拷問殺人ライブストリームサイト「レッド・ルーム」は実在するのか
「赤い部屋」と言われると江戸川乱歩かツイン・ピークスしか思い浮かばないのは私だけだろうか。
日本には「赤い部屋」という都市伝説がある。さらに1990年代末から2000年代初頭に開設されたとみられる同じ名前のFLASHで作成されたホラー動画も存在する。それらは以下のような内容だ。
「主人公は友人から、インターネットを利用中に消すと死んでしまうポップアップが存在する話を聞く。その後も家でネットサーフィンをするが例の広告はなかなか現れず、そのことも忘れかけていたときに噂のポップアップが出現する。
そのポップアップは赤い背景に『あなたは……好きですか?』との文とともに合成音声による機械的な声が流れる。
ついに見つけたことで噂を教えてくれた友人に電話してみるが、友人は電話に出なかった。ポップアップを消すが再び出現し、それを繰り返しているうちに何もしなくても勝手にクリックされ、広告に書かれた文の中央が割れ、別の文字が出現し『あなたは赤い部屋が好きですか?』という文章が現れた。
その直後に自動的にページは移動し、そのページには多数の人物名が書かれていた。ページの末尾に噂を教えてくれた友人の名があった。翌日、学校で2人の生徒が自殺したというニュースが流れる」つまりは都市伝説系の怪談だ。
その後、ネットにはクリックする度に「あなたは」「好きですか」の亀裂が広がっていくポップアップが実際に作られ、ビックリ系ホラーとしてネットに流れた。
少々長めの余談だったが、赤い部屋はそれらの内容を指すものではない。2010年ごろ、ダークウェブの世界から一つのサービスに関する都市伝説的なコンテンツの噂が発生した。
それは「RED ROOM(レッド・ルーム)」と呼ばれるdeep web上にあるサイトだ。これはユーザーがビットコインで一定の金額を支払い、ライブストリームを視聴するサービスだが、そのコンテンツはどこかから攫われた人が拷問や殺害される様子をオンラインで観るというものだ。
レッドルームはそのサービスが行われる部屋の色に由来していると言われている。なお、このサービスは参加者同士のチャット機能があったり、更に投げ銭を行うことで拷問者になんらかの指示ができるという話もある。
そもそも、レッドルームの視聴者はTor やI2Pなどの特殊なソフトウェアでサイトにアクセスする必要がある。レッドルームのありかがDeep webと呼ばれる特殊なインターネット空間にあるからだ。更に、それらのサイトも厳重なセキュリティ対策や、特殊な暗号化などを行っているために追跡がしにくいと言われている。
しかし、追跡も何もよく考えてみるとそんなサイトを運営していて逮捕されない理由は、そのユーザーが絶対に口外しないという理由以外存在しないはずだ。
現実に「デイジーズ・ディストラクション」を作成した超絶変態ペドフィリアのピーター・スカリーのサイトは同じ趣味を持つ変態によってネット上でその存在が共有されたし、それにより身元がバレている。そう考えるとすでにレッドルームの存在はやや現実的ではなくなってきた。
さらに、Deep webの技術的制限により、ライブビデオをストリーミングすることはほぼ不可能であると言われている。これは技術的な問題で、匿名化のためには回線が遅くならざるを得ない。そのため、もしライブで映像が見れたとしても解像度が低くなり、カクカクした画素の荒い動画を、運が良ければ見れるという程度だ。そんなクオリティの低い動画に高い金を出してまで見たいかどうかがかなり怪しいのだ。
これらレッドルームを冠するサイトたちの支払い分析によると、実際にこれらのサービスに料金を支払っている人はほとんどいないということがわかっており、Torに散在するレッドルームはビットコイン狙いの詐欺サイトである可能性が高いと分析されている。実際にレッドルームのURLをコピーしたサイトが大量に存在することもわかっているからだ。
