ方とか変わるのかなってふと思いました。
今はジェンダーとか色々あるけど、生物学上男女は遺伝子も異なるし、進化の背景とか環境で違いってあると思うんですよね(女性の方が危機感とか防犯の意識は普段から高いと思うので)。
先述したように、なんか得体のしれない気味悪さを小説の始めから、私は感じたのですが、これは自身の感性なのか性別としての感性なの気になりました。


久しぶりに小説を一気読みしてすっきりしました!
次は何を読もうかなぁ!


#ルビンの壺が割れた
#読書の秋2021
#ミステリー小説

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