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【ショートショート】全力で推したいピアノ

わたしの、ピンクのアップライトピアノ。
この子は、ほんとうにデキる子だ。

コンクールの課題曲なんかを弾いていると、
モザイクのかかった機械的な声が割って入る。

「チョット何言ってるか、わからないデス」

もう少し指を立ててとか、もっと歌ってとか、
的確なアドバイスをくれるのだ。

言われたとおりに弾き直すと、ソウソレー! と無邪気に喜んでくれる。

どこから情報を得たのか、
「あの先生は、こんな弾き方が好きデス」と、
審査員の好みの弾き方まで、教えてくれるのだ。



デキる子の指導のもと、コンクールに臨んだが、終了後の講評を見て、愕然とした。

「遠くまで響く音が欲しい」
「演奏のスケールが小さい」

肝心なことを忘れていた。

デキるあの子は「アップライト」
コンクールで弾いたピアノは「グランドピアノ」

タッチの深さなど、本番では、
ピアノの大きさ分の差が出る。

「予選、落ちた」

3秒くらい間があって、あの子は言った。

「チョット何言ってるか、わからないデス」

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