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THEインタブー『ブレインファイト初代チャンピオンの男』編


ブレインファイトという言葉をみなさんはご存知だろうか?

恥ずかしながら私はこの男と出会うまで、その言葉の存在自体知らなかった。
 意訳するならば、脳による戦いということになるだろう。

 頭脳明晰な人物たちによる思考のバトルか、はたまた知能をぶつけ合う知識勝負。そういったところだろう。

 今回は、そんなブレインファイト初代チャンピオンという男に取材を試みた。

 都内某所、こぎれいな雑貨屋やインテリアショップが立ち並ぶイチョウ並木の、小さなカフェで私たちは待ち合わせることとなった。

 待ち合わせ時間よりも少し前に店内へ入るとすでに男性が一人、文庫本を片手にコーヒーを飲んでいた。

 細面の顔に黒いハーフリムの眼鏡。右頬の大きなホクロが特徴的なインテリジェンスな佇まい。

彼こそ、今回の取材相手だ。

 私を見つけるといそいそと立ち上がり、軽く会釈で出迎えてくれた。
その笑顔は、ぎこちなくも誠実そうな印象を私に与えた。


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 ――今日はよろしくお願いします。まずお名前を伺ってもいいですか?

はい、ブレインファイトクラブ代表、初代チャンピオンのヘラクレス・ザ・ゴードンです。よろしくお願いします。


 ――ヘラクレス・ザ・ゴードンというのはハンドルネームですか?
 いえ、ブレインファイトをする時のリングネームです。


 ――なるほど、カッコいいですね。 
ありがとうございます。やはり強そうな名前の方がいいと思い、この名前をつけました。周りからも好評をいただいています。
 


――ではヘラクレスさんに色々お伺いしていきたいのですが… 
ゴードンで大丈夫です。


 ――ではゴードンさんに伺います。まずブレインファイトとはどういった内容なのか教えていただけますか?

これは僕が二年前に考案した全く新しい概念の格闘技なんです。


 ――クイズとかで戦う知能バトルという感じですか?

そうじゃないです。文字通り新しい形の格闘技です。脳内で戦う格闘技、なのでブレインファイトと言います。 


 ――たとえばどういうことでしょうか?
 男の人だったら誰しも頭の中で悪いヤツをやっつけたり、ケンカをしたりって想像したことがあると思うんです。

そういった頭の中の戦いで相手を倒していく、いわば総合格闘技ならぬ想像格闘技という感じですね。 


 ――想像格闘技ですか? 
 その通りです。ですから、全く新しい概念で誕生したんです。
 僕たち人間は想像する生き物ですから、人間の可能性はやはり無限大だなと思いましたね。 

しかも、ブレインファイトがいいのは体力的な差や、身長差などのハンディというものが全くありません。 

僕が二メートルを超える大男を一発で倒すことも可能なんです。
もちろん、女性にもそれは言えます。

 ですから、誰にでも参加できる格闘技と言えます。


 ――今のところ選手は何名ほどいいるんですか?
 ブレインファイターは現在のところ、僕を含めて五名です。

最初は私と弟と二人で始めたんですが、弟が友達を連れて来たりして段々増えていきました。 

まだまだ会員は少ないんですが、これを世界中に広めてゆくゆくはオリンピック種目にしたいという夢があります。


 ――壮大な夢ですね。では普段、どのような活動をされているのか教えてください。

ブレインファイターは実践あるのみです。
鍛錬を重ねて、常に高みを目指しています。
ですので、僕が夜仕事終わってから、道場にみんなで集まって戦いを繰り広げています。 


――道場というのはどういった場所ですか?
ブレインファイターは、実際には体を動かしたりはしないのでどんな場所でもできます。

多いのはマクドナルドですかね。ただ、マクドナルドだとあまり大きな声を出したりできないので、試合の時などはカラオケボックスでやったりします。

まぁ場所はどこでもよかったりするんですが、あまり迷惑にならない場所を選んではいます。 


――大きな声を出すことが多いんですか?
 シャウトがありますからね。それは後々説明させていただきます。


 ――一日どれくらい練習するんですか?

最低三時間くらいでしょうか。想像格闘技と言えど、クタクタになりますからそれくらいが限界になります。
 


――チャンピオンということは、大会も行われているということですね?

もちろんです。
僕は初代チャンピオンでこれまで四度連続で防衛しています。

 大会は僕の自宅でやりました。弟もいるので、それが楽だったんです。


 ――まだ全貌があまり見えてこないのですが、声を出して戦うということですか? 

まぁざっくりですが、そう考えてもらって問題ないと思います。


 ――では具体的にどのように戦うのか実践してもらえますか?

わかりました。
ただ僕はご存知の通りチャンピオンですので、相当強いですが手加減はしませんよ。
それでもいいですか?


 ――はい。それではルールを教えてください。

まず最初に先攻と後攻を決めます。当然先攻のほうが、有利ですがこれはわかりますよね?

