マッチレポート【第1節 VS山形】

いよいよJ2も'19シーズンがスタートし、FC岐阜はホームに山形を迎えて開幕戦を行いました。

モンテディオ山形は木山体制3年目となる集大成のシーズンに向け、今オフにはジェフェルソン・バイアーノ(水戸)・井出(G大阪)・高橋壱(千葉)・大槻(神戸)・岡崎(栃木)・ホドルフォ(メトロポリターノ)・柳(F東京)など能力の高い選手を積極的に補強しました。小林成(→大分)・汰木(→浦和)・中山仁(→磐田)の引き止めには成功しなかったものの主力の流出を最小限で抑え、クラブの目標であるJ1昇格を達成するためにプレーオフを狙える戦力を整えられたと言っていいでしょう。選手起用にも注目が集まった開幕戦ですが、フォーメーションは山形の得意とする3-4-2-1を採用。新加入の井出と岡崎を先発として起用してきました。

対するFC岐阜も、大木体制3年目となる今季は順調なシーズンオフを過ごしました。冬のメルカートでは補強に成功し、ここ数年では最も充実したスカッドを揃えたと言っても過言ではないでしょう。新戦力が上手くはまればプレーオフ圏内も狙えるかもしれません。(関連記事:メルカートの雑感→https://note.mu/il_divin_shippo/n/n19c469a7807e)

それだけにキャンプ期間中は、先発メンバーのみならずベンチ入りメンバーでさえ予想できない激しい競争が行われました。フォーメーションも、これまでの4-1-2-3だけでなく3バックや2トップにも挑戦しているという情報が流れ、全く布陣を予想できなまま開幕戦を迎える事となりました。

その初戦で大木監督が選んだ布陣は、大方の予想を覆す4-4-2。その中でも中盤をダイヤモンド型にしたものでしたが、両翼はサイドハーフというよりセンターに絞らせて配置しインサイドハーフの役割を持たせていました。つまりFC岐阜は、俗に言う4-3-1-2のフォーメーションで試合に入ります。GKはビクトル、DFは左から長倉・北谷・阿部・柳澤の4人。MFは中盤の底に中島、その脇に永島と宮本が位置しトップ下は風間。FWは山岸とライアン・デ・フリースという11人がスタメンでした。


補強の目玉と期待された前田遼一・富樫・フレデリック・川西、或いはレンタルバックの甲斐といった注目の即戦力達はスタメン入りできず、ベンチ入りでさえ前田遼一の僅か1名のみ。その一方で、大卒ルーキーの長倉と柳澤が先発入りを果たし、会津・粟飯原・村田の新人3選手もベンチ入りするなど驚きの結果となりました。スタメン発表をみたサポーターの多くは、新鮮な驚きや期待と同時に多少の不安も感じたのではないでしょうか。

また、この4-3-1-2という布陣は、2000年代の初期にアンチェロッティ(現ナポリ)が率いたイタリアの名門ACミランが使用し、UEFAチャンピオンズリーグを制すなど欧州を席巻したフォーメーションです。欧州サッカーのオールドファンの方には懐かしいものではないでしょうか。しかし、様々な理由があり現在ではあまり使われることのない布陣となっています。現状、Jリーグはおろか欧州サッカーでも使用されることが少ないものであり、トレンドの主流から外れた云わば傍流ともいえる布陣を、世界最先端の戦術を採り入れている大木監督がなぜ今採用したのか。今回はその辺りも試合の流れを振り返りつつ見ていきたいと思います。


試合は開始早々、山形がCKを立て続けに3本得て岐阜ゴールに迫る形から始まりました。岐阜は昨シーズン安定したセットプレーの守備を身に付けましたが、今年も安定したCKの守備を見せます。守り方は昨季と同様のマンツーマンとゾーンのミックス。ただしこの試合は昨季に比べ、ゾーン担当の選手を2枚から3枚に増やしていました。そのため、相手の攻撃陣全員にマークが付いている状態ではなく、スタートポジションではフリーの選手が1~2人発生していましたが、実際の競り合いでは入ってきたボールの殆んどを確実にはじき出すことが出来ていたようにみえます。この試合では合計で9回のCKを与えましたが、ゾーンとマンツーのマークがズレてゴール前で相手選手をフリーにしシュートを打たれたのは1度だけでした。今季はこの方法でいくのか、メンバーの組み合わせにより守り方を変えるのかは後数試合見て判断する必要がありそうですが、今の段階では昨年と同レベルのCKの守備が期待できそうです。

