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上岡陽江+大嶋栄子「その後の不自由 『嵐』のあとを生きる人たち」

正直なところ、ふれあいとかつながりと言う言葉が好きではありません。そういう状態そのものはとても大切なものだと思いますが、言語化した途端に、作られたものになってしまう気がしたからです。さらに言うならば、お仕着せというか。

でも、この本を読んで、作られたものであったとしても、やはりふれあいやつながりが大切なのだと言うことが理解できました。しかも、それは、つながる相手の為と言うよりは、その周りにいる人、すべてのために、と言う意味もあるのです。例えば、誰ともつながらなくていいと考えている母親がいるとしたら、母親とつながる事は本人のためになるだけでなく、むしろその娘のためにこそ、意味があるのです。

この本は依存症に苦しむ人と寄り添う人たち、そしてそこからどう安定していったかについて書かれた本です。薬物はもちろん、アルコールも私は味見程度ですが、依存的な状況に心当たりはあります。例えば、暇さえあればスマホを見てしまうし、眠るべき時間にSNSを開いてしまうこともあります。

依存してしまうかはしないかは、自制できるかどうか、の違いなのだと単純に考えています。例えば仕事も放り投げてスマホに夢中になったりしないとか。子どもが必死に話しかけてきたら、見るのをやめるとか(あまり良くないんでしょうけど、普通に話しかけても反応しないくらいはお互い様かもしれません)。
この違いは大きいかもしれない。でも、単にその違いだけなのだ、という気もします。そしてここからは依存、ここからは違うというわけではなく、境目などないのだと思います。
その根底にある寂しさのような、土台がぐらついている感じは、かなり多くの人が感じていることで、依存症の人たちと自分は全く違う、と言い切ることはできないと私は思いました。
この寂しさはどうできたのか。
それは子どもの頃にあると本の中では説明されます。普通は子どもの周りに家族があり、その周りに祖父母やいとこがいて、さらにその周りに近所の人や学校や友達がいる。自分がコミュニティに帰るとそのなかに自分の価値を見つけられるのです。それと同時に、自分と家族、親戚や友達との境界線もきちんとしています。
ところが依存症をもつ人たちの話を聞いているとこの子どもを取り囲む順番とそれぞれとの境界線がぐちゃぐちゃになっているといいます。
家族の中にトラブルがあれば、それが外にバレないように必死に隠します。
幾重にも守られるということがないのです。
また、境界線を壊されると、自分の苦しみか家族の苦しみなのかが分からなくなってきてしまいます。
例えば母親に全く友達がいなくて、親戚もいなくて、孤立していたり。そうすると子どもは母親の愚痴を全部自分が受け止めなくてはいけなくて、
依存症を持つ人がどんな環境で育ってきたか、ある人の生い立ちが紹介されているのですが、本当にそれは目をそむけたくなるような状況で、読むだけでもとても苦しいものになります。

実は上岡さんは当事者。もともと薬物依存に苦しんでいたそうです。そして、悲しみを背負う母親を常に助けてきたといいます。3歳の頃から役に立つ子だったそうですが、3歳から役に立ってはいけないわけです。自分を中心に生きずに、母親を中心に生きてきてしまいました。それを唯一やめることができたのは、19歳から26歳までの8年間、薬物中毒になっていた時ということです。

ただ私自身についていえば、あの時期は必要だった。その八年間がなかったら、いま生きていないでしょうね。すべての症状がひどくてつらい時期というのは、地獄ではあったのだけれど、私にとって一切の責任をとらなくてもいい時期でもありました。だから「依存症の人たちのいちばんひどい、どうにもならない時期っていうのは、何かの荷を降ろしている時期かもしれないよね」とメンバーと話していたりします。

この本は支援者向けに書かれたのでしょうけれど、回復途中(それはいつか終わるものではなく、回復しつづけるということになるわけなのですが)の当事者が読んだとしても、どんな風にいきていけばよいのか、というヒントになるような気がします。
そして多かれ少なかれ寂しさを抱えているという自覚がある人は、自分のためだけではなく、家族のために、ふれあいやつながりを持つことが大事なのではないだということがよく分かりました。そうしなければ、その家族が、全部背負わなければいけなくなってしまいます。
そして家族が依存症の場合も、孤立してはいけないのだと思います。それは知識や情報を得るためというだけではなく、全てを自分達だけで背負おうとしないために。

どの部分も著者たちの生々しい思いが込められていて、印象に残るものでした。けれど、上岡さんのあとがきのところで、この実体験をたくさん踏まえた本を出すことへの迷いと決意が書かれていて、それもまた、すごく心に響いてきました。

上岡さんが代表をつとめるダルク女性ハウスです。

大嶋さんが代表をつとめるNPO法人リカバリーです。


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