マッチレポート【第3節 VS岡山】

 前節徳島戦を終了間際の失点で落としたFC岐阜は、ホームにファジアーノ岡山を迎えました。

 岡山は4年間指揮を執った長澤徹監督体制に見切りをつけ、今季から有馬賢二監督を招聘。Jリーグでの実績は’15にY.S.C.C.横浜を1年間指揮したのみと乏しいものの、代表レベルではJFAナショナルトレセンコーチ(’16~’18)や日本代表U-15/16/17監督(’17~’18)を務めた新進気鋭の監督です。その有馬監督率いる岡山は、伝統の3バックをベースとした堅守速攻のサッカーを廃止し、4バックを導入したポゼッション志向の攻撃的でモダンなサッカーへと変貌を遂げています。フォーメーションはこの日も開幕2試合と同様にオーソドックスな3ラインの4-4-2を採用。ここ数年の課題であった得点力不足を解消すべくイ・ヨンジェとレオ・ミネイロを並べた2トップは破壊力を秘めています。

 対する岐阜はこの試合も新布陣の4-3-1-2を選択。岡山がこの試合も3ラインの4-4-2を採用してくることは想定の範囲内だった為、決して咬み合わせが良いとは言えない4-3-1-2を変更することも予想されましたが、ここは大木監督らしく相手に合わせるのではなく自分達の良さを出すことを優先した格好となりました。ただしスタメンは、LSBに長倉ではなく会津を選択。また、中盤の底を中島から三島に、前節負傷退場した北谷を竹田に変えてきました。LSBに関しては過去2戦で若干スペースの管理に問題を抱えていた部分があったため戦術な理由による変更だと思いますが、中島に関しては何らかのトラブルによる変更だと考えられます。チームの鍵として活躍していた中島や北谷が長期離脱となるようであればチームにとっては大きな痛手となるでしょう。

 試合は予想通り、開始直後から非常にインテンシティが高いゲームとなります。岐阜はいつも通り、三島がDFラインの中央に降りて3バックを形成。SBを高い位置に上げて3-4-2-1気味となる可変システムでビルドアップを試みますが、これに対し岡山は前線から強度が高いハイプレスを仕掛けます。岐阜の4-3-1-2から3-4-2-1への変化に対し、岡山はハイプレス時には4-4-2から3-4-3になる可変システムを採用。マンツーマン気味になってシステム上のギャップを無くし、人に対しアタックすることにより最低でも数的同数を維持しようとする狙いでした。この守り方の発想は面白く、前述のように岡山はハイプレス時にマンツーマンを敷き、無理に数的有利を作りプレスを仕掛けてこない為、岐阜がパターンBであるハイプレスをかわすためのロングボールを蹴ったとしても、これまでのように前線での数的有利を利用した基点を作りやすい状況は生まれまず、基本的にはセカンドボールの拾い合いとなる状況となります。有馬監督の狙いの1つとして、セカンドボールの拾い合いにより意図的に中盤にカオスともいえる状況を生み出し、自軍選手達のアジリティやフィジカル等の質的優位を活かしたトランジションの速さで勝負することがあったと考えられます。しかし、当然1対1がピッチのあらゆる所で生まれるため局面で負けた場合はリスクが非常に大きい戦い方です。1対1の状況なら自分の選手は負けないという自信と信頼があるからこそ採用できた戦術と言えるのではないでしょうか。反面、ハイプレスが掛からない場合は素早く引いて、4-4-2や5-3-2等の岐阜の攻撃に合せたブロックを形成していました。このことからも戦術的な柔軟さも併せ持ったチームであったと言えます。

 このような状況の中、岐阜は冷静に自分達のやるべきことを継続します。ハイプレスをかわす為の素早いパスワークやフリーランニングによるパスコース作り。そしてロングボールを織り交ぜた攻撃で相手にプレスの狙いを絞らせません。前半立ち上がりから一進一退の攻防が続きましたが、どちらかと言えばペースを握っていたのは岐阜でした。しかし、前半19分敵陣で永島がドリブルを仕掛けボールをロストすると岡山は鋭いカウンターを仕掛けます。岐阜の右サイドに展開し、レオ・ミネイロがドリブルで阿部をかわそうとしますが手を掛けてファール。これにイエローカードが提示されます。イエローに値するほど酷いファールには見えませんでしたが、抜けられた場合DFラインの裏に大きなスペースがあったことを考えると総合的には妥当な判定と言えるでしょう。そしてこのイエローが岐阜を苦しめていくことになります。この日のCBの組み合わせは、フィジカルが強く空中戦や対人守備に優れた阿部とクレバーでカバーリングやラインコントロールを得意とする竹田ですが、2人ともスピードには優れていません。スピードとフィジカルの強さを併せ持つ岡山の2トップに対して、シンプルに裏を目掛けて放り込まれるロングボールの対応に苦慮しながらも、ここまでは竹田を中心にラインを高く保つことで全体をコンパクトに保ち、中盤でプレスを掛かりやすい状態を作ることで何とか対応をしていましたが、前半早々にカードを貰ったことによりラインを上げにくい状況が生まれます。