さて、いきなり激しく動く形で試合が始まりましたが、山形は尚も積極的な姿勢をみせ前線から激しいプレスを掛けてきました。これにより岐阜はビルドアップに苦しみ、立ち上がりはなかなかボールが落ち着かない展開が続きます。昨季の低迷の原因として、特に古橋移籍後にロングボールが蹴れなくなったことにより、相手の前線からのハイプレスへの対応に苦慮した結果、チーム全体のバランスが崩れた点を以前のコラムで挙げましたが、山形に3敗した理由もこのハイプレスの攻略が出来なかったという点にあると思われます。(関連記事:https://note.mu/il_divin_shippo/n/n9416f738485c)

そして、4-3-1-2の導入は正にハイプレスへの対応が1つの理由だと考えられます。

立ち上がりの時間帯も含めこの試合では、相手に前線からのハイプレスを仕掛けられ数的不利に陥った場合、無理に繋ごうとせずシンプルにロングボールを2トップに目掛けて放り込むシーンがよく見られました。それにより自陣深くで数的不利のリスクを負わずに回避し、前線での数的優位を活かしていこうという狙いです。そのために、フィジカルに優れる山岸とポストプレーが上手いライザという特徴を持った選手を2トップで起用し、質的優位を確保し前線に基点を作ると同時にあわよくばDFラインの裏を狙う。そして、2トップの近くでサポートを図りながらセカンドボールを拾うために、トップ下のポジションを作り風間を配置。或いは、運動量と危険察知能力に優れた宮本を中盤の底ではなく1列前のインサイドハーフで起用することにより、セカンドボールの回収と拾い損なった場合のネガティブトランジションに備える。といった大木監督の狙いが垣間見えます。

ロングボールを蹴り込んだ後に、ベンチからは盛んに「(ラインを)上げろ!!」という声が飛んでいましたが、その指示通り阿部と北谷を中心にDFラインをコントロールして押し上げ全体をコンパクトにすることに成功していました。これにより、ハイプレスを仕掛けられビルドアップに苦しみDFラインが下がる。そしてロングボールを蹴れない為にラインを上げられず、中盤も押し込まれ全体が間延びし前線が孤立する。それが更にビルドアップへ影響を与え悪循環が生まれて防戦一方になる。といった昨季の課題を見事クリアしていました。

こうなると、山形はハイプレスの継続が難しくなります。体力を消耗するうえに、DFラインの裏にもリスクを抱える戦術を継続しづらくなり、引いてブロックを作ることを選択します。15分を過ぎた辺りから岐阜のポゼッションが高まったのはこのためでした。自分達の得意とするポゼッションサッカーを行いトランジションに適した優位な陣形を作るために、ポジショナルプレーを使いロングボールという一見遠回りな方法を採ることにより、相手の狙いを回避し自分達に有利な環境を作ったのです。

そしてそれにより、DFラインへの相手のプレッシャーが弱まったとみると岐阜はここから更に’19シーズン型の新しいサッカーを披露します。

DFラインからのビルドアップ時に、アンカーの位置に抜粋された中島がCBの真ん中もしくは右CBの位置に落ちて、北谷・阿部と共に3バックを形成します。同時に両SBがポジションを上げ高い位置をとります。インサイドハーフだった永島と宮本がドイスボランチのポジションをとり、トップ下だった風間と2トップの一角だった山岸が横並びの関係になり2シャドーを形成。4-3-1-2から3-4-2-1になる可変システムに変化しました。これはビルドアップ時に人数を掛けて数的有利を作り、ボールロストのリスクを下げ支配率を高めたうえで全体をコンパクトに保ち有利な陣形を作る。それと同時に両SBを高い位置に上げる事により、大木サッカーの特徴であるサイドからの攻撃も可能にする。さらに、中盤のドイスボランチ・2シャドー・1トップの5人は比較的自由に流動的に動き、頻繁にポジションチェンジを繰り返すことにより相手にマークを掴ませない。4-3-1-2に比べ全体の重心が前に行き人数が増えコンパクトになることにより、ネガティブトランジションではゲーゲンプレスの効果が発揮しやすい環境となり、ポジティブトランジションではショートカウンターの威力が高まる。そして昨年までの4-1-2-3に比べ、1トップ2シャドーのため必然的に中央のバイタルエリアもしくはPA内に3人の選手がいる状態が生まれ、攻撃に厚みが生まれ中央での波状攻撃が可能となる。過去2年でよく見られた崩してチャンスが生まれたのに、ゴール前に人がいないという状態を避けることができる。


