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今季のイリアス 23-24 「決断」


ビジャレアルCF

7月3日、イリアスのビジャレアル加入が発表された。

ビジャレアルは昨季ラリーガ5位、カンファレンスリーグベスト16。20-21EL優勝、21-22CLベスト4と躍進させたウナイ・エメリが10月下旬アストン・ヴィラに引き抜かれ、FCバルセロナ(以後バルサ)で意気消沈し監督業引退したはずのセティエンが後任となった。結果的には就任時から順位を2つ上げて、EL出場権を獲得した。

23夏の移籍市場ではCBパウ・トーレス、右WGチュクウェゼ、CFジャクソンがステップアップしていったものの、計算の立つ代役を獲得したのはCFセルロートのみ。直近2シーズン怪我がちで稼働率の低かったジェラール・モレノが右WGの穴を埋める予定であった。

また、ビジャレアルBは昨季ラリーガ2部18位で残留に成功。イリアスにとってはBチームであっても3部所属バルサ・アトレティック(FCバルセロナのBチーム、以後バルサAt)から個人昇格できる、移籍先候補に挙がっていた中で最良の選択をしたと思う。

スペインの10番キャプテンとして4試合2(+2)アシストとU-19EUROを戦い終えて、翌日14日スイスキャンプに到着した。コンディションの上がっている状態で合流し、4日後のチーム2試合目となるプレシーズンマッチに早速出場した。

しかし、もう1試合終えた後に左膝を負傷。公式戦同等レベルの強敵と対戦するプレシーズン後半でアピールできず、ラリーガ開幕戦にも間に合わなかった。

金曜開催の第2節マジョルカ戦で77分から途中出場しビジャレアルでの公式戦デビューを果たすと、月曜開催のエルデンセ戦にスタメン出場でBチームデビュー。負傷明けながら中2日で2試合合計80分間プレーした。

1度目のバルサ戦

8月27日、第3節で早くも古巣対戦がやってきた。

両チーム前半に2点、後半にも1点ずつを取り合って3-3で迎えた70分、ピッチ上で再会する時が来た。だが、投入直後に失点してしまい、3-4で打ち合いに敗れた。個人でもイリアスはガビにことごとく阻まれて仕事をさせてもらえず、04の同期対決で2年間トップレベルで戦ってきた経験の差を見せつけられた。

U-21スペイン代表

U-21EUROは隔年開催であり、予選開始年に21歳以下になる選手に出場資格がある。25年大会に向けたU-21スペイン代表の発足メンバー23人にイリアスも選ばれた。

他の選手と比べて実績では劣っていたものの、22年までのU-19代表在任時に飛び級招集やキャプテン任命をしてくれたサンティ・デニア監督からの大きな信頼を感じる選考であった。

9月は予選2試合にスタメン出場。1試合目のマルタ戦では1G1Aを記録した。

10月もメンバー入りし、親善試合のウズベキスタン戦で3試合連続スタメン。完全にレギュラー扱いかと思われたが、予選のカザフスタン戦で突如ベンチ外。90分の得点後にスタンドへ駆け寄ってきた代表内唯一の同期サム・オモロディオンと交わした抱擁にどんな思いが込められていたのか、1か月後に知れ渡ることとなる。

監督交代

第4節カディス戦に1-3で敗れてラリーガでは1勝3敗の15位、プレシーズンマッチも含めると2勝2分7敗となり、セティエンがラリーガ監督解任レースで1着フィニッシュした。

エメリから突然引き継ぐことになった昨季とは異なり準備期間もちゃんとあった中、主力3人が退団してもそのまま4-3-3で戦い続け、成績は当然ながら昨季を下回った。夏の補強が消極的だったのも、フロントがセティエンの手腕に疑念を抱いていてスカッド編成にあまり関与させなかったからなのだろう。

まだ9月上旬、ビジャレアルの手が届く範囲で優秀な監督はなかなか空いていない。結局、1部では残留争いしか経験したことのないパチェタが後任に選ばれた。

パチェタはまずフォーメーションを4-4-2に変更。ピノが右SHの1stチョイスとなったものの、近年はチュクウェゼと共存していて左サイドの方が快適そうだった。

第9節ラスパルマス戦、ピノが前半のみで負傷交代してしまう。2点ビハインドの66分にイリアスが投入されると、91分にビジャレアル&1部での初アシスト!