なお、レッドルームの相場はダウンロードビデオだけでも0.2bitcoin(現在の日本円でおよそ200万円)、会員になるには一番安くて0.2~0.5bitcoinで最も上のグレードは一番上のもので5bitcoin(同じく現在の日本円で約5000万円)もかかり、なんせ高すぎる。
これほどの大金払って画質が悪いライブ映像を見たい人はかなり奇特だ。しかも、こんな大金を払うことができるなら個人でスナッフビデオの作成を依頼できそうなものだ。
ただし、非合法な人間たちとの関わりを持つことのリスクを負うことになる。そう考えれば依頼者と業者の間に入るレッドルームは一定の需要があるのかもしれない。
人間の想像は誰かによって必ず実践されていると私は考えている。カネのために殺人を娯楽化して誘拐する人間はいるはずだが、それが可能なところは生命の値段が安い国であることは確かだ。
2人の若者が21人を殺害したうえ、販売のために殺害の様子を撮影した「ウクライナ21」も、フィリピンで逮捕されたピーター・スカリーの作成した子供に拷問する映像も、大きな概念からすればレッドルームであるとも言える。レッドルームの存在は半ば都市伝説化しており、実際の映像も確認されていない。「見た」と主張するものもいるが、本物とされる映像はこれまでどこからも流出していないのだ。
2015年、あるハッカー集団がレッドルームを発見したと主張し、ライブスナッフフィルムを映したとするビデオを公開したが、そのビデオは後にデマであることが判明している。
狭義のレッドルームは過去には「スナッフ・フィルム」としてその存在を噂されてきた。映画「スナッフ」「ホステル」や「8mm」「フッテージ」「肉だるま」「ギニーピッグ」などに代表され、変態性癖を持つ富豪により大金をかけて作成されるという基本ストーリーをベースに1980年代から1990年代に都市伝説として噂された。
しかし「ウクライナ21」まで本物のスナッフフィルムが観測されることは現実としてなかった。
これらスナッフフィルムがずっと噂されるのはなぜだろうか。深層のウェブでは多くの不穏で違法な活動が存在していることからそう考えるのであろうか。
もしくは、内紛やテロ、事故やマフィアの抗争による実際の殺人・死体映像が現在ではスマートフォンでいくらでも撮影され、インターネットにアップロードされている。そういうゴア・サイトを見ている人からすれば、「人がリアルタイムに死ぬのを見たい人間が絶対にいるだろう」と確信しているからだろうか。
確かに、犯罪者への拷問や死刑は中世では一つのエンターテイメントとして公開されていた。法を犯すことへの見せしめでもあっただろうし、不満へのガス抜きの効果もあったのかもしれない。ここで死刑の歴史を語る気はないが、古代から死は一つのエンターテイメントだった。形を変え、現在はレッドルームとなったのかもしれない。
少し余談だが「殺人のライブ映像」としてレッドルームを捉えず、「拷問や虐待の映像配信」として見るなら、スカリーの作品「デイジー・デストラクション」を世に広めた男、マシュー・デイヴィッド・グラハムの事件が記憶に新しい。2015年、当時彼は22歳のオーストラリア人学生で、13件の児童ポルノ容疑で有罪を認めている。
検察は、この男の持っていた生後18か月の少女への暴行を映したビデオを「これまでに見た中で最悪のものの一つ」と言わしめたほどだ。
グラハムは表向きは18歳から大学生活を送りながら、両親とともに静かな生活を送っていた。彼は「ラックス」という名前で、フォーラムやサイトの管理を行なっており「ハートコア」と呼ばれる児童ポルノの中でもさらにひどいものを提供していた。
「ハートコア」は乳児や幼児に肉体的苦痛を加えるというジャンルのポルノである。彼のウェブサイトは「Hurt 2 The Core」「Love 2 The Core」と呼ばれ、メンバーシップの条件として一定数のビデオをアップロードすることが求められていた。
