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レンチと音符の軽妙な二重奏

 妙なことだが、僕はある日、朝から機械いじりの達人になった。久々の休日に何故こんな事態になったのか、と聞かれると僕も詳しくは説明できない。もともとは楽曲制作のための時間だった。妻と息子は外出し、僕はパソコンと音符と対話しながら新しいメロディを生む予定だった。それがどういうわけか、車のエンジンと対話することになってしまった。

 僕の車が機嫌を損ねていたのが気がかりで、最初はそれを見てみよう、軽い気持ちから騒動が始まった。朝のコーヒーを啜りながら、自分で車の修理を試みた。しかし自力では何もできず、仕方なくディーラーに持っていくも、それも無理で、家に帰って再度修理。部品をまるごと交換すると高額になるので、持ち前の節約精神とテクニックを駆使していった。しかし、僕の手には音符の魔法よりも、レンチの方が重かった。というか、あまりにも馴染みすぎていて驚いた。

 そんな一日が続く中で、息子の成長を目の当たりにした。息子が寝返り返りを繰り返し、ハイハイの兆しを見せたし、お座りもした。一方、僕は車の部品と格闘していた。息子の笑顔は、車のエンジン音よりもずっと美しいメロディに感じられた。今まで見逃していた彼の成長の瞬間が、いつの間にか見えるようになったのだ。

 もちろん、今日の予定が完全に狂ったことは、一見、失敗に見えるかもしれない。しかし、僕は新しい体験を手に入れたと思うと、心から笑える。息子の成長、車の修理、そして、レンチとの奇妙な友情。これらすべてが、僕の人生の一部となり、新しいメロディを生むためのインスピレーションになるだろう。そう考えると、この日は僕にとって、最高の一日だったと言えるかもしれない。なんだか、新しいメロディが頭に浮かんできた。それはレンチを振り回す僕と、ハイハイを始めた息子のメロディだ。

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