このように、昨年までの課題や問題点を解決しチームを進化させる方法の1つとして、4-3-1-2ベースの可変システムを導入したのだと考えられます。Jリーグで可変システムと言えば、ミシャ式の3-4-2-1やJ2型の3-4-2-1が有名ですし世界では様々な可変システムがありますが、このような4-3-1-2ベースでポゼッション・ポゼショナル・トランジションを採り入れている例は私が知る限りなく、チームの個性に合う非常に面白い理にかなった戦い方だと思います。

そして、徐々に岐阜ペースになっていた28分に狙い通り最初のチャンスが生まれます。中盤で宮本がセカンドボールを拾うと、風間からバイタルエリアのライザに楔の縦パスが入ります。ライザがこれをダイレクトで永島に落とすと、パスを受けた永島がドリブルでPA付近に侵入し山岸へスルーパス。山岸はダイレクトでライザへの横パスを選択しましたがカットされてボールはこぼれ球に。高い位置をとっていた柳澤がボックス内でいち早く反応しシュートを放ちました。ポジトラからの人数を掛けた厚みのある波状攻撃でバイタルエリア中央を攻略し最後はSBの柳澤がシュートを打つという、可変システムの効果が良く表れたシーンでした。

 この後も岐阜のペースが続きましたが、34分に相手ボールのスローイングからピンチを招きます。プレーが途切れ、集中力を切らした岐阜DF陣の隙を見逃さず山形が連携から岐阜の左サイドを攻略します。4バックが左サイドにスライドして対応しますが崩され、早い球足のクロスを入れられます。ニアで山形の選手が1人潰れ、ファーサイドにフリーとなっていた山田がシュート。ポストに当たりますが、ボールはボックス内でフリーのアルバロの前にこぼれます。再び絶体絶命のピンチとなりましたが、岡崎とアルバロの動きが被ってしまいました。味方同士が邪魔をする形となりシュートは枠から外れました。

しかし、これを機に山形が息を吹き返します。直後にも岐阜は右サイドを攻略されCKへと逃れます。ショートコーナーからマークを外され阪野にフリーでヘディングされましたが、幸運にもこれも枠の外。山形は2度続けて決定機を外してしまいました。岐阜も38分に自陣内のビルドアップからチャンスを作ります。3-4-2-1の可変システムから、阿部→永島→柳澤とパスを回し右サイドを攻略すると、柳澤がダイアゴナルにドリブルを仕掛けバイタルエリアで構えていた山岸にパスを送ります。このパスを山岸がスルーしボールは風間へ。山岸・ライザへのラストパスなど多くの選択肢がありましたが、風間は自らシュートを放ちました。残念ながらバーの上へと外れましたが、こちらも良い形を作ることができました。40分には三度山形得意のサイド攻撃から崩されます。左右に大きく振られゴール前でシュートを打たれますが、ここはDF陣が体を張って何とかクリア。

前半終盤の時間帯は比較的オープンな攻め合いになりましたが、新システムの弱点である3-4-2-1の状態でボールを失った時に、3バックの横にあるサイドの大きなスペースを埋めきれない、という部分を山形得意のサイド攻撃で突かれた格好となりました。また34分のピンチの場面に代表されるよう、4-3-1-2の状態でサイド攻撃をされた時に、岐阜は攻撃を受けている側のサイドへ4バックを横にスライドさせて対応しますが、スライドした逆サイドにスペースが大きく空くこととなり、相手の選手がフリーになるシーンがよく見られました。基本的に大木監督はサイドより中央の守備を重視しており、崩されても最後は真ん中を固めて勝負という形を採っていますが、昨年までの4-1-2-3であればWGがそのスライド後のスペースを埋め相手のフリーな選手をマークする。WGがカバーできない位置にいればIHがその役目を負うといった約束事がありました。しかしシステムが変わりWGがいなくなったことで、どのポジションの選手がカバーに入るのかが曖昧になり、試合全体を通して頻繁にピンチの芽となりそうな場面が見られました。次節の徳島もスカウティングを行い、恐らくこの辺りを突いてくると思われるため早急に約束事を決め修正したいところです。

このように前半は何度もサイドから決定的な場面を作られましたが、後半に入り岐阜は守備面での修正を施して来ます。その対応策とは、敵陣内でのゲーゲンプレッシングのインテンシティを高めることにより、3-4-2-1から4-3-1-2への切り替わりの遅さを補い、逆にポジトラからチャンス作り出そうという大木監督らしい攻撃的な姿勢でした。

