ローソンPB新パッケージについて考える - オンライン勉強会レポート
Hello, people.
先日ILY,では、弊社代表の発案でオンライン勉強会を開催しました。勉強会のテーマは「2020年春にローソンが刷新したPB商品のパッケージデザインについて考える」です。
ローソンPBの新しいパッケージ、もうご覧になりましたか? SNSやインターネット、マスメディアでもかなり話題になりましたね。今回の勉強会では、デザインそのものの良し悪しではなく「何が議論の焦点であり、ブランド刷新の目的は達成したのか?」について様々な角度で考えるべく開催いたしました。
ローソンPBパッケージデザイン刷新の反響
まずはテーマに関する情報提供からスタート。パッケージデザイン自体は、とてもかわいくユーザーフレンドリーに変わったように見えます。
しかし、商品が陳列されている様子を見ると、
・並べたり集めたらみんな同じものに見える
・1m離れると紙パックのジャスミン茶とほうじ茶が識別できない
というような課題が。
冷凍食品は近くで見ないとどんな商品かわかりにくい、という声も。さらにユニバーサルデザインの視点では「正しくないデザインである」との厳しい指摘も受けているようでした。
たしかに今回のローソンPBの新しいパッケージデザインは、ユニバーサルデザイン7原則のうち「必要な情報がすぐわかること」という原則には合わないかもしれません。しかし、これだけでデザインがダメだと言い切るのはやや適切な議論ではないように思われます。
これは「デザインの敗北」なのか? 騒動の争点は?
ここでデザイナーなら頭に浮かぶのが「デザインの敗北」というキーワード。有名なセブンイレブンのテプラまみれのコーヒーメーカーにはじまり、男子トイレか女子トイレかわからないピクトグラムなど...いくつか事例が脳裏をよぎります。たしかにこれらは配慮不足な面もあり、「デザインの敗北」と呼ばれてしまうのも仕方ないのかもしれません。
しかし今回の事例も「デザインの敗北」と片付けてしまって良いのでしょうか? 事実ローソンPBの新しいパッケージデザインは二カ国語表記など、ユニバーサルデザイン観点の配慮もなされています。私たちは今回の事例から何を学びうるでしょうか?
たとえば、コンビニ業界のリーディングカンパニーであるセブンイレブンのPBパッケージデザインと比較すると、「商品理解・発見」の点でユーザビリティに差があるのも確かです。※PB=プライベートブランド
では、今回のローソンPBのパッケージデザインは何が問題だったのでしょうか?様々な指摘を総括すると、その争点は大きく3つにまとめることができます。
争点1:わかりにくい
争点2:購買意欲が起こらない
争点3:かわいいけど機能要件を満たしていない
1と2については逆の意見も多数ありますが、「かわいいけど機能要件を満たしていない」ことが今回の炎上とも言えるムーブメントの原因と言えるのではないでしょうか。例として前述したセブンイレブンのコーヒーメーカーがデザインの敗北と言われる理由も「かっこいいけど機能要件を満たしていない」ことでした。これらは「デザイナーの自己満足」としてソーシャルバッシングを受ける傾向にあることは注意しなければなりません。
しかしセブンイレブンの事例を同業種のローソンが周知していなかったとも思えません。では、今回の刷新の目的は一体どのようなところにあるのでしょうか?
パッケージデザイン刷新の目的から考える
ここで参加者のみなさんにローソンPBパッケージデザイン刷新の「事業的な狙い」について推測していただき、下記のような意見が。
・自社ブランドを展開していきたいのでは? 便利で購買意欲が湧くワクワクする場所にしたかったのではないか
・他のコンビニとの差別化を狙ったのではないか
いずれの意見も正しいといえます。さらにいうならば、パッケージデザインの刷新は大規模なコストがかかるため、間違いなく事業投資の側面を持っています。そのように考えるならば最終的なゴールは「売上の拡大」であり、コンビニエンスストアのような小売業種の売上拡大の方策は大きく3つしかありません。ここから刷新の目的を紐解いてみましょう。
例えば「1.顧客単価をあげる」ことがその手法であるとすれば、ついで買いや追加購入が増えるような設計がなされるはずです。ついで買いを促進するためには遠くからでも視認できるようなパッケージが必要なため、今回の刷新ではその手法が取られていないことがわかります。次に「2.顧客数を増やす」ためにはコンビニ業界では「出店数」や「キャンペーン」の施策をとることが多いので、こちらも対象外出あるかもしれません。(しかしながら今回の問題によって結果的に来店者数は増えたかもしれませんね。)
とすると、今回のパッケージデザイン刷新の狙いは「3.来店頻度を増やす」が該当するかもしれません。それがライフタイムバリュー(LTV)をアップするという目的でパッケージデザインに反映されたと考えるのが自然ではないでしょうか?
