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谷浩明「公務員のための伝わる情報発信術」

自治体は、発生して1時間以内の停電について情報収集し、発信しなければいけないのだろうか? 自治体新電力とかの話ではない。
先日市内のとある地区で停電があった。地震や雷なら原因は想像できる。昔だったら、まずブレーカーを確認して自宅だけの話かどうかを確認、夜なら周囲の状況を確認して停電だね、といってしばらく様子見するしかないね、ということになっただろう。
でも、今はすぐにネットで検索するのが習慣だ。情報が出ているのではないかと思ってしまう。停電情報はそんなにすぐにはネットでも出てこない。結局電力会社から情報が出たのは40分くらい経ってから。まだ電力会社に情報が出ていないタイミングから、市役所のとある部署にも問い合わせが頻発して、ウェブページに出してくれないか、と依頼があった。
そもそも市として発信しなければいけないのは、どこがサービスを停止しているか、の方が重要だし、停電している地区にある施設の状況などを確認の電話を入れて話していると、その間に「電気がついた」ということだった。停電発生から1時間程度のことだった。
何かあったら様子見しよう、ではなく、すぐに情報を知りたくなってしまう。それが満たされないと、遅いとなってしまう。でも、本当に1時間程度の停電の情報を市役所はお知らせしなければいけないのだろうか。もちろん施設の情報に関しては、サービスできないことをお知らせする必要があると思う。そして一般的な停電情報も、長引くようだったら、少しでも必要な人に届くように、ということはしたいけれど。
もちろんあらゆる情報を収集して発信できたとしたら、それが一番いいのかもしれない。でもそれは現実的ではない。起きて一時間以内の停電についての情報も発信しようと身構えていたら、行政として発信すべきこともどんどん後回しになってしまうからだ。
行政として発信すべきことは何か、ということはいったん置いておいて、「公務員のための伝わる情報発信術」の副題は、「住民の行動を変えるコツがわかる!」となっている。確かに情報が開いてに届いて理解してもらっただけでは、足りない。行動を変えてもらう、何か動いてもらうことが大事になる。
民間企業だったら、売れる、つまり誰かが欲しいと思いそうな商品を作り、その良さを伝える情報を発信して、購入という行動を起こしてもらえばよい。けれど、行政が行っているサービスは、必ずしも「売れる」ものばかりではない。啓発的なこともあるし、ルールを守ってもらわなければいけないこともある。そのサービスの対象者が必ずしも、情報を求めているとは限らない。だから商品の広告などよりももっと、強く、行動を変えてもらうことが必要なのだと思う。届けなければいけないのは、関心を持ってくれそうな人ではなくて、関心を持ってもらえなさそうな人だったりするのだ。
谷氏は「はじめに」の中で、下記のように言っている。

”伝わる”情報発信に必要なことは、たった2つだけです。
1つ目は、住民のことをよく知ること。(中略)
2つ目は、複数のツールを掛け合わせること。

何か商品を売るとしたら、ターゲットがどのようなものを求めているかを考えるのが大切だ。そこに訴える情報を出しながら商品を売り込まなければいけない。また、デザインの優れたチラシを作って公共施設のラックに置いておけばいい、というわけではない。そもそも公共施設に行かない人もいるし、行っても通り過ぎてしまう人がほとんどだろう。
当たり前のことかもしれないけれど、行政組織の中にいると、つい忘れがちだ。しかもこれがイベントの告知だったとしたら、イベントにどれだけの人が来たか、で満足してしまう。本当はその先を考えなければいけないのに。

と最初の停電のことを振り返ってみる。市役所からいちはやく停電の情報が出ているのを見て、安心してくれる人が出てきたら嬉しい。もちろん地域の人が安心して生活できることは、とても大切なことだ。そういうところまでできたらすごい。けれど、優先順位は低いのではないかと私は思ってしまうのだ。もちろんもっと長いこと停電が続いているのなら、また状況も変わってくるだろうけれど。
ここで大切になってくるのが、住民のことをよく知ること、になるのだと思う。問い合わせをしてきた住民だけのことを考えれば、何を差し置いても調べておくべきことなのかもしれない。でもそういう住民ばかりではないかもしれない。住民たちの中にどのような人がいるのか、よく知っておくことが大切なのだ。
一方で少し矛盾するかもしれないけれど、住民が欲しいと思う情報だけを出していればよいというわけではないという指摘も、谷氏はしている。SNSに関して、「柔らかい情報」と「堅い情報」を織り交ぜる、ということを言っている。「自治体として伝えなければいけない、まちの未来や住民の生命・財産に関わる重要な情報」もある。まちの未来に関わる情報は、短期的には必要と思われなくても、長期的には絶対に必要となる。
考え方だけでなく、住民のことを知るとはどういうことか、またSNSの発信からチラシの作り方まで、技術的なことも含めて、幅広く書かれている。明日からの仕事で、意識しながら取り組んでいきたい。

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