さらに95分、ドリブル突破を腕で止められPK獲得かと思いきや、ここはシミュレーションの厳しい判定。1-2のまま追いつけず試合終了となったが、終盤の攻勢に大きく貢献した。

第11節グラナダ戦でビジャレアルでの初スタメンを飾ると、そこから公式戦4試合連続スタメン。次第にチームメイトから実力を認められて、攻撃に絡めることが増えてきた。

パチェタの指揮の下、ELは2勝1敗と勝ち越してグループステージを折り返した。しかし、ラリーガでは2勝3分3敗の13位とチームが上向かず、パチェタはわずか2か月で解任となった。

モロッコ国籍選択

11月10日、U-23モロッコ代表のスカッドリストにイリアスの名が載った。

18年にU15へ招集されて以来5年ぶりの復帰となる。同世代のスペイン代表にも呼ばれていた中でモロッコ入りに応じたことは、この国籍変更が不可逆的な決断であることを意味する。

このタイミングで代表国籍を変更した理由は主に2つだろう。
1つ目はパリ五輪までにU-23代表チームへ組み込むために、これ以上待つことはできなかったから。
夏にU-23のアフリカネーションズカップ(以後AFCON)があり、開催国だったモロッコはアブデを中心に優勝。パリ五輪予選を兼ねた大会で、最高の結果で本戦出場権を獲得した。
今季の代表ウィークは11月、3月、6月の残り3回。その後は大会前合宿を経てパリへと向かうことになる。

2つ目は9月にヤマルスペインA代表に招集されたから。
モロッコにルーツを持つ選手をリストアップしている中で、バルサの育成組織ラ・マシア出身の左利きで現時点では右WG、似通ったプロフィールを持つ逸材2人を両方とも逃すわけにはいかなかったのだろう。
イリアスは世代別代表のうちは育ててくれたスペインに義理を果たすつもりだったのかもしれないが、9月以降にモロッコから熱烈なアプローチを受けて決心がついたようだ。

早速U-21デンマーク代表との親善試合に先発したものの、0-3で敗戦。

マルセリーノ就任とピノの大怪我

ビジャレアルは今季2度目の監督交代で、マルセリーノが7年ぶりに戻ってきた。

エメリ引き抜きから1年、ついにビジャレアルの格に相応しい監督が就任した。

しかし、第2次マルセリーノ政権を最初から困難が襲う。先月の負傷が治ったばかりだったピノが、今度は左膝前十字靭帯断裂の大怪我で今季絶望。代表クラスのアタッカーをいきなり1人失ってしまった。
1月に冬の補強ができるまで、本職右SHはイリアスのみ。加入から4か月、クラブでのキャリアを左右するビッグチャンスが早くもやってきた。

他クラブより早く代表ウィークが明けて、ミッドウィークのコパデルレイ2回戦サモラ戦から週2試合ペースの9連戦が始まった。
イリアスはELでスタメン起用されていくと、グループF第4節パナシナイコス戦で1アシスト。

そして、第6節レンヌ戦でついにビジャレアル&ELでの初ゴール!
3-2での勝利とグループ首位通過につながる、価値ある得点を決めることができた。

その貢献が認められ、ラリーガ第17節レアル・マドリー戦から連続スタメン出場が始まった。
マドリー戦では、バエナとジェラール・モレノが負傷してしまった前半、チームのシュート2本共に自らのカットインから放つなど唯一の攻め手となった。得点を生み出したわけではないのでマッチアップで勝利したとは言い切れないが、マドリディスタに「対人無敵」と称されるフェルラン・メンディをハーフタイムで交代に追いやった。

第19節バレンシア戦ではビジャレアル2024年初ゴールをアシスト。
コパデルレイ3回戦ウニオニスタス戦は82分にイリアスのゴラッソで先制したものの守りきれず、照明トラブルで延長以降が翌日に延期され、結局PK戦で敗退した。

マルセリーノが指揮を執り始めた第14節から、ラリーガでは2勝2分4敗。クリーンシートなしの18失点でマルセリーノ印の4-4-2ブロックによる堅守は未だ築けず、連戦での疲労から負傷者も続出して苦しいチーム状況に陥っていた。
そんな中でもイリアスは気張って戦い続け、難しい試合展開になってもドリブルでの打開を期待してボールを預けてもらえる存在になってきた。

2度目のバルサ戦

1月27日、第22節で2度目の古巣対戦がやってきた。
バルサの左SBは06年生まれのエクトル・フォルト。昨季UEFAユースリーグで右サイドの縦関係だった2人が、1年3か月を経てマッチアップすることになった。

1-0でビジャレアルがリードして前半を終えると、バルサは後半からフォルトに代えて負傷明けのカンセロを投入した。元々守備に難があり、状態も万全ではないカンセロに必ず隙が生じると、イリアスは狙っていたのだろう。54分、GKヨルゲンセンからのロングボールにセルロートとクバルシが触れず、DFラインの裏で弾んだボールをカンセロがクリアミス。イリアスがそれを逃さず入れ替わると、GKペーニャを左に交わして無人のゴールへ流し込んだ。