 すると26分、中盤で阿部とイ・ヨンジェが競り合いますが、DFラインと永島の間に出来たスペースに選手がおらずセカンドボールを拾ったのは岡山。この時、三島がスライドしてスペースを埋めるために対応するも一拍遅れたために、フリーの状態でボールを持たれます。会津が対応のために前に出ようとしますが、逆にその裏を狙われサイドを崩されます。ボールを受けたイ・ヨンジェがクロスを送り、ボックス内では仲間がフリーで待ち構えていました。両チームを通じてこの試合初めての決定的な場面が生まれますが、ここは柳澤が何とか体を寄せてブロック。ビッグプレーといえる見事な守備で失点を防ぎました。ここから、試合は更に岡山ペースになります。今度は右サイドを崩されると相手にFKを与えます。仲間へのマークを外しフリーでヘディングシュートを放たれますがこれは枠の外。何とか事なきを得ました。

 嫌な流れになった岐阜ですが、29分に先制点を奪います。DFラインから柳澤がロングボールを山岸へ送ります。チェ・ジョンウォンと競り合いボールはサイドでこぼれ球になりますが、これを拾ったのは岡山でした。チェ・ジョンウォンがサイドでキープしますが、ボールを追っていた山岸が諦めずプレスを仕掛け相手のミスを誘います。バックパスを選択した先には味方の選手がおらず、カバーに入ろうとしたGKは中途半端な位置に飛び出してしまいました。奪った山岸がこの動きを見逃さず、ゴール前で待ち構えているライザに素早くピンポイントクロスを送ると、ヘディングシュートは無人のゴールに吸い込まれて待望の先制ゴール。昨季は質の高い動きを見せながらも、自身のゴールはシーズン終盤まで生まれなかったライザが早々と結果を出したのは、チームにとって非常に大きいのではないでしょうか。32分には、自陣深い位置の右サイドでレオ・ミネイロからボールを奪取したライザが、そのままドリブルで敵陣に侵入。永島→風間と繋ぎ左サイドに展開すると、風間がアーリークロスを選択。ボックス内で相手に弾き返されるもセカンドボールを拾ったのは永島。バイタルエリアからのミドルシュートと見せかけ、縦へのスルーパスをボックス内の山岸へ送り決定機を演出します。しかしここは、トラップが足元に入りすぎたため強いシュートが打てずGKに防がれました。

 岐阜が勢いに乗りこのまま主導権を握るかと思われましたが、守備面の根本的な問題が解決しておらずここから岡山が逆襲を開始します。ラインを上げられない岐阜は、中盤との間にスペースが生まれるという問題を常に抱える事となります。特に、IHの永島の裏には大きなスペースが生まれていましたがこれはこの試合に限った事ではありません。前2試合でも同様の問題を抱えていました。永島は攻撃面に魅力のあり、バイタルエリアでボールを持った時には常に違いを作れる選手である一方で、守備面には課題を残しています。これまでの試合ではこのスペースが発生した場合、中島が左にスライドし宮本が通常よりも低い位置をとってドイスボランチになり、ダイヤモンド型の中盤からボックス型の中盤に変化することにより、このスペースを埋めカバーを行ってきました。そしてそれが間に合わなければ、長倉にこのスペースを管理する役割を持たせていました。しかし、この対応が十分に上手くいっているとは言えない状態であり、ピンチの芽になる可能性を常に孕んでいたと言えるでしょう。会津がこの試合でスタメンとして起用された主な狙いの1つに、この部分の対応があった事は確実と考えられます。試合序盤こそ上手くいっていましたが、DFラインが上がらなくなるにつれ管理しなければならないスペースが大きくなりすぎ、三島の対応の遅れと会津がカバーしきれない場面が目立ってきました。個人的にはこれだけのデメリットを抱えてもなお、永島を起用するメリットがあると考えていますが、チームとしての課題であることは間違いありません。

 そして39分、ラインを上げられないでいると2トップが中盤とのスペースを埋めるために下がり大きくクリアできない所を狙われます。基点が作れずセカンドボールを拾われ、左サイドからアーリークロスを入れられます。こぼれ球をレオ・ミネイロが振り向きざまに強烈なシュート。これはゴール右に僅かに外れました。たて続けに41分には、相手GKからLSBへパスが通ると、中央のぽっかり空いたライン間のスペースを狙っていた仲間へのパスが入ります。完全にフリーの仲間は対応に行った阿部をドリブルでかわすと、柳澤を引き付け右サイドでフリーになったレオ・ミネイロへパス。ボックス右角から放たれたシュートをビクトルが何とか弾き出しますが、この2つのピンチは前述の岐阜の守備の課題を象徴しているようなシーンと言えるでしょう。