先攻はファーストアタックを仕掛けることができます。それを受けて後攻がガードするのか、アタックするのか、エスケープするのか瞬時に決定しシャウトします。

これでワンターンですね。
勝負がつくまでこれの繰り返しになりますが、これは実際にやったほうがわかりやすいと思います。
 


――そうですか。ではやりましょう。どのように進めていけばいいですか?
 僕はチャンピオンなので後攻でいいですよ。
まずファーストアタックをどうするか決めてください。

格闘技なので、どんなワザでも結構です。


 ――わかりました。ではいきますね。左ジャブ

それを交わしてアッパー!! ノックアウト!!! 

  ※静まり返っていた店内で突然大声を出す、ゴードン氏
 

これで僕の勝ちです。


 ――ん??? どういうことですか? 
今のは僕の勝ちです。
まずあなたのファーストアタックを僕は完全に読んでいましたから、すぐによけてアッパーで倒したということになります。

さらにシャウトポイントも重要で、僕の有効打となりました。


――よくわからないんですが、叫びながらワザを繰り出すということですか?

簡単に言えばそうなんですが、少し奥が深い部分もありまして。これは経験していかないと、説明するのは難しいかもしれません。
ただ、なんとなく今のバウトで全体像はつかめたと思います。


 ――バウトというのは?
 戦いのことですね。もう一度やりますか?


――お願いします。今度は僕が後攻でもいいですか?
もちろんいいですけど、僕は相当強いですよ。大丈夫ですか? 


――はい、ではお願いします。 
では先攻でいきますよ。
フゥー。

   ※大きく息を吐きだし、目を瞑るゴードン氏。すると次の瞬間、店内に大きな声が響き渡り……。
 

いきなり右ハイキックがヒットー! ノックアウトーーーー!!!

はい、 僕の勝ちです。


 ――すいません、今のもよくわからないんですが? どういうことですか?
ガードががら空きでしたから、一発で決めちゃいました。
シャウトポイントも有効でしたね。 

すいません、勝負事なのでつい本気を出してしまいます。


 ――たしかにそうですね……。少しだけ手加減してもらえますか?
まだやりますか? タフですね。僕はいいですけど、明日とか結構響きますよ?


――全然大丈夫です。お願いします。では今度はもう一度僕が先行でもいいですか?

いいですよ。ただやはり実力差があるのは否めないので、ハンディマッチ戦にしましょう。
ファーストアタックは必ずヒット、さらに僕のターンは必ずエスケープとします。
 


――お願いします。では行きますよ。左ジャブ!

ワンヒット!! エンド エスケープ!! 

  ※店員が少し慌てて駆け寄ってくるのが目の端に入るも、ゴードン氏はおかまいなくシャウトした


――右ハイキックがヒット! ノックアウト!!

リカバリー!! エーンド、ヘラクレスパーーンチ!! 
ノックアウトーーーー!!!!

  ※たまらず注意に来た店員をしり目に……。

はい、僕の勝ちです。 


――負けですか……。そうですか……。強いですね……。
 そんなにガッカリしないでも大丈夫ですよ。僕が相手なんですから、そこは仕方ないですよ。
他のブレインファイターでも、僕にはそうそう勝てないですから。


――ちなみになんですが、今まで負けたことはあるんですか? 
公式戦は負けなしですね。練習試合では5分間のタイムアウトの引き分けというのはよくありますが。  


―やはりそうですか。ところで弟さんっていうのは、現在おいくつですか?
今は小学二年生ですね。結構年齢が離れているので、一緒にいると少し恥ずかしかったりするんですが。
 


――ということは他のブレインファイターのみなさんも、同じくらいの年齢ということですか?

その通りです。だから練習でカラオケとかマクドナルトとか行く時は、僕がみんなの分を奢ってやるんでその出費はまぁまぁいたいですね。

まぁ働いてるのは僕だけなので、仕方ないといえば仕方ないですが。


――では最後に今後の夢をお聞かせください。

はい、先ほども言いましたけれども将来的にはオリンピック種目にしたいと考えています。
そこまで行くには、長い道のりだと思うんで少しづつ少しづつ、まずはブレインファイターを増やしていく地道な作業となっていくかなとは思っています。

この取材記事で、競技人口が増えることを祈っています。


 ――そうですね。興味を持つ方がいればいらっしゃればいいですね。
是非ともよろしくお願いします! 


 そう言って、メガネを外しつぶらな瞳で私をまっすぐに見つめるゴードン氏だった。


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 取材を終えた私は帰路につくまでの道すがら、自分が小学生だった頃のことを思い出していた。 

いつも兄に泣かされていたあの頃。

オリジナルのプロレス技の実験台として扱われていた、屈辱的な日々を過ごしたあの頃。

体格差で決して敵うはずもなかった相手を前に、悔しさで涙を流していたあの頃。
 

毎日痛めつけられていた私に比べれば、ブレインファイトで決して勝てない相手がいるほうが、弟にとってはいくらか健全なのかもしれない。
 

ゴードン氏の弟たちが、立派な青年に成長してくれることを心から願うばかりである。


おわり

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