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近況/インディーズ映画と日々の愚痴

執筆者:眞田康平

10年ぶりの新作長編「ピストルライターの撃ち方」が完成し、6月17日より渋谷ユーロスペースにて公開される事になりました。思えば2021年、主演の奥津裕也と中村有と私の3人が吉祥寺に集まり、奥津からやるやる詐欺になっている企画を実際やってみようぜと説得され、勢いのまま1ヶ月で初稿を書いたのがもう2年前‥‥。月日が早すぎて頭も体も追いつきませんが、そこからスタッフィング、キャスティング、ロケハン、撮影、編集、完成、上映まで全てを自分達で回してきた映画がここで、ようやく一般公開に漕ぎ着けました。今のところ、え、マジで!人くんの?と恐怖で一杯なので、何かの間違いでこれを読んでしまった人も絶対に来てくださいね。ホントお待ちしてますので。

近々では月刊シナリオの2023年7月号にシナリオを掲載して頂いたり、瀬々監督や今泉監督にもコメントを頂き非常にありがたい事が続いていて、またようやく上映で観客の生の声が聞けるなぁと不安もあるけどワクワクしております。と、イイ話(?)は大体この辺までこれから先はグダグダとくだを巻く感じになりますので先に謝りますね、すいません。なぜか、それは現状公開を前にして、今私自身がほぼ詰んでいる状態になっているからです。というのも、冒頭でも書きましたが今回企画から助成金の取得に始まり撮影、配給までほとんどを自分たちで進めているので(宣伝は流石に入ってもらいました)やる事が多すぎる問題に直面しているから。このコラムも安請け合いしてしまったものの時間が作れず、流石に明日VIPOのスタッフに会うのでそれまでにはでっちあげないと、とギリギリで書き殴っています。やる事の多さに加え生活のためには働かなければいけない(普段は広告系の編集をしている)ので、毎日仕事終わり家に戻ってから深夜パンフレットを作ったり、予告編作ったり、メール出したり、イベントを段取りしたりなど正直キャパオーバーな状態が1ヶ月ほど続いていて、満足に寝ていません。改めて、製作するだけでなく、プロデューサー、宣伝配給など周りの人の重要性を感じる日々です。これ全部続けてたら早死にする。まじで死ぬ。

元々私は人見知りが激しく、営業どころか業務的なメールでさえもなるべく避けたいと考えていて(そんな事言ってられないのでやるしかないのですが)本当に大した事ないような連絡もつい何か悪いんじゃないか、怒られるんじゃないかとストレスを感じてしまう性格なので、メール一通送るのに鬼のように時間がかかります。ヘトヘトになった私を慰める妻に「年間知り合いになれるのは10人ぐらい」と愚痴ったのが先月のハイライトでした。映画を作るコミュニケーション(脚本を書いたり、演出したり、現場で指示したり)はいくらでも取れるのに、何故その他の事に対してそんなに自信がないのか、周りからも散々チクチクされて、まぁ分かってはいるのですが、正直本当に向いてないのでその辺はもっと向いてる人にお願いしたい。今回に限っては主演の2人が色々動いてくれているので助かってはいますが、実際頭からおしりまで自分が関わるのは初めての体験だったので、まぁこんな大変かと日々感じております。

どうしてこんな愚痴を吐いているかというと、その余裕の無さが作品のクオリティに直結してくるなと思うからです。今回の現場では自分もプロデューサーや製作部の視点で関わってしまったので、スケジュール内で撮りきる事(結局追撮したけど!)、ある種壮大な風呂敷広げたこの脚本をちゃんと映画として成立させる事、映像のクオリティを少ない時間の中でどれだけ担保出来るかに目が向いてしまって、演出や脚本だけに集中する時間が本当に少なかった。もちろん完成作品は納得がいくものになっているのですが、それは現場も含めギリギリのバランスでなんとか成立しているような一種奇跡に近い代物で、もっと余白が欲しかったなと感じてしまいました。