 後半立ち上がり早々の52分。この判断が功を奏します。GKへのバックパスに対しライザがチェイシング。相手GKはCBへパスを出しますが、宮本がプレス。これに全体が連動して山岸などがパスコースを消すと、CBの無理な縦パスを中島がカット。素早いポジトラでの反応からライザがセカンドボールを拾いドリブルでPA内へ侵入。相手DFを3人引き付けてサイドの柳澤にパスを送ります。陣形が完全に乱れている山形に対し、岐阜はボックス内に山岸・宮本・ライザと人数を掛けDFラインを押し込むと、1拍遅れて侵入してきた風間が完全にフリーなります。柳澤が新人らしからぬ落ち着きでこの動きとスペースを見つけて、マイナスのクロスを入れると風間が冷静に流し込み先制点を奪取。嬉しい’19シーズンの初ゴールは、完全にチームの狙い通りの形で奪うことができました。

こうなると試合は完全に岐阜ペース。59分には審判に当たったこぼれ球を素早い出足で中島が拾います。中島→宮本→ライザと繋ぎ、ライザから決定的なスルーパスが出て山岸がGKと1対1になりましたが、このシュートは枠を捉えられませんでした。中島がこぼれ球を拾い宮本へパスを出した後に、足を止めずゴール前へのフリーランニングをした結果スペースが生まれ決定的なチャンスへと繋がりましたが、この試合を通し攻守の両面において中島の存在感は際立っていました。この活躍によりチームのストロングポイントである宮本をアンカーではなく1列前のIHで使う目処が立ったと思います。ゲーゲンプレッシングにてトランジションで優位に立つ戦術において運動量・危機察知能力・ボール奪取力に優れた宮本をIHで使える意味は非常に大きく、中島のアンカーでの活躍はチームにとって非常に価値が大きいものと言えるでしょう。

追加点もまさにそこから生まれます。相手陣内でのビルドアップに対し再びゲーゲンプレッシングを仕掛けて宮本がチェイシング。これに永島が連動しボールを奪います。ボールを受けた山岸がスルーパスを送るとこれを受けた風間が冷静に流し込み、この日自身2点目となるチームにとっても貴重な追加点をゲット。岐阜のポジトラでの反応速度に対し山形はネガトラでの反応速度が遅く、ショートカウンターに対応できていませんでした。宮本がアンカーの位置からでの守備ではなく、IHの位置から守備を宮本を始めるため、単純に移動距離が減りアプローチの速度が速くなりチーム全体に守備のスイッチが入る。そして相手にとってより危険な位置でボールを奪える。彼を昨季より1列前で使えているメリットが現れた得点と言えるでしょう。

この後も後半は山形に対し決定的な形は作らせず’14シーズン以来の開幕戦勝利。山形に対しても同じく’14シーズン以来となる久しぶりの勝利です。得意のハイプレスからの守備をかわされたためショートカウンターが発動できず、山形としてはボールポゼッションからのサイド攻撃しか攻め手がなくなる状況となりました。これに対し岐阜は、あくまで自分達のポゼッションというベースは崩さないものの、試合の流れや相手の動き、或いは点差に合わせて後半のようにトランジションをより重視する時間帯を作るなど、非常に柔軟な戦い方が出来ていたことが勝利の要因の1つでしょう。

スタメンに補強した新戦力が名を連ねない、傍流ともいえる4-3-1-2の布陣など試合前の不安な気持ちを見事に打ち消してくれる快勝となりました。4-3-1-2から3-4-2-1への可変システムといった新しい発想の新戦術を採り入れ、ポゼッションが上手くいかない時の手段である所謂プランBをシステムに織り込み、構造的に発動しやい状態にした大木監督の手腕は見事と言えます。昨季からの課題であるビルドアップと前線中央の攻撃を改善し、強みである中盤での守備を強化した非常に素晴らしいサッカーをみせてくれました。

しかし、新システムの完成度はまだ高いとは言えず発展途上であることは明らかです。そのため今後さらに向上が見込めるでしょう。そして大木監督は試合に「これが基本的な陣形、あるいは山形へというよりも、出場する選手によって決めた形です。」というコメントを残しています。選手の組み合わせによって、従来型の4-1-2-3や他の引き出しも持っていることを示唆するコメントであり、シーズン終盤になり漸く4-2-1-3を導入した昨季に比べると格段に良い準備が出来ていることが予想されます。チームへのフィットに時間がかかっている新加入選手達が加わった後にどういった戦い方を見せてくれるのかも期待できそうです。今季はシステムや選手起用も含めて1つの戦い方に拘らなくて済む、柔軟な戦い方ができる戦力を準備し、監督に選択の幅を与える事ができてると感じる事ができる、そんな今後が楽しみな開幕戦となりました。

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