'20メルカート(移籍市場)の雑感

今回はFC岐阜の‘20シーズン冬のメルカート(移籍市場)に関する雑感です。

‘19シーズンにクラブ史上初のJ3降格を喫し1年でのJ2復帰を目指す今シーズンですが、冬のメルカートでのテーマは大きく分けて2つに絞られていたと言えるでしょう。1つは主力選手の慰留交渉。そして2つ目は、その上で足りない部分の戦力補強と昨季ピッチ上で弱点となっていた部分の強化です。

近年の傾向として、J1からJ2に降格したクラブは比較的充実したオフシーズンを過ごすことが多くなっています。これはJ2のブランド価値が上昇し、以前よりJ2でのプレーに抵抗を感じる選手が少なくなって来ていること。また、J1でのプレーを目指す選手達にとってはJ2で確実に上位争いに加われる降格クラブが魅力的に映ることが理由となっています。

しかし、J2からJ3に降格したクラブに関してはこの限りではありません。‘14に創設されたJ3は歴史が浅く、成熟されたブランド価値が高いリーグとは言えません。また、参加しているクラブの予算規模がまだまだ小さいこともあり練習場やクラブハウスなどの環境面、年俸などの待遇面に上位リーグとの差が大きくあり上を目指す選手達にとっては魅力的なリーグと呼べないのが現状となっています。

これはクラブをスポンサードする企業にとっても同じで、メディアへの露出が少ないJ2よりも更に状況が悪いJ3を支援する意味はどうしても薄くなってしまうのが現実です。更にJリーグから貰える配分金と呼ばれるものもJ2クラブは1憶5千万円、J3クラブは3千万円とその額には大きな隔たりがあります。この為、J3への降格クラブは資金集めで苦労することが多くなります。当然、先に挙げたブランド価値低下に加え資金が集まらない環境となる=選手の慰留&獲得に苦戦するという図式が成り立ってしまいます。
しかし、’17より「降格救済配分金」という制度が出来たためFC岐阜は今季のみ1憶2千万円と他J3クラブの4倍の配分金が受け取れます。これはチームを編成する上で大きなアドバンテージとなるでしょう。また、営業部など間接セクションの努力もありメインスポンサーである日本特殊陶業をはじめとした各企業からの支援継続。ユニフォームは全て広告が埋まるなど当初予想されていたよりも良い環境で‘20シーズンをサポートして頂けることが決定してます。もちろん「降格救済配分金」は今季限りのものであり、今季のJ3での成績次第では各企業からの支援体制に変化が出てくることも予想されます。つまり資金的にも戦力的にもJ2復帰が出来る可能性が1番高いのは今シーズンであり、それを果たせなければ今までJ3に降格し、なかなか抜け出せない他クラブのように負のスパイラルに陥ってしまうことが容易に想像できてしまいます。

と言う訳で今冬のメルカートは非常に苦戦が予想される中、先ほど挙げたようにまずはどれだけの主力選手を慰留できるのか。その上で、残ってくれた戦力を考慮し昨季のウィークポイントをどれだけ埋めることが出来るのかが焦点となりました。ここからは、この2点を基準として個人的な補強の雑感と評価を記していきたいと思います。評価はA・B・C・D・Eの5段階評価としました。ただし、他クラブとの戦力比較ではなくあくまでも上記の2点を判断基準としています。

■各ポジションのメルカート評価・雑感(2020/1/21現在)

【GK・・・・・C】
ビクトルとジーバースの2枚看板を擁し岐阜のストロングポイントとなっていたポジションだが、この2名が契約満了となったのは非常に大きな痛手だろう。代わりに獲得したのは、松本(秋田)とパク(愛媛)になる。松本は過去5年間秋田で主力として活躍したGK。昇格争いのライバルクラブから引き抜けたのは大きい。秋田での優勝経験を含む豊富なJ3での経験と足元の技術はチームにとって大きな武器となるはず。30歳という年齢だがGKとしては脂が乗ってくる時期。悪くない補強と言える。彼がレギュラー争いの中心になると思われる。パクは192㎝の大型GK。23歳と若いが過去5シーズンに渡り愛媛に在籍し‘17シーズンには41試合に出場した実績と経験を持つ。日本への適応に心配はなくサイズも魅力的。岡本と原田の2名とも契約を更新した。ゼムノビッチ新監督は最後尾からのビルドアップを要求すると考えられるため、大木前監督から薫陶を受けた彼らにもポジション獲得のチャンスは十分にあるはず。パク・岡本・原田の3名がレギュラーを脅かす存在になれるようだと面白い。主力選手を失ったものの最低限の補強は出来たと言えるだろう。


