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職人さんの最後の仕事の話

僕の会社はプリーツ加工と婦人服の縫製を行う工場です。
「自社工場」には20名ほどの社員さんがいて、裁断したりプリーツを折ったりアイロンかけたりミシン踏んだりして洋服を作っています。

その他に「協力工場」さんが数件あります。
こちらで裁断した布をお渡しして、縫製のみをお願いします。
従業員を雇って会社として経営されている工場さんもあれば、家にミシンを置いてひとりで、もしくは夫婦で内職的にやられている方もいます。
製品納期やそれぞれの得手不得手を考慮して、お願いする工場さんを僕が決めていきます。

ある職人さんの話

自分が会社に入った頃からだから、20年以上前からのお付き合いになる協力工場さんがありました。若い頃は人も雇って会社として縫製工場をやっていたそうですが、理由あって会社をたたんで夫婦でやっていこうということになり、そのタイミングでうちの仕事をお願いするようになりました。

腕が良くて、難解なパタンの商品もしっかりあげてくれました。納期を間に合わせるために、夜遅くまで縫ってくれました。
朝までにやっとくから取りに来いって言われて、翌朝高速道路を飛ばして取りに行くなんてことも一度や二度ではありません。
長い付き合いの間でお願いした仕事を断られたことは2回しかなかったし、僕も手を空かせることがないように、全力で仕事を準備しました。

年齢は自分の父親と同じくらいで、広い庭で野菜を育てるのが趣味でした。
行くたびに食べきれないほどの野菜を車に積んで持たせてくれました。
仕事の信頼感はもちろん、口は悪いけど情が厚い、その人柄が好きでした。
親戚のおじさんのような親近感を、自分は勝手に抱いていました。


突然の入院

ある日、いつになく弱々しい声で「今の仕事、返していいけ?」と。
「入院すんだよ。わりぃけど、カミさんひとりじゃできないからさ。」
肺に癌が見つかってしまって手術するとのことでした。

術後、落ち着いたころにお見舞いに行きました。
手術はうまくいったようで、思っていたよりも元気でした。
「退院したらまた仕事させてくれるけ?」と聞かれて「もちろん!」と答えたけど、正直こころの中ではもう厳しいんじゃないかと思っていました。
でも、本人がやりたいっていう限りは仕事は出し続けようとも思いました。

退院後しばらくして連絡があって「暇だから、なんか送ってよ」と。
いままでみたいに無理はしないしさせなくなったけど、その分、より丁寧に縫ってくれました。日に日に声も力強さを取り戻して、肺を半分以上も切ったとは思えないほどに元気に回復しました。
「やっぱ仕事してないと、張り合い出ねえんだよ。」職人って、そういう人種なんですよね。


再発

一昨年、再発して入院。手術。
「退院したらどうする?」って聞いたら「くれるなら、やりてえな」って。

2度目の手術を成功させて帰ってきた頃、友人が個人で始めたブランドが伸びてきて、それまで自分で縫って売っていたものを僕に発注したいと相談されていました。
とはいえ数量も自社のラインで流せるほどまとまっているわけでもなく、そこそこ凝った仕様だったこともあり、信頼しているその職人さんにお願いすることにしました。

先上げは、面倒な仕様に苦労したっていうのが伝わる仕上がりでした。お客さんである友人にも細かく確認してもらい、注意点を伝えて量産へ。

量産は、自分が想定していたよりも随分と時間がかかって納品されました。
品質は、驚くほど悪くなっていました。
2度目の手術は職人さんの体力をすっかり奪ってしまったようでした。

何度か縫い直しをお願いしましたが、なかなか納品できるレベルには戻せず、こちらで直すことになりました。
最後の荷物には、0枚と書かれた納品書に「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。長い間お世話になりました。」と一筆。

もちろん工賃はお支払いしたし、難しくない仕事ならまた頼むつもりでいましたが、コロナの影響で十分に仕事を回すことが出来なくなってしまいそれきりに。

ほどなくして奥さんから「亡くなりました」と知らせを受けました。
最期まで、迷惑かけたって悔やんでいたそうです。
僕も不細工な仕事をして友人に迷惑をかけたし、職人としての最後をあんな形で終わらせてしまったことに、今でもとても後悔しています。


話は少し変わるけど

日本の縫製現場は、高齢化しています。
その高齢の職人さんたちは、若い頃からとんでもなく一生懸命働いてこの業界を盛り上げて、いまでも支え続けてくれています。
でも、当たり前だけどそれは永遠じゃないし、この不況がそんな職人さんたちの引退の時期をさらに早める、とも思う。

最近は、自分の身の回りでもいろいろな変化が生じてきていて、


人生の大半をひとつの仕事に捧げてきた人たちの、最後のあり方がどうあるべきか。そんなことを考えていたら、今回の悔しい話を思い出したので書きました。


なんだか取り留めのない話になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!


【追伸】
件の友人のブランドはその後も順調ですのでご心配なく。
先日も追加の生産依頼をいただきました!

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