マガジンのカバー画像

屋上の少女

14
運営しているクリエイター

2015年5月の記事一覧

エピローグ

月曜日。翔太はいつも通り、弁当を持って階段を上っていた。

 昨日の日曜日は雨が降り、今日は屋上で昼食を食べれないのではと心配したが、打って変わって今日は快晴。雲ひとつないと言っていい天気で、気温も高め。今日の部活の練習は熱いだろうなと今から少し緊張する。

 階段を登り切り、一応掃除用具入れの裏を確認したところ、やはりそこに鍵はない。少しだけ笑ってから、翔太は屋上に続く扉に手をかける。ドアノブを

もっとみる

11 居場所

落ち着いてから、翔太と楓は一緒に女将さんのところへお礼をいいに行った。

 聞くと、翔太が風呂に入っている間、楓も女将さんとお話をしていたらしい。その時翔太と同じように旅行に来た敬意を尋ねられ、理由を交えながら楓はお話ししたという。

 女将さんに話す前は、翔太に自分の過去を離すべきかどうか迷っていたそうだ。しかし、女将さんに話した後、やはりここまでしてくれたのだからお礼をしなければならないと思い

もっとみる

10 りゆう

女将さんが扉の前に立つのと、扉がノックされる音が聞こえたのは同時だった。女将さんは一度だけ翔太のほうを確認するように視線を投げかけてくる。翔太は目元をぬぐい、鼻をすすってから然りとうなずいた。女将さんは少し笑ってから、扉をゆっくりと開けた。

 そこには、風呂からあがり、浴衣に着替え、ガラスのコップと麦茶の入ったポットを手に持った楓の姿があった。湿った髪の毛は、後ろで縛ってポニーテールにしてある。

もっとみる

九 理由

楓が泣き出してからのあとは、大変だったと言わざるを得ない。

 まず、何事かと思った周りの大人たちが集まってきた。

 大人たちの手を借りて楓をレストハウスまで連れていくことは出来たのだが、そこからが大変だった。楓がどうしていきなり泣き出したのかを大人たちに質問され、それがわからないから答えあぐねていると、そのうち自分たちはどうしてここにいるのか尋ねられた。どう考えても、金曜日に高校生二人がこんな

もっとみる

八 涙

降りた駅は、無人の小さな駅だった。

 線路の数も一本で、周りに人家も見当たらない。線路に沿うように国道が走っており、車が忘れたころに通り過ぎていく。

 ホームに立って線路のほうを向くと、その向こう側に湖が広がっている。湖は山を背景にするように広がっており、水面は青空を映してきらきらと輝いている。

 その風景に翔太は感動を覚える。すこしひんやりした風がほほをなで、心地よい開放感を感じる。このま

もっとみる

七 二人旅

楓を誘ったその日、翔太は家に帰って急いで荷造りをしていた。旅行の時に使うスポーツバッグを引っ張り出し、中に着替えなどを詰めていく。

 山へと行くことに決めた翔太は、楓にいつ行きたいかを尋ねた。山に視線を向けたまま、楓は無表情で答えた。

「できるだけ、すぐに」

「なら、明日の朝出発しよう」

 明日は金曜日。学校はあるが、今の翔太にはあまり気にならなかった。見えない力は翔太の背中を押し続け、多

もっとみる

六 山へ

どうしてこうなってしまったのかは分からない。

 部活が始まる前に、良平と二人で着替えて時とは考えられないほど落ち込んで、翔太はロッカーから着替えを取りだす。

 いきなり行われた入部テスト。結果は一セット取ったものの三セットあんなに取られ敗北。一セット取れて入るが、内容としてはかなりの実力差があった。

「終わった人は解散ね。今日はまだ仮入部期間だから、全員相手するにはちょっと時間が厳しいのよ」

もっとみる