出店数においてセブンイレブンとの差がある中で、ローソンはこれまで独自の商品開発に力をいれてきました。スプーンで食べるロールケーキや悪魔のおにぎりなど、ユニークな商品を多く持つのもローソンの強みです。
セブンイレブンとローソンの違いは、コーヒーカップにも見ることができます。徹底的にコストにこだわるセブンイレブンに対し、ローソンのこだわりは(コーヒー自体の品質もあるでしょうが)パッケージの「手触り」にも現れていることがわかります。柔らかで手触りのあるローソンのカップは、ユーザーに体験として「安心感」を与えるものでもあります。これらのことからローソンの事業戦略として、LTVの向上が重要視されていること考えることができます。
ちなみに私たちが「パッケージデザインで優位性を持っているブランド」としてすぐに思い浮かぶのは無印良品ですね。無印良品は商品の中身に加え、生活の中で邪魔にならない「あのパッケージ」を求めて買う感覚がありませんか?今回のローソンの事例もパッケージに買う必然性を持たせるという戦略と考えることもできます。
「現代の」消費者行動に沿うデザインだったか?
コンビニエンスストア内での消費者行動もデザインを大きく左右する要素です。現代の消費者行動までを見越したPBデザインだったのか?というと、私が考えるに考慮不足であると感じる観点が2つあります。
1つ目は、商品選定の時間です。
朝は1分以内、滞在時間が長い昼間でも3分以内と、滞在時間が短い中で商品を選んで買ってもらう方法を考えないといけません。それに対して、見てすぐに何の商品かわからない今のローソンPBのデザインは買いづらいですね。これは新規or既存の顧客問わずに発生する問題です。
2つ目は、スマホ認知症です。
スマホを使っているともの忘れがひどくなって、コンビニでも買いに来た目的を忘れてしまうことはありませんか?コンビニに来ても何を買う予定だったか思い出せない。私たちは商品が視界に入ったときにその商品が必要だったことを「思い出す」ことが多いですよね。そのような消費者が増えてきている中で、果たして今回のデザインは有効だったのか?と考えると疑問が残ります。
デザイン刷新の裏にある戦略やいかに!?
ここまでの情報提供を済ませた上で、参加者にローソンPBに関する意見や感想を交換していただきました。
・ローソンの新しいパッケージデザインを見て、デザインにはオシャレ感とダサさの両方がそれぞれ同じぐらい必要だと思った
・今回のデザインがデザイナーの自己満足と思われるのは業界の人間として残念
・コンビニ商品のデザインも年齢層ごとに捉え方が異なるのではないか
・カッコ良さと使い勝手の良さが天秤に掛けられるのは残念。両立できるものだと思う
・世代間共感覚が失われつつある。その結果、シンプルで無難なものが増えたのでは
・このデザインは収集癖をくすぐるデザインなのでは?冷蔵庫の中でローソンPB商品が並ぶと美しいと思う
デザインをただ批判するよりも、そのデザインの裏にある戦略を感じ取れるようになりたいですね。そうすれば仕事やビジネスに生かすことができますし、なによりデザインを観察することが楽しくなります。
長期的視野に立った改善に期待する声が多い
最後に今回のPBのパッケージデザインリニューアルは、これで良かったと思いますか?という質問を投げかけると、様々な角度の意見が出ました。
・イチ消費者としては残念
・売上は下がるだろう
・短期的視点ではなく長期的視点で回収プランを考えていると思う
・店員とお客さまが会話するようにわざと不便にしたのでは?
・一時的に叩かれるかもしれないが、ここでやめて欲しくない。1年後には「こっちの方が良かったね」となるかもしれない。ぜひ肝を据えて取り組んで欲しい
・デザインへの投資はすぐに結果は出ないもの。長期投資とみれば違う答えになるのでは?ローソンは狙う客層がセブンイレブンとは違うと感じた
・子どもたちはワチャワチャした色が好き。子育て世代との相性は良くなさそう
・デザインの気の使い方に問題があるから見にくいのでは。もう少しイラストが大きくてもオシャレ感は変わらない。これから改良していくだろう
・家の冷蔵庫内では成立しても、店の棚で成立しないのは問題。商品ジャンルごとにパッケージデザインを変えるのも良いかもしれない
・リニューアル直後恒例の拒否反応とデザイン叩きたい風潮があるのでは?ただ、ユニバーサルデザインというなら少し足りてないかも
・文字をもう少し大きくしても良かったのでは。最近は文字サイズを大きくという風潮だったので、逆に小さくしすぎたのでは?
いろいろな視点からの意見を聞くことができて、私たちもいちデザイナーとして「何がいいデザインなのか?」を改めて考える機会になりました。参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
「いいデザイン」「悪いデザイン」という二極的な発想ではなく、その奥にある目的や戦略は何だったのか? 今の潮流やユーザー心理には沿っているものなのか? 問題があるとすれば何がクリティカルだったのか? という多角的な視点をもってデザインに向き合っていきたいですね。
是非皆さんもあらゆるデザインを観察し、考えてみてください。
また、ともに学びましょう!
Thank you, we love you.