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イギリスの舞踏音楽の思い出

Chère Musique

イントロダクション

このところ、“音楽と心や体”という感じのお話を続けています。

1月の週末講座を「音楽の中にたっぷりと浸って、体と心を活性化させるというメニュー」でおこないました。
寒さやいろいろで固まっている心と体のために、音楽の力を借りる、という内容。

事前に不要な硬さや重さを少しでも取り除いておくと、良い演奏をすることができます。
演奏でなくても普段の生活でも、自分を軽く、柔らかくしたいと思う季節なので、とても好評だった講座でした。


そして1月27日の投稿で、そのメニューの中で使った曲をご紹介しましたが、その中に「イギリスのバロック舞踏音楽」というのがありました。

カンタベリー大学で

今回使ったこのイギリスのバロック舞曲というのは、じつは私のとても大切にしている想い出のひとつなのです。


私は四年に一回スイスのジュネーヴにダルクローズ・リトミックの講習を受けに行きますが、2005年の一回だけ、イギリスにも講座を受けに行ったことがあります。

イギリスもスイスやアメリカに次いでダルクローズリトミックが発展している国。
有名な素晴らしい先生がたくさんいらして、音楽家にもリトミックを勉強している方がとてもたくさんいるようですし、いろいろな音楽の専門の大学などにリトミックのコースがあったり、研究者もたくさんいるようです。


そのイギリスでリトミックのたしか協会だったと思いますが、そういうところが開催する夏期講習に行きました。
四年に一度ジュネーブで受けるような世界中に宣伝して受講者を募る「国際大会」という名前のついた講習会ではなく、毎年二、三回やっているような自国や近隣の国の人々が気軽に受けに行く小さな講座でもなく、そのちょうど間ぐらいの感じの規模。
結局はイギリスやヨーロッパの人たちが90パーセントだったけれども、それ以外の国の人も何人かはいたかなというな感じの講習会でした。


場所はカンタベリーという街。
これは文学好きの人ならおお!と思われるかもしれません。
歴史的にもキリスト教の面でもとても重要な土地です。
とても大きな大聖堂、物語の舞台やキリスト教の大切な場所である、世界的に名前の知られた大寺院がある街です。

そしてこれもとても大きな「カンタベリー大学」があります。
とても広い敷地で、いろいろな建物が建っていますが、そこがこの講習会の会場でした。

大きな大学というのは世界中どこでも、夏休みを使って大学のいろいろな建物や部屋や設備を、学術的なイベントに貸し出すということやっています。
私の母校の音楽大学でもやっているようです。

イギリスのリトミックの組織が、そのカンタベリー大学の一部をお借りして、そこで1週間の講習会をするという形でした。
きっと今でも毎年のようにそのくらいの規模のものをやっていると思います。


その時は泊まるところも、その大学の学生寮で空いてる部屋がいくつかあったので、そこを貸していただけました。
もちろん食事、洗濯、掃除は全部自分でやったのですが、イギリスの大学の寮に寝泊まりするなんて、体験として楽しくて、とても思い出に残ってます。


受講者にはアジア人が私ともう一人しかいなくて、その時に来ていた香港に住んでいる音楽療法士の女性とは、寮の部屋が近くだったこともあり、とても仲良くなりました。
今でもSNSで連絡を取り合ってるお友達です。


もちろん講座の中身も素晴らしくて、いろいろな体験をさせていただきました。
とっても楽しい、一生の思い出に残るイギリス体験でした。

朝イチのウォーミングアップ

その講習会では毎日毎日、朝たしか8時半くらいの早い時間から、毎朝初めに一時間くらい「体と心をほぐして目覚めさせましょう」という、ウォーミングアップのクラスがありました。
私はそれを全部申し込んであって、そのために毎日とても健康的な生活でした。