余計な力が入っていたのだろうか、得点後すぐに脚を攣ってしまい58分に交代となった。
その後バルサが3連続得点で逆転、さらにビジャレアルが3連続得点で再逆転して、5-3で試合終了。後半だけで合計7得点の珍しい打ち合いだったが面白さはなく、両チームともにスカッドも戦術もボロボロなのが分かってしまう試合だった…

試合後、イリアスは地元の家族・友人ら応援団に見送られてピッチを後にした。

一方、バルサのチャビ監督は今季限りでの辞任を発表。
イリアスのラリーガ初ゴールが、13年間育ててくれた古巣バルサ相手に、初陣に大抜擢でデビューさせてくれた恩師チャビに引導を渡す5点の一部になるなんて、いったい誰が想像しただろうか…
(その後、チャビは続投→解任。去就を二転三転させたバルサのフロントにはただただ呆れるばかりである。)

冬補強の成果

ビジャレアルは1月にCBのバイリーとイェルソン・モスケラ、FWゲデス、右SHベルトラン・トラオレの4選手を獲得した。そのうちバイリーとゲデスはマルセリーノの指導を受けた経験があり、冬の移籍市場で求められる即効性を期待できる人選だ。

さらに、マルセリーノがバレンシア時代に主力として重用していたMFコクランも長期離脱から復帰。CMFはパレホ&カプエのベテランコンビが控えに回り、コクラン&コメサーニャがスタメンとなって強度が上がった。

こうして選手層が厚くなったビジャレアルは1月後半から7試合無敗。イリアスも12月中旬から公式戦12試合連続スタメンで貢献した。

第26節ソシエダ戦3-1、27節グラナダ戦5-1と、直近2試合は復調を予感させる快勝であった。

EL決勝トーナメント

3月、ついにELの決勝トーナメントが始まる。
ラウンド16の相手はマルセイユ。今季序盤にCL予選敗退など成績が振るわず、ウルトラスが会長らに辞任するよう脅迫。この一件により国外初挑戦が早々に頓挫した、マルセリーノにとって因縁の相手である。

アウェイでの1stレグ、マルセリーノはDFラインに本職SBを起用せず4人のCBを並べ、セルロートの相方となるFWにジェラール・モレノではなくゲデスを選んだ。しかし、4CBでは足元が拙くなり、ハイプレスを受けて前線までボールをつなげることができず、前半のみで3失点。堅守速攻を狙ったゲームプランは大外れになってしまった。
後半も、開始から投入した左SBアルベルト・モレノがわずか17分で退場してしまい、為すすべなく0-4で折り返した。

1週間後の2ndレグ、マルセリーノは4点ビハインドを追いかけるため奇策に出た。お馴染みの4-4-2ではなく4-3-3を採用し、左からゲデス、セルロート、ジェラール・モレノの3トップには守備時も前残りを許可した。ホームのサポーターも一体となり圧力をかけて、リラックス気味だったマルセイユを混乱に陥れた。
シュート25本の猛攻で32分、54分、そして85分に得点しあと1点まで追い詰めたものの、94分に失点して万事休す。同点・逆転はできなかったがビジャレアルの誇りを示して、ベスト16でELを終えた。

モロッコA代表

モロッコA代表は2022カタールW杯でアフリカ勢初ベスト4を達成したものの、今年1月のAFCONではベスト16と期待外れな結果に終わってしまった。来年の自国開催のAFCONや再来年の北中米W杯に向けて、3月の代表ウィークでは親善試合2試合で新戦力の発掘と融合を試みた。

最大のニュースとなったのはブラヒム・ディアスの国籍選択。今季レアル・マドリーに復帰し徐々に存在感を高めてきた攻撃的MFの争奪戦で、モロッコがスペインを制した。
この4か月ビジャレアルで多くの試合にスタメン出場してきたイリアスも、活躍を認められてA代表にメンバー入りを果たした。

アンゴラ戦で87分から途中出場しデビューを果たすと、続くモーリタニア戦でも14分間プレーした。
6月の代表ウィークでもA代表に招集され、W杯予選コンゴ戦で公式戦デビューとなった。

一方、五輪開催年ながらU-23代表にはまだ参加できていない。それでもパリ五輪に参戦するのか、連携面はどうなのか、気がかりなところである。

(AFC3=アジア3位はイラク。)

