#39 「メマリー錠」ってどうなの?! ~抗認知症薬を考える~
母はアルツハイマー型認知症と診断され、抗認知症薬である「メマリー(メマスチン)」を処方されていた。メマリー錠は認知症の【中核症状に作用】して、認知症の進行を遅らせる薬だ。メマリーには強い副作用もある為、増量は慎重に行っていく必要がある。
これが「効いたのか?効かなかったのか?」と問われれば、私の母には「効かなかった。」と答えるだろう。では、「服用しない方が良いか?」というと、本人や家族にとって、ちょこっとでも、「良い作用」があるかも知れないなら、とりあえず、試す価値はあるだろう・・・程度だ。
認知症にはアルツハイマーだけでなく、他の認知症型もある、本人の体質もある、基礎疾患もある、そういった様々な条件下で、絶妙に調剤が適えば、もしかしたら、本人も家族も満足のいく薬効があるのかも知れない。
母にメマリー錠を服用させながら、「コウノメゾット」のレポートに出会った事で、悩まされていた症状の多くは、【中核症状】ではなく、【周辺症状】だと気づいた私は、主治医に相談し、鎮静作用のある医療用漢方薬「ツムラ抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒」を処方してもらい、これが母の周辺症状にはヒットしたらしく、だいぶ”おとなしく”なり、介護は一時的に楽になった。
だが、所詮は【周辺症状】を抑えているだけで、認知症の【中核症状】の進行は止められない。
周辺症状の沈静化でおとなしくはなったものの、私や父の介添えなしで、母が出来ない事は、次第に増えていった。
そもそも、「抗認知症薬」の、認知症の進行を”遅らせる”とは、何を基準にして”遅らせる”と言えるのか?そのロジックは?エビデンスは?
認知症の進行を「遅らせる」のではなく、「早めて欲しい。」とさえ思った。どう抗おうと、どうせ”その時”が来るのだから・・・。
母はもう、自分の意志で生きることもできず、死ぬこともできない。
それが苦しくて、不安で、毎日毎夜、足掻いている。
父も私も毎日毎夜、そんな母を看て、足掻いている・・・。
癌でさえ、早期発見が適い、「抗がん剤」で治療ができる時代に、何故、こんなに身近な「認知症」という病に立ち向かえる薬がないのか・・・。
”薬が効かないなら、これ以上、どうしろとっ?!”
母の処方箋を貰いに、クリニックへ行くたびに、そう思っていた。待合室では、いつも涙が零れた。
認知症に効く薬はない。
でも、もし、今、認知症を「根治」できる薬があったら、私は、その薬を父や母に飲ませるだろうか?同じ薬を夫にも飲ませ、いずれ自分も飲みたいと思うだろうか・・・?
認知症がもし、人間もまた他の生きものと同じ様に、自然に枯れて、土へと還れるように、神が人間の脳に仕込んだ”最後の砦”とするならば、抗認知症薬や認知症治療は、その「最後の砦」を撃破し、それこそ、「不老不死の世界」へと人類は導かれることになるだろう。
そんな世界を”良し”と考えるだろうか・・・。
一概に答えを出すことは難しい。
ただ、目の前の母は、既にもう生体的限界を迎えているのは確かだ。その母に、これ以上「抗認知症薬」を増量し、その効力を期待するなど、もしかしたら、無慈悲なことなのかも知れない・・・。
気がつくと、クリニックの待合室で、もう涙が出ることはなくなっていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?