【CB・・・・・B】
守備の柱である竹田・甲斐との契約更新に成功。特に甲斐は年齢的にも若く多くのJ2クラブから狙われていたと思われるため、チームに残せたことは大きな成果と言える。今季は本来のポジションであるCBでの起用が予想され、真価を問われるシーズンとなりそうだ。その他にも、北谷・藤谷の2名と無事契約更新を果たしヘンリーとはレンタル延長。夏以降に獲得した當間と横山は満了となったものの大きな影響はでないと考えられるが、在籍年数が長くクラブの顔の1人であった阿部が退団という形でチームを去ったことは誤算だった。おそらく複数年契約の途中だったが選手側の希望により契約解除となったと予想される。一方、新加入は橋口(宮崎)の1名。JFLからの入団でJリーグでの実績はほぼゼロだが、190㎝とサイズに優れた大型CBで左利きという素材型の選手だ。このタイプは日本サッカー界では希少な存在であり、試合に絡めるようだと大きな武器になるだろう。ゼムノビッチ監督は4バックを宣言しているため、CBが6名という体制は編成のバランスが悪いようにも感じるが昨季に主力・準主力を務めた選手を軒並みチームに残せたことは評価できる。竹田と甲斐に他の4名が挑戦する形となるだろう。競争が激化していくなかで全体の底上げ・成長が期待できそうな雰囲気だ。藤谷・ヘンリー辺りはSBでの起用も有り得る。3バックも視野に入れられる充実したポジションとなった。

【SB・・・・・B】
昨季のウィークポイントとなったポジション。大木体制では怪我などによりレギュラーを固定できず、北野体制では4CBを採用し藤谷・甲斐を両サイドに配置したが戦術的に成功したとは言えなかった。その中でも出色のパフォーマンスを見せ流出の危機もあった柳澤と更新できたのは大きく、良いニュースである。また、会津との契約も更新。昨季に大怪我を負ったが、ある程度ボールを繋ぐサッカーが継続されると思われる今季はコンディションさえ整えば戦力となるだろう。そして、このポジション最大のニュースは橋本(神戸)の獲得となる。そのキャリアの殆どをJ1で過ごした左サイドのスペシャリスト。元日本代表候補が持つ豊富な運動量と正確なピンポイントクロスは、サイド攻撃を特徴とする新監督にとって外せないものとなるはず。右サイドは柳澤、左サイドは橋本でほぼ決まり。J3随一の両サイドを持ちストロングポイントになる可能性が高いが、タビナスがレンタルバックとなったため控えのSBは会津のみ。重傷からの復帰となるため、コンディションがいつ整うか読めない部分も多く控え選手に不安が残るのが唯一の欠点か。他ポジションからの選手起用も十分に考えられるが、前述の通りCBからのコンバートなら藤谷・ヘンリー。MFからなら長倉・三島辺りが候補になると思われる。

【DMF/CMF・・・・・D】
中盤の要であった宮本が清水へレンタルバック。同じく塚川も松本へレンタルバックとなった。潜在能力の高さには定評があった市丸もG大阪へ復帰。小野、チョン・サネと青木の3名も契約満了となった。中でもJ3であれば屈指のプレーメーカーになったと思われる小野の契約満了は予想外だった。昨季主力としてこのポジションで活躍した選手は軒並み退団となるなど苦しい展開が続いた。長倉・三島・中島・ハムの4名とは契約を更新。準主力として起用された中島・ハムも明確な結果を残せなかったが、新加入は大卒の大西(法政大学)の1名のみ。即戦力ルーキーとしての呼び声も高くレギュラー候補の一角を担う可能性も大いにあるが、新人に過度な期待を掛けざるを得ない状況は決して良いとは言えないだろう。中盤を最重視するゼムノビッチ新監督の心臓となるポジションとしては、質・量ともに満足のいく編成とは評価できないか。契約更新した選手の中から、殻を破り急成長する選手が出てくることが期待される。