欧州コンペティションを目指して

トラオレの適応と4-3-3のオプション化により、3月はイリアスの出場時間が短かった。
それでも第31節アトレティック・クルブ戦でPK獲得シーンの起点になって数的不利からでも同点に追いつくことに貢献すると、翌第32節アルメリア戦では20歳最初の試合で先制点を決めて、スタメンの座を奪還した。

ビジャレアルは9位まで浮上し、7位ベティスとの勝ち点差6、6位ソシエダとの勝ち点差9と、残り6試合に全勝できれば逆転も不可能ではないところまで差を詰めてきた。

第33節ラージョ戦は3-0で完勝したが、第34節セルタ戦で不要な退場&PK献上による痛恨の敗戦。
第35節セビージャ戦には劇的な逆転、第36節ジローナ戦はウノゼロで連勝したものの、第37節レアル・マドリー戦に引き分けて8位フィニッシュが確定した。前半は守備が崩壊して1-4、後半48~56分の8分間で3得点の怒涛の追い上げ、しかし目標には届かず、今季を凝縮したような試合だった。

来季への課題

イリアスはビジャレアルのトップチームで39試合出場(24試合スタメン)4G5A
昨季は3部で23試合1Gに留まり、今季は2部のBチームで主力になれたら十分だと思っていたが、想像を大きく上回るシーズンとなった。仕掛けることすらなかなかできなかった2シーズン前を思うと、長所であるドリブル突破が1部でも脅威を生み出すようになったのは大きな進歩だ。

ただ、自分でドリブルしていいのか、味方を使うべきなのか、判断が遅いシーンはまだまだ多い。1対1の局面を許容してくれる強豪相手よりも、なるべく早く1対2の数的優位を作って対応しようとする下位チーム相手の方が苦戦する傾向がある。
また、守備では同じ右SHでも4-1-4-1より4-4-2のほうがタスクが複雑である。プレスをかける角度やリトリート時のポジショニングが甘く、特にシーズン中盤は自身の右サイドを崩されて失点することも多かった。

来季のビジャレアルは世代交代の年となるだろう。攻撃陣でもモラレスの退団が発表された他、レンタルのゲデスや半年契約のトラオレが残留するか未定である。さらに、ラリーガ得点ランキング2位のセルロート、アシスト王のバエナにはステップアップの可能性がある。
新たなサイクルが始まっていく中で、イリアスは課題を克服しより大きな存在になっていきたい。

ビジャレアル所属のラ・マシア卒業生

バルサのトップチームで希望になれる有望株を探すためにラ・マシアを見始めたが、しだいに「1人でも多くの卒業生がプロサッカー選手として生き残ってほしい」という思いのほうが強くなっていった。
最後に、イリアスだけでなくラ・マシア(バルサAt以下)在籍歴のあるチームメイトも、今季から合わせて紹介していきたい。

No.1 ペペ・レイナ

41歳 GK 12試合3クリーンシート

昨季後半は正GKだったが、今季は再びカップ戦要員に。
Bチームから昇格してきたヨルゲンセンがラリーガのセーブ王になったのを見届けて、お役御免となり退団。
現役を続行するらしい。

No.5 ホルヘ・クエンカ

24歳 CB 37試合3G1A

左利きCBとしてパウ・トーレスの穴を埋めるところまではいかず。
今季終盤には左SB、しかも後方に留まる守備的SBではなくサイドをアップダウンしてクロスを上げる従来型SBとして起用され、新境地を開拓中。

No.14 マヌ・トリゲロス

32歳 CMF 22試合3G

ビジャレアルの2部時代から主力を担ってきたが、直近2年は出番が減少。
カップ戦ではキャプテンマークを巻く試合も多く、コパデルレイ1回戦ではキャリア初のハットトリック。

No.17 キコ・フェメニア

33歳 右SB 29試合1A

フォイトが負傷離脱してもあまり起用されないほど序列が低かったところから、今季後半に復活。
右サイドで後方支援に徹してイリアスにのびのびとプレーさせた、ベテランらしい働きぶり。

No.22 デニス・スアレス

30歳 CMF 5試合

昨季後半エスパニョールへレンタルの後、セルタから7シーズンぶりに復帰。
セティエンはピボーテ起用を試していた。
9月下旬から負傷離脱、今季終了後に完治の報あり。

No.26 アドリア・アルティミラ

23歳 右SB トップチーム11試合 Bチーム27試合1A

アンドラから加入。
フォイトの負傷離脱により今季中盤はトップチームでチャンスを得たが、イリアスとの若い右サイドは守備面が脆弱だった。
シーズン後半はBチームに戻るも、残念ながら最下位で3部降格。
2026年まで契約延長。

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