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【雑記】うなぎ売り場で立ちすくむ

我が家は、地上80フィートの、コンクリートにおおわれた建物で、近隣第一の格安物件だといわれる。
その東側の一角はマサイ語で、“俺の家”(ナヌエ・ヌガイ)と呼ばれ、そのベランダに、ひからびた一匹のダンゴムシのが歩いている。
こんな高いところまで、その節足動物が何を求めてきたのか、今まで誰も説明したものはいない。

ベランダに現れたダンゴムシに狼狽える妻を後目に二度寝に入ったのは日曜日の午前9時であった。
日曜日の午前9時の二度寝というのは甘いものだ。妻がそのダンゴムシをいじめたりしないでほしいと思いながら私は鰻を食べる夢を見た。

鰻は私の好物であるが食べるのは年に三度以内である。高いのだ。この年になるまでついに一度も鰻を自腹で食べたことはない。
鰻はうまい。絶滅危惧種のくせに。食べるたびに私は感動する。しかも他人の金で食べると一層に。

目が覚めると私は妻に「鰻を食べたい」と訴え昼食代として1000円を得た。
意気揚々と近所のスーパーの鰻コーナーへ行く。
しかし今どき1000円で買える鰻などないのだ。吉野家だって1000円では鰻は食べられない。この物価高は鰻価格までまさに鰻登りに釣り上げた。
売り場を何度も見返し1000円で買えるものはないかと探したが見当たらない。
未練たらしく鮮魚コーナーをぶらつき明太子としらす干しを買って帰った。
更に未練たらしく蒲焼のタレを作り豚バラ肉に絡めて焼き、山椒をふって食べた。美味かった。
甘ダレと山椒があれば大体は鰻だ。

満腹になったので図書館で「フィガロの結婚」のDVDを借りてきて観る。唐突にオペラに興味がわいてきたのだ。
こういった突発的な興味は大体数ヶ月でおさまるが、しばらくはハマりそう。

ダンゴムシ、鰻、モーツァルト。
デタラメな日曜日である。


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