【OMF/CMF・・・・・A】
何と言っても、大分へのレンタルバックが濃厚と思われていた川西のレンタル延長に成功したことが最大のトピックと言える。‘19シーズンのMVPとも言える程のインパクトを残し、残留争いに苦しむチームで別格の働きをした彼を慰留できたことは今メルカート最大級のグッドニュースである。所謂生きるシチュエーションが限定されるタイプのため監督によって好みが分かれる選手ではあるが、J3では力が違うだろう。大いに期待できる。また、永島との契約更新にも成功。こちらも得点能力が高い選手。4-2-3-1であれば川西をサイドに回しトップ下のレギュラーを取ってもおかしくはない。この2人に中島・三島が挑む形になると思われる。フレデリックと風間がチームを去ったのは痛手だが、良質な選手を残すことに成功した。枚数の面では多少不安が残るものの、継続性という点では高評価して問題ない。4-1-2-3、4-2-3-1のいずれになるかは不明だが、攻撃的ミッドフィルダーは今季のストロングポイントとなると言える。

【WG/SH・・・・・C】
薮内とミシャエルが満了となったが、村田と富樫という若くチームのアイコンになる可能性を秘めた両翼と更新を果たしたのは非常に大きな成果だ。特に富樫はJ3での実績も抜群でチームの中心になるべき存在である。‘19シーズンは怪我でほぼ1年間を棒に振ったものの能力的には飛びぬけた選手となる。コンディションが整い状態が戻るようだと大きな武器となるだろう。村田も怪我がちであったものの出場した試合ではインパクトを残した。今季は目に見える結果が欲しいところである。とは言っても本職がこの2名のみでは心もとない。前述の通り富樫は開幕にどの程度間に合うのか不透明であるし、村田も怪我がちのうえ高卒2年目。能力的には間違いないが昨季はプロ仕様の体が出来ていなかった。不安要素が多いポジションとなる。現時点で補強が進んでいないことを考えると、開幕までこの状況なら他ポジションからのコンバートが必須。候補は粟飯原と新加入の町田ブライト(JSC)になるだろう。しかし粟飯原も受傷のリリースが出ており開幕に間に合うのか微妙なところ。プロレベルでの町田のWG適正も不明だが、彼にとってはレギュラー獲得のチャンスかもしれない。この通り不透明な要素が多すぎるため十分であるとは言えないポジションの1つである。大木前監督の基本ベースとなったクローズなサッカーとは対極的に、ゼムノビッチ新監督はワイドなサッカーを標榜している。このポジションは重要な役割を担うと考えられる。川西をこの位置で起用することも考慮する必要があるだろう。

【CF・・・・・B】
このポジションでは昨冬のメルカートに続き今冬もビッグニュースが舞い込んだ。J1・J2での実績が豊富でACLでの得点歴もある高崎(松本)を獲得。特に松本時代の‘16-’17シーズンはセンセーショナルな活躍を見せたCFである。33歳のベテランではあるが、まだまだJ2のクラブでもエースとなれる実力は持っている。驚きの移籍となった。メンタル面でもチームリーダーになれる資質を秘めており、ウィークポイントになった直接FKからの得点も期待できる。前田が柔のストライカーなら高崎は剛のストライカーと言えるだろう。その前田とも無事に契約を更新。タイプの違う2人のストライカーを擁しているのは心強い。今季はサイドからのクロスにCFが合わせるという攻撃パターンが増えると予想される。J3のDF陣は長身FWの対応に苦慮する場面が目立つため彼らの活躍に期待がかかる。その他では粟飯原と契約更新。昨季は夏の補強の余波を受けシーズン後半に出場数が伸びなかったが、17試合2ゴール4アシストと新人ながらまずまずの数字を残した。サイドで使われる機会が多かったが、本質的には真ん中の選手だろう。2トップ向きなこと、WG/SHの編成が進んでいないことから、今季ベースとなることが予想される1トップではサイドで使われる機会が増えそうだが将来のエース候補である。また、石川を沼津からレンタルバックで回収した。こちらはサイドの適正は薄いか。なんとか高崎・前田の両名から出場機会を奪いたいところ。4-2-3-1ならトップ下での出場があるかもしれない。JAPANサッカーカレッジから獲得した町田はジョーカーとしての働きを期待できそう。粟飯原と同じくサイドでの起用も視野に入れられる。質・量ともに高評価をして問題ない編成ができた。2トップも検討できる充実ぶりと言えるだろう。

