ミラベル感想
ディズニープラスで「ミラベルと魔法だらけの家」を見た。
ネタバレあり感想。
ディズニーらしくミュージカルメイン、女性キャラの心情に注目したストーリー。誰でも楽しめる作品だけど、どちらかというと「アイデンティティに悩む女性向けの作品」だと思う。
×悪いところ 家族愛がウザイ。
「家族を愛している」「家族のために」という言葉が大量に出て来る。
私自身は家族や親戚というものが大嫌い。薄っぺらく感じる。
他の作品でもそう。
「リメンバー・ミー」も出来の良い映画だったけど、「家族が一番!」というセリフがありものすごく嫌だった。結局家族と共に暮らす選択をするし。
「ラプンツェル」も誘拐犯の継母が姫をいじめて、結局継母は死んで実の両親の元に戻り愛されるという展開がつまらなかった。
実の親でも親戚でもゴミのような人間というのはたくさんいる。
○良いところ 人間のアイデンティティをテーマにしたのはとても良かった。
特に女性は他人に評価されて価値が決まるとされて来た過去がある。顔の良さと若さが重要で、要は男性から好かれるかどうかが全てだった。太古の昔、女性は男性に見初められ結婚して健康な子供を産んで初めて価値を認められたし、唯一結婚だけが社会的地位を向上させる手段だった。
今回の作品では美貌や若さだけで判断されているわけではないけれど、とにかく能力と美貌で女性が判断されている。そんな中で評価されなくては、と躍起になる女性達に対して別に完璧じゃなくても良いと訴え、評価する側の人間に対しては人間の価値は能力で決まるわけではない、と訴える。
今回の評価者は男性ではなくて祖母。そこはディズニーだからね…。男性が評価者になると話がこじれるし生々し過ぎて気持ち悪いもんね。
今回の映画では三姉妹の葛藤を描く。
長姉イサベラ、次姉ルイーサ、主人公のミラベルの三姉妹。
長姉イサベラは美しく才能にあふれていた為に完璧であることを求められ、それがプレッシャーだった。常に完璧であるために努力し続け、そのために祖母を喜ばすためだけに祖母が完璧と認めた男性と好きでもないのに結婚しようとしていた。
次姉ルイーサは力自慢だったけどその才能ゆえに力のない自分には価値がないと思い込み、どんどん力仕事を任されるうちにそれがプレッシャーになっていった。
二人とも内心では、祖母に認められなければ…と実は必死だった。
ミラベルも家族の役に立ちたかったけど他の姉妹のように才能がなかったため、祖母には認められず辛い思いをしていた。家族に少しでも認められたくて手伝いをしたり、家に入ったヒビの原因を突き止めるために努力する。それもまた家族に認められなければ居場所がない、というプレッシャーに追い立てられながら行動していたんだと思う。
物語の過程の中でミラベルは次姉ルイーサのプレッシャーを知り、本人からの「抱え過ぎ?」という問いかけに対して肯定してあげた。また、完璧でなくても良いんじゃないかと気づいた長姉イサベラの背中も押してあげる。
そして物語の終盤、家にヒビが入り魔法が失われようとしているのは家族にプレッシャーを与え不和を招いた祖母が原因だ、とミラベルは伝える。
祖母は家を守りたいがゆえに家族に厳しくし過ぎてしまったと改心してミラベルと仲直りする。
○良いところ 単に悪い人間を倒すのではなくて、会話で相手の間違った価値観や行動を正したところが非常に良かった。
今回の作品における悪は「美貌や能力で本人の評価が決められる価値観や環境が悪」だった。物理的暴力ではなくて対話によって悪が打ち倒されるのが良かった。(ラプンツェルみたいに物語の中で敵を死なせるのではシンプルすぎる。救いもなくてただ悲しいだけ。悪は更生しないのか!?ってショックを受けるだけ。)
美術のレベルは相変わらず高い。今回の映画は、「祖母の価値観と行動は間違っていたけど、でもその行動さえ改善されればまた仲良し」という形で問題が解決されおさまったのがとても良かった。ストーリー上に明確な完全悪キャラを作ってそのキャラを倒せばスッキリして終わりという勧善懲悪型の話を簡単に作れたのに、そうしなかったのは良い取り組みだし素晴らしいと思った。
×良く無いところ どうせならルッキズムについて少しは触れて欲しかったな。
長姉イサベラだけ完璧と言われて次姉ルイーサが完璧と呼ばれないのは能力の違いではなくてきっと美貌のことが影響しているよね?
花を咲かせるだけの能力を持つイサベラ。力持ちで色んな人の役に立つルイーサ。能力差だけ見れば実益で言えばルイーサの方が優秀。花を売って商売したら利益が上がりそうなのはイサベラだけど…そんな描写は無い。
イサベラは天使のような美貌を持つから完璧と言ってもらえるのかな?ルイーサはムキムキで長身でモテなさそうだから完璧とは言ってもらえないのかな?男性は能力が優秀ならそれだけで褒められるのにどうして女性は能力に加えて美貌も必要なんだ?美しい姉に比べられてルイーサは悲しかったんじゃ無いかな。もしかしたら「能力がなければ無価値、だって私は可愛く無いから…」なんて思っちゃってたのかも。切ない。
美貌による評価の違い、これも間違いだと思う。この点に関しても主人公ミラベルには否定してほしかった。言葉で。
まあ、美人と一度も言われていないミラベルが祖母から存在しているだけで価値がある特別な存在だと認めてもらえたから、祖母のセリフから「美貌も能力の有無も関係なく一人一人が特別だ」と作品テーマを結論づけても良いかもしれないけど。ちょっとわかりにくいよね。
「顔は関係ないでしょ!」と一言でいいから誰かに言ってほしかった。
×良くないところ 最後に魔法の力が戻ってしまったところ。
最後のシーンでは村人達に家を建て直してもらいミラベルがドアノブを開けるとみんなに魔法の力が戻る。
能力があるからこそ他人から賞賛され愛され認められ…でもそれがプレッシャーになっていた。奇跡として授かった一時的な魔法の能力は失われ一般人として生きていく方が幸せなんじゃないの?とは思った。またいつ消えるかもわからないし。家族に不和が訪れると消えてしまう魔法ってなんだよ。もしこれから一族の中にとんでもなく性格が悪く知性や倫理観に問題のある子供が生まれて街の人達に悪いことばっかりして親族間で不和が生じたとしたらまた魔法の力は失われるの???そんな力に頼って賞賛されても嫌じゃない…?
×良くないところ 音楽とダンスがちょっとうざい。
冒頭のミュージカルシーンはうざいかな。
後半は慣