見出し画像

単為生殖のみで繁殖するヤエヤマサソリ

https://bit.ly/3zvesVP

この話題は,私の大学時代の卒業研究から大学院,そして学位取得までご指導いただいた恩師の研究業績なのですが,非常勤講師としてやってる講義でもいつも話している内容なので,ここで紹介します〜日本産サソリ2種のひとつであるヤエヤマサソリは,日本では沖縄や石垣島など,海外では東南アジアからオーストラリア北部,ポリネシアなどに生息していますが,少なくとも私が所属していた研究室がフィールドとしていた西表島では雌しか見つからず雄がまったくいない,ではどうやって繁殖しているのか?それが単為生殖です

単為生殖とは,卵が精子と受精することなく単独で発生すること,なので,お母さんは娘だけ産み,娘さんが母になったらまた娘だけ産む,この繰り返しです(季節的に単為生殖と両性生殖を交互に繰り返すアブラムシやミジンコのような例は,高校生物でも学びますが,この場合は一時的に雄が現れる)単為生殖のみで繁殖することを証明するには(雄が絶対にいないという「ない」ことを確かめるのは難しい,一例でも見つかればそれでおしまいなので)雌が単独で仔を産むかどうか調べるしかない,そこで先生は,産まれたばかりのヤエヤマサソリが(サソリはすべて卵生ではなく仔を産み,1齢は母サソリの背中に張り付く,これ無理に剥がすと死ぬらしい,お乳が出てるわけじゃないのに…)しばらくして脱皮してから母サソリを離れたら,1匹ずつバイヤル瓶に移し隔離飼育することを始められ,そのまま誰とも接触せずに成長し,やがて大人になるとやはり単独で仔を産んだ!これを繰り返し最大5世代まで継代することができたため,ヤエヤマサソリは単為生殖のみで繁殖するとほぼ断言してもよいことになったのです(非常に長期にわたる研究です)大変なのはサソリがどんどん殖えること,多いときでたしか500匹以上はインキュベータ(恒温器)にいたかと,排泄物で汚れたバイヤル瓶を週一で交換し,乾燥を防ぐため湿らせた濾紙を入れる,餌のシロアリは研究室の学生が総出で筑波山に行って持ち帰った朽木を,瓶交換の際にばきばき崩して出てきたのを集めて与える,ものすごい労力です

ところで単為生殖では,両性生殖のように父母のゲノムが混ざり合って遺伝的多様性をもたらす仕組みが,基本的にはみられないと考えられるので,母娘同士がクローンとなります(この点では無性生殖的と言える,ただし,卵が発生するので単為生殖は有性生殖の特殊な様式とみなすべき)ということは,ヒトよりはるか太古よりこの地球に生存し続けるヤエヤマサソリは,その間,ずっと遺伝的多様性が低いまま繁殖してきたことになる,これでは環境的な変化に対して不利なはずなんですが,大丈夫だったんですね,とても不思議です

(*これは以前,別ブログに掲載したものを改訂し,再掲しています)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?