2013年6月の Hurt 2 The Core の掲示板のトピックは「ダミー向けの児童ポルノの制作」「幼児児童ポルノのスター」「泣き叫ぶレイプ」「脅迫された少女のためのアイデアが必要」などがあった。
報道によると、11歳未満の少年少女は性奴隷として4000ドル(60万円ほど)で「レンタル」でき、10000ドル(150万円ほど)で「購入」でき、サービスは、メキシコで運営されていた。
結局これらの逸脱した行動はFBIの児童性犯罪者最重要指名手配者に名を連ねることになり、オーストラリア連邦警察、ビクトリア警察、カナダ警察、ユーロポールにより88件の罪で起訴され、南オーストラリア州地方裁判所の判事によって懲役35年の判決を受けている。
このように、変態的で偏りの強すぎる違法なサイトはディープであろうがダークであろうが必ず摘発される。闇が深すぎるために濃い黒が返って目立つのだろう。
なお、レッドルームの発祥はすでに判明している。そのサイトは2015年に突然ダークウェブ上に出現し、レディットの住人が「おい!これマジかよ??」というタイトルとともにURLを投稿したことから拡散した。
貼り付けられた.onionアドレスをクリックすると「ようこそ!」という歓迎文と、特定の日付を指し示したカウントダウンが表示される。
そこにはこう書かれていた「あなたはこの世の最悪をまだ見た事がない」
そのサイトは無料のストリーミングサイトらしく、捕らえたISISの兵を拷問する様子をライブストリーミングし拷問の内容をチャットで指示できるという説明文が載っていた。期限が設定されており「ISISの豚どもはベーコンになるだろう」と書かれていた。
このサイトは「ISIS red room」と名乗り、このサイトが本物かどうかレディットでは議論が続けられたが、視聴しようとしたものたちが待つ中、カウントがゼロになる目前にサーバーはダウンした。
その1時間後、サイトは何事もなかったように復活し、「たくさんの参加と指示をありがとう。配信は無事終了しました。配信内部の一部をアップロードします」とトップページにURLが貼られた。
そのアドレスにアクセスしても激しいバッファリングのせいで動画はまともに映せないレベルの代物だったそうだ。
動画は20分弱で、白いフードを被った男が一室にうずくまっているところから動画は始まる。そして、薄暗い部屋の隅にパーカーのフードを被ったアラビア訛り風の男が現れ、何かを話した後、ベーコンが盛り付けられた皿を机の上に置き、ベーコンで男をペチペチと叩いたり無理矢理食べさせたり、ハンマーのようなもので叩いたりするという馬鹿げたものだったようだ。
どうやら「レッドルーム」という言葉はここから発祥したようだ。
レッドルームは「あるのかもしれない」し「ないのかもしれない」としか言えない。そのグレーなところが何とも面白い。
もしあったとしてもそれはほぼ密閉された限られた人間しか入ることのできない部屋だろう。おそらく紹介など指名でしか参加できないような一蓮托生な会員制でないとその秘密保持は不可能だろう。そうでなければ簡単にネットでは摘発される恐れが高いからだ。
ましてや、技術的にもストレスのないライブストリームは難しく、仮想通貨を使ったとしてもその匿名化には限度がある。変態消費者たちはある程度信頼できるコミュニティの中で購入するか、自分のセキュリティとステルス機能を上げて購入するしか方法がないだろう。
ゆえに信頼できる超金持ちの極限変態の集まりは存在するかもしれないが(口外が死に直結するような)カネを払えば買えるという安易なサイトはただの詐欺である可能性が高いと言える。
人の欲望の衝動は見境がない。人の妄想できうることは存在しうる。どこかにあるのかもしれないし、ないのかもしれない。需要がある以上は供給が存在するのが資本主義の妙だ。それはホラー映画のように魅力的に人を惹きつけるが、何のことはない、中身はただのクソ変態の集まりだ。