余白、それは時間の事なんだろうと思います。もっと簡単に言うと金です。演出にしたって芝居にしたって人間がやるものなので、現場で迷子になったり遊んだり試行錯誤する時もあると思うのですが、その時間が取れなかった。ひたすら力技でなんとかコントロールしていったのが今回の映画で、それが画面から滲み出ているなと。もっと違うアプローチもあったろうにと今となっては思います。

しかし幸か不幸か、この映画に関しては「2度目の原発事故が起こった近未来」を舞台にヤクザの下でチンピラが除染作業員を運んでくるという閉塞感に溢れたお話なので、社会的な事に言及しながら、システムに潰されていく人間たち(とその尊厳)をドラマとして描こうとする、と何ともドン詰まりなテーマに、この余白もなく閉じていく感じが中盤あたりからドンドンハマり始め、思ってもみない方向性でラスト落としこめたのは、それはそれで“映画”の面白さなのかなと感じています。

やってみて、初めてここまで経験して知ることも大変多くあり、上で書いたこともそうですが、宣伝でもなんでも自分から関わっていかなければたいしてこっちを見てくれないのだなとか、いつの間にか年をとってしまったのだなとか、自分自身は自分の脚本を書いたり映画撮ったりしたいだけであんまり変わってないのだけど、色々な人が関わって映画ができていると再確認する機会にもなりました。なので、少し心を入れ替えて営業とまではいかなくても、人と関わろうかなと(今は)している最中です。まぁ、本当に向いてないので、できれば苦手なことを誰かにお願いしたいと思う気持ちは変わっていません。

長々書いてきましたが、とりあえず今作品の上映後も映画は作り続けるのでそういうご一緒出来る人を探していくという事、それが私の課題なんだと思います。とりあえず脚本書くのは割と好きで得意なので色々オリジナルを進めていこうかと。何本か既に書いたのもあるのでご興味あればぜひお声がけください。(ここで持っていきますねと言えないのがミソ。)あと、飲みにいくのも大好きです。だいたい中央線にいます。

寝不足の頭で散文失礼しました。
あ、映画見てください!


©︎映画「ピストルライターの撃ち方」製作委員会

『ピストルライターの撃ち方』

遠くない未来、地方で再び原発事故が起こった。しかしその隣町では一見変化のない生活が続いている。
 ピストル型のライターで煙草に火をつけるチンピラの達也は、ヤクザの下で立入禁止区域の除染作業員をタコ部屋まで運ぶバンの運転手をしている。そんな彼の下に、刑務所に入っていた親友の諒と出稼ぎ風俗嬢のマリが転がり込んできて、行き場の無い3人の共同生活が始まる。

監督・脚本:眞田康平
出演:奥津裕也、中村有、黒須杏樹、杉本凌士、小林リュージュ、曽我部洋士、柳谷一成、三原哲郎、木村龍、米本学仁
プロデューサー:奥村康
撮影:松井宏樹
録音:高橋玄
音楽:長嶌寛幸
美術:飯森則裕
助監督:登り山智志
ヘアメイク:香理
制作:宮後真美
『ピストルライターの撃ち方』公式サイト
2023年6月17日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開


執筆者:眞田康平
1984年石川県生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科監督領域修了。
監督、脚本、編集エディター。主な監督作品に、修了作品として監督した『しんしんしん』(11)。同作は渋谷ユーロスペースをはじめとした全国10館で劇場公開。NIPPON CONNECTION参加。『イカロスと息子』(15)にて、ゆうばりファンタスティック映画祭ショートフィルム部門で審査員特別賞受賞。近作にndjc2018『サヨナラ家族』(19)長編第2作『ピストルライターの撃ち方』(22)。

【IKURA 公式サイト】眞田康平監督掲載ページ
https://www.ikura-vipo.jp/director/35.html