見出し画像

晩翠、そして草青む  〜茅葺きをあらたしく〜

大きな暖流に撫でられた、温暖湿潤で自然の生成力が豊かなアジアの東の島国日本。

その足元から湧き立つような自然の力と、人は永い時間を共にする中で、
自然と人のお互いの言い分の調停点を見つけ、奪いすぎず、奪われすぎず生きてきた。

茅葺きはそんな自然と人の絶妙な間合いのシンボルとして、
日本列島の其処ここに、まるでその地域固有の植物の如く生えるように存在し、
地域ごと時代ごとの、多種多様な美を見い出しながら、
人という種の住処として今日まで続いてきた。

しかしながら戦後の高度経済成長期における歴史上類を見ないほどの、
急激な人々の生活や農業の様式の変化により、かつての自然と人との間合いは崩れ、花や木が枯れるように、茅葺きはひとつひとつ風景から去っていった。

それでも生き抜き残った数少ない現在の茅葺きも、ある時代のある様式の保存が義務付けられていたり、
ただそこに辛うじて建っているだけであったりと、
今にも途切れそうな伝承こそあるが、これから伝統になり得る強さや美しさや新しさを見かけることが無い。
私はかつての先達がやってきたように、伝統が染み込んだ身体で今を生きながら、数百年後に伝統と呼ばれるようなものの萌芽を、今を生きる人や、
先に旅立った人に見せてあげたいと思う。

茅葺きは古き良き過去でも、懐かしさの象徴でも無く、初めからずいぶん先で私達を待ってくれている。

相良育弥 「創造する伝統賞 ポートフォリオ冒頭文より」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?