早く起きて、朝ごはんを食べたら、そのウォーミングアップのクラスを受けて体と頭を目覚めさせてから、他のいろいろな専門的な授業が始まるという毎日。
そのウォーミングアップのクラスで講師を務めてくださったのが、イギリスのバロック舞踏研究者でした。
舞踏家がダルクローズリトミックの先生でもある、どちらも専門でいらっしゃるという、そういう方が、そのウォーミングアップのクラスを全部毎朝受け持ってくださったのです。


とっても魅力的な方でしたし、私はいつも最前列で受講していたので(背が小さくてそうしないと見えないのです)先生とも自然とお話するようになりました。

他の受講生は何かの楽器の演奏家が多かったらしく、それまですでにある程度身体表現音楽のキャリアを積んできた私は、比較的その中ではキレイに体が動く方だったのだと思います。
自分で言ったら変かもしれませんが、先生の動きをいち早く掴んで、みんなをリードしていました。

それにけっこうしっかりとハードに体を動かす授業だったので、初めの数日は動くスペースを取るのが大変なほど部屋にいっぱいだった受講者が、日が経つにつれて少しづつ減ってきたりということもありました。
なので、真面目に受け続けた受講者たちは、先生と楽しくお話しできたのです。

イギリスのバロック舞踏研究

イギリスのその方の所属するバロック舞踏研究の団体はかなり大きなところなのだと思います。

お話をうかがった記憶を辿ると、おそらく、その中の音楽部門というようなものがあって、そこがその時代の音楽を録音する活動をしている、という、そういうことだったと思います。
バロックならある程度は楽譜は残っていますので、その音楽を、その団体の実際に踊る部門や学術調査の部門の人たちと一緒に、研究して音を再現していこうという感じでしょうか。

音楽家が演奏面だけでなく、体を動かす人たちと一緒になってその演奏方法、音の出し方を研究したり、歴史を紐解く学術的な研究者たちと一緒に、当時使われていた楽器や楽譜を研究したり、、、とても楽しそうですね。


そんなふうにして、ほぼ当時のままに近いのではないかと言ってもいいくらいの、研究され尽くした演奏を、1枚のCDにして作っていたのです。

宝物のCD

そして、そのウォーミングアップの授業に使った音楽が全部、そのCDからの音楽でした。

もちろん、踊るための音楽なので、体の動き、重心が、筋肉が、呼吸がといったようなことと、とても密接に結びついている音楽作品ばかり。
演奏の仕方もそういう感じで、素晴らしい音楽でした。
そういう大きな組織が何年もかけて研究した成果ですから当然です。


「最近できたばっかりなのですよ」と言いながら、それを使って授業してくださったのです。
そこで「先生、そのCD、買うことはできないんでしょうか」と、私は何日目かに訊いたのです。
そうしたら、「そういうふうにご希望される方もいらっしゃるかなと思って、いくつか新しいの持ってきています」と言ってくださって、買わせていただきました。

もうそのCDは私の宝物です。


帰国後に、その1曲1曲で、「この曲を使って、あの先生の授業ではこんなことをしてくださった」ということを、記録を見ながら思い出して研究し直しました。

「あ、そうか、ここのリズムがこうなっているから、だから体のここの部分をこういうふうにストレッチすると、この音に誘発されて、こういう効果があるのか」というようなことを。
全部はもちろんできなかったのですけれども、思い出せる限り勉強しました。


そしてその年の秋に、帰国後1~2ヶ月したころでしょうか、ちょうど、私が主催する音楽合宿というのがあったので、その朝の目覚めの授業でそれを使いました。

エンディング

私にとっては旅の音楽の中での1番大きな思い出です。
本当に宝物です。
今では買えるかどうかわからないですし、その当時は一般には売られていなかったと思うので。
「こんなに素晴らしいCDを持っているんです」というのが自慢なのです。
なので、その2005年以来ずーっと、何かあるごとに、自分の音楽活動に役立てています。
そしてこの音楽をまたもう20年近くも経った今、もう1度しっかりと勉強し直してみるのもいいのかな、なんて思ったりもしています。


今日は私のはじめてのイギリスで手に入れた素晴らしいバロック音楽の音源の想い出話でした。



Musique, Elle a des ailes.

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