 なんとか無失点でリードを保ち前半を折り返しましたが、後半開始と同時に岡山が動いてきます。システムを4-4-2から4-2-3-1へ変更。前半は岐阜の右サイドに流れて多くのチャンスを演出していたレオ・ミネイロを左サイドに回します。有馬監督の意図としては、トップ下と左右のSHを作ることにより2列目の選手達にライン間のスペースを狙わせることが一点。もう一つはその中でも特に問題を抱えている岐阜の左サイドに、自軍のストロングポイントであるレオ・ミネイロを配置しそこからチャンスを広げ攻略することだったと思われます。

 実際に後半立ち上がりから岐阜の左サイドを中心に多くのチャンスを作ると、そこから53分に同点ゴールが生まれます。レオ・ミネイロがスペースでボールを受けると三島がカバーに入り釣り出されました。バイタルエリア中央の三島が空けたスペースに上田が侵入しパスが通ります。フリーの状態でボールを持たれ1度はディレイするも、今度はバックパスから右サイドに展開され再び中央のバイタルエリアへの楔の縦パスが入ります。スルーされたボールをボックス内でなんとかクリアするも、このボールが味方に当たり上田のもとにこぼれます。これをイ・ヨンジェに繋がれ同点弾を叩き込まれました。若干不運な失点ではあったものの、前半からの問題点を修正できないまま相手にそれを突かれた格好となってしまいました。

 ここから更に相手に流れが行くかと思われましたが、ディフェンス陣を中心に粘り強く耐えていると少しずつ潮目が変わり始めます。試合開始直後からの強度の高いハイプレスで、体力を消耗し続けていた岡山の運動量が落ち始めたことが原因でした。これにより、60分を過ぎた辺りからハイプレスが弱まりミスも増え始め、岐阜がボールを少しずつ保持できるようになってきます。これに伴い全体の間延びが少し解消され、守備陣も落ち着きを取り戻します。風間のドリブルからのミドルシュートやCK等でリズムを掴みはじめた65分でした。右サイドで細かくパスを繋ぎボールを保持しながら攻め入ると、トランジションに有利な密集陣形を整えます。敵陣深くで一度は相手にボールを奪われるも、全員が連動した素早い攻守の切替から山岸が相手のパスをカットしそのままクロス。ゴール前でライザが競り合い結果的にはオウンゴールとなる逆転弾が決まりました。

 逆転弾のショックにより更に足が止まり始めた岡山に対し、岐阜は73分に永島に変えて富樫を投入。中盤がダイヤモンド型の4-3-1-2から、ボックス型の4-4-2つまり4-2-2-2へシステムを変更します。一旦は2トップの一角に富樫を入れて山岸を一列落としましたが、山岸の運動量が落ちてきていることを確認するとCFに戻し、富樫を2列目右へ移します。このシステム変更の大木監督の狙いは明確であり、先程から何度も指摘している三島の左脇のスペースをスライドしなくても埋められるよう、三島と宮本のダブルボランチにして管理することだったと思われます。この采配が功を奏し、この後は前掛かりになりリスクを負って攻めてくる岡山に対して決定的な場面を作らせませんでした。終盤は、この試合特に苦しい展開を強いられ続けて消耗した岐阜のDF陣も運動量が落ち、前線のプレスに連動してラインを上げられず全体が間延びしてしまいピンチの芽となりそうな場面もありましたが、この辺りは今後の課題と言えるでしょう。この状態でラインを上げては裏にボールを蹴られた時に追いつけない、と相手と自分達の能力や特徴といった力関係、或いは残りの体力を冷静に分析しラインを低く設定したDF陣の方がこの場合正解でしたが、前線の選手達との意思疎通を行いチームとしてどう守るのかをはっきりさせる必要があったと言えるでしょう。

 90分にはハーフウェーライン付近の左サイドでライザがパスカット。山岸から再びボールを受けると、前掛かりになっていた岡山の最終ライン裏をとる見事なスルーパスを送り決定機を作りました。これに反応したのは富樫。1対1となりましたが軍配は相手GKに上がりました。決めれば試合を決定付けチームを助けるゴールとなっただけに決めきりたい所でしたが、交代後の動きも良く次節以降に期待が持てそうです。
 
 終わってみれば相手に主導権を握られながらも2-1。確実に勝ち点3を手にしてホーム2連勝を飾りました。特に、苦しい時間帯でゴールを決めて先制し、同点に追いつかれても更に突き放すといった今までにない強い勝ち方ができたことは大きな収穫となりました。試合を通して相手にペースを握られ自分達のやりたい事ができなくても、90分終わった後には勝ちきっていると言うのは強豪と呼ばれるクラブのの大きな特徴ですが、ポゼッションが出来なくてもトランジションに活路を見いだし勝ちきった今節は、少しずつそういった地力が付いてきたのではないかと思えるような内容の試合であったと感じました。

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