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澤田智洋「わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式 ホメ出しの技術」

最初にこの本を手に取ったとき、どんな風に誰かをホメると良いのか、という技術について書かれた本だと思った。けれど、そうではなかった。

あなたの言葉は社会の一部分です。ダメ出し社会を変えよう。

帯につけられたその言葉を見たときに、すごく共感した。私は何かをいいと思った時にはできるだけそれを伝えるようにしている。だからホメ出しらしきものが得意なつもりだったし、もっとうまく感動を伝えられるようになれるんじゃないかと簡単に考えてしまった。
毎日私たちはたくさんの言葉と接している。単に情報を伝達するだけの言葉がほとんどだけれど、その中で、自分ががんばったことや、大切にしていることについて何かを言われた時に、その言葉が持つ情報を超えて、私たちの心の中に蓄積される。著者はそれを、言葉の資産や負債と表現している。その言葉がそれからの人生にすごく役に立つような、思い出して前向きな気持ちになるような言葉もある。それが資産。逆に何度も思い出して暗い気持ちになるような言葉もある。それが負債。ダメ出しは負債になるもので、ホメ出しはそれが資産になるようなものである。ホメ出しだからといって、必ずしも、相手の良いところだけを伝えるとは限らない。相手の弱点を限定的にとらえつつ、良い方向に変えていけるような言葉であれば、それも資産につながる。
ホメ出ししていくために必要なのは、キラキラした言葉をたくさんストックして出していくことではない。まず大切なのは、相手をよく見ることだという。その時にも悪いところを見つけようみたいな感じではなく、ホメるためのアイデアを見つけていくことだという。そのために必要なのは3つのアイ。

ⅰ ×愛=アイデア

ⅰとは、まず自分を健康的で余裕のある状態に保つこと、そして、愛とは、第一印象で持ったバイアスを解いて、相手は素晴らしい人に違いない、という前提に立つこと、「惚れレンズ」をつけて、みることだという。それにより、アイデアが生まれ、「ホメ」というアウトプットとなるという。

ホメることは、単にどんな言葉を出せばよいか、という話ではなくて、世界をどう愛を持って見ていくか、ということだったのだ。
まずこの「ⅰ ×愛=アイデア」を前提とし、その中から、どうやってアイデアを出していくか、ということがこの本には書かれている。

私は意識的にホメ出ししているつもりだったけれど、振り返ってよく考えてみると、嫌なことがあった時など、きつい言葉で表現していることが多いことに気付いた。それを相手に直接投げつけていなかったからといって、他の人が聞いているわけで、あまり良いことではない。それこそ、自分を健康的で余裕のある状態に保てていない表れだったなと思った。

実際に「ホメ出しの技術」を身に着けていくために、ワークシートが用意されている。その中の一つに、「身近にいすぎてホメることを忘れてしまった人を一人選んでください」というものがあった。真っ先に浮かんだ人について、ワークに書かれたことを考えようとしてみた。けれど、見事なくらい、何も思いつかなかった。いくつかは形式的に挙げられた。けれど、全く何も出てこない項目もあった。
もちろん毎日家事に育児に仕事に疲れ切っていて、正直なところ「健康的で余裕のある状態」ではないというのもあると思う。けれど、それでも少しくらいは思い浮かぶんじゃないかと考えていた。長年身近にいたわけだから。実際はそうではなかった。うんともすんとも言わない自分の心の中を覗き込みながら、ああ、観察していない、というのはこういうことなんだなあと思った。観察していなくてもだいたい、こんな風だろうな、というのが分かってしまうからしなかったというのもあるし、分かっているという思い込みもあったのだろうなと思った。
その後、2日間そのまま放置して、昨日、ちゃんとノートに書きながらワークに取り組んでみた。そうしたら少しずつ言葉が出てきて、完成させることができた。思い出し始めたら、こんなこともあるな、あんなこともあるな、と芋づる式に言葉が出てきた。因みにワークをやってから今これを書いている時までにも色々と追加項目が出てきた。ようやく「観察」の準備が整ったらしい。
身近な人でさえこうなのだから、じゃあそれ以外の関わっている人のことはどうなのだろう、と思うとずいぶんと不安になった。子どもについては、ある程度観察していると思っている。また職場の部下に対しては、チームとしての仕事を進めるために必要な観察はしていると思っている。けれど、それも不十分かもしれないし、それ以外の日常的に接している人に対しても、わざわざ伝えなかったとしても相手のことをいろいろと「こうだな」みたいに考えていたりしている。それをそのまま伝えなかったとしても、相手に向ける言葉や態度に、その判断が現れているかもしれない。そう考えると、「あなたの言葉は、社会の一部分」という表現が真実味を増してきた。
ホメ出しとか、惚れレンズだけじゃなくて、この本には随所にコピーライター的な表現がたくさん入れられている。著者のいうホメ出しの技術が使われているから、この本そのものが、読む人にとって、資産になりそうなものだと思う。今日から世界を愛ある目で観察して、表現することを楽しんでみたい。そしたらきっと社会が少しだけ良くなるだけじゃなくて、自分も楽しくなれる気がする。


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