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オリジナル小説 【待合】

病院というものは
血圧を上げる所である。
時に、頭が痛くなったり
胃がむかむかする所でもある。
検査結果を待つ待合に至っては
脈拍も上がり、心臓が暴走を始める。
さて、こんなに体を虐める所に来続けていたら、寿命が短くなるのではなかろうか。
そうだ。病院なんてものは、来ないに越したことはない。
「緊張」という名の虐めを受けるばかりか、診察も会計も「待ちくたびれ」という疲労を与えてくる。
なんて残虐なんだ。
こんな虐めに耐えていないで、
新しくオープンしたイタリアンレストランで、パルメザンチーズをたっぷりかけたシーザーサラダと紫蘇とオリーブオイルの香りがたまらないパスタを食べる方が、何百倍も豊かな人生だ。
それを知っているのに、
私は今日もこの残虐な待合にいる。
自分を虐めて楽しいわけはない。

年が明けて間もなく、
私は手術を受けた。
昨年末に受けた検査で初期の癌が見つかったからだ。
ただ、ラッキーだったのは、
ごく初期で見つけてもらったことだ。
それもこれも、慢性的な持病のお陰だ。持病の検査で3ヶ月に一度、人間ドック並みの検査を受けている。
この習慣は、もう5年になる。
血液、肺、内臓のエコー、、。
それで昨年末に肺で引っかかった。
詳しくCTを撮ってみたら、数ミリという、ごく小さい癌があったのだ。
無事手術は成功し、
こうして、その後も状態をチェックしているというわけだ。
検査に来る度、再発転移があったらどうしようと気が気ではないし、
持病も悪化していると厄介である。
そんなわけで、私にとって病院というところは、ハラハラ、スリリングな場所なのである。
だけど同時に、命の大切さが身に染みる救いの場所なのだ。

さて疲れたし、帰りに鯛焼きを買って帰ろう。
初夏にはなったが、病院近くの商店のおばあちゃんが焼く鯛焼きは、やめられない。
いつも私は、オーソドックスな甘めの餡子と、店オリジナルのクリームチーズ、さらにカスタードクリームがたっぷり入った鯛焼きを3個買う。

お陰様で食欲健在な私である。

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