【総合評価・・・・・B】
最大の焦点となった主力の慰留に関しては、予想以上の成果を上げたといって差し支えないだろう。宮本・塚川・ジーバース・バホスなどのレンタル組の離脱はやむを得ない。むしろ川西を慰留できたことが良い意味で想定外の結果となった。保有権のある選手では、ビクトル・馬場などが満了になった。この2名を満了にしたことには若干の疑問が残るが、甲斐・柳澤・富樫・粟飯原など将来の岐阜を担うことが期待される若手の流出は阻止することに成功。限られた予算と編成バランスを考え、若手の主力を囲い込むことに注力をしたのだろう。クラブの方針・考え方としては決して悪くないと言える。前田や竹田など計算のできる主力選手も確保。予想以上の戦果となった。補強に関しては、松本・橋本・高崎などビッグネームを含む少数精鋭のピンポイント補強を行った。ボールを繋ぎながらサイドに展開し、真ん中で仕留めるという監督のやりたいサッカーが容易に想像できるような補強であり、こちらも好感が持てる。新人も即戦力候補の大西を、主力の流出が相次いだポジションで獲得できたことは大きい。センターラインの松本・竹田・甲斐・川西・前田・高崎を中心に、サイドにも橋本・柳澤・富樫といった実力者を擁するバランスの良いスカッドが組めたと評価できる。マイナス点としては、編成バランスの悪さが挙げられる。ゼムノビッチ監督は、4バックを明言しており4-3-3か4-2-3-1を検討している旨をインタビューで答えている。これに対して、現在の編成は真ん中に選手が偏りすぎている。特にCBとCFが多く、SBとWG/SHの選手に関しては実力者が揃っているものの枚数が足りない印象だ。また守備的MFについては人数は概ね足りているものの、主力の流出が相次いだのにも関わらず補強が大西のみとなった。メンバー表を一見するとダブルボランチの3-5-2で戦うような編成に見えてしまう。フィジカル部門のスタッフを充実させたことは高評価できるが、長いシーズンを戦う上で怪我人が全くでないとは考えにくい。この編成バランスの悪さが仇にならないことを祈りたい。状況に応じて4-4-2や3バックを検討する柔軟さが監督にあるのかにも注目だ。注文を付けるとすれば、引き続きWG/SH・DMFの補強に動けると尚良いが現状のままでも満足度としては高いのではないだろうか。敢えて点数を付けるなら80点と言ったところか。優勝争いの最有力候補とまでは言えないが、少なくとも昇格争いができるだけの戦力を揃えることには成功した。



現時点で新外国人選手のフィールドプレイヤーの入団は決まっておらず、これからまだ補強が継続されるのかは不明ですが前述の通り昇格争いに加われるだけの戦力は手に入れられたと思います。

しかし、J3ではNOVAが買収した盛岡が大型補強とも呼べる活発な動きを見せており、メルカートの中心的な存在になっています。その他にも昨季終盤に連勝を重ね優勝候補の一角である富山も武や林堂など順調に強化を進めており、熊本も大木監督を招聘したうえで浅川や谷口など実力者を獲得しています。この他にも同じ降格組の鹿児島や昨年3位の藤枝などを筆頭に昇格争いのライバルと呼べるクラブは多く存在します。J3も近年実力が拮抗してきており、FC岐阜も決して安泰ではありません。このまま補強が終了すれば、メルカートの期間が終了後に各クラブを戦力順に並べていくと3番手以下になっている可能性の方が高いでしょう。限られた予算の中で納得のいく補強は出来ていますが、優勝そして昇格を目指すためには更なる補強やキャンプでの戦術浸透・既存選手の成長が必要です。J2復帰に向け楽しみと不安が入り混じる1年間となりますが、最後には笑っていられるようなそんなシーズンになることを期待したいと思います。

 

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