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限りある時間の使い方

今の家は子どもが小さかったときと全く同じ間取りなので、時々タイムスリップしたような気になる。
布団で寝ていた小さな子が急に大きくなってドアを開けて出てきたような。よくドラマで、子どもだった主人公がある回を境に成長して役者も変わるみたいに。逆に、突然、オムツ姿の小さな子が部屋から走り出してくるような錯覚に陥る。
引越した当初は、昔のことを「ぜんぜん思い出しもしないや。家具や窓からの景色がちがうとこんなにも別の家になるんだ。」と思ってたのに。やはり暮らしていくと記憶が出てきた。


資格取得とかTOEICのための本しか読まない息子が「限りある時間の使い方」という本を買って読んでいる!
一体どうしたのだろう?と思って聞くと、コロナ後遺症になって何もできなくなった私を見て、健康な肉体で自由に動ける時間はいつまでも続かないと知り、できるうちにやりたいことをできるだけ沢山やるのが人生の充実につながるのだと思い、効率良くやるよう努めてきた。たしかに楽しいし、充実しているし、以前よりたくさんのことができるようになったが、去年の暮れあたりからそういう生き方に疑問を持った、と言う。
時間の管理はどんどん上手になってより多くのことを経験できるが、このままじゃ、今ではないいつかのために、先にある充実のために今を生きているようで、本当の充実は今になく、永遠にたどりつかないのではないか、と。

それを聞いて、私も病気になったかいがあるってもんだと思いました。息子に大切なことを考えるきっかけを与えたのだから、ムダではないと。


息子の卒業した高校では、卒業式に谷川俊太郎さんの詩を朗読します。卒業生だった谷川さんが後輩に頼まれて作った、ほんとうに素晴らしい詩です。卒業アルバムにもその詩が載っています。長いのですべて載せませんが、最後にこう結ばれるんですね。

あなたに

火と水と人間の

矛盾にみちた未来のイメージを贈る

あなたに答えは贈らない

あなたに ひとつの問いかけを贈る

「あなたに」谷川俊太郎


この詩の意味するとおり、息子は答えを自分で見つけていくでしょう。
親の私は答えを与えるのではなく、ヒントをたくさん散りばめてこの世を去りたいなと思います。
一生かけて気づいても気づかなくてもいいヒント。それをこの先残された時間でどれだけできるか。息子には宝探しみたいな気持ちで見つけてもらえたら、私も楽しい。(その時はもうこの世にいないかもしれないけど)
息子の問いは、私にも限りある時間の使い方を考えるきっかけを与えてくれました。

人生のある時期、身体が不自由で家にずっといたからといって、決して世界が閉じて狭まるわけではなく、広がることもあるし、実際にこの二年で私はその広がりや深みを体験しました。内界への旅は限りがありません。
次に息子と話す機会には、ぜひそんな話をしてみたいです。
脳は25歳まで成長すると言うけれど、身体の成長は止まったかもしれないけど、人生や生き方について考えられるほど大人になったんだなとうれしく思いました。
もう裸で走り回っていた小さな子はいないんですね。
これも時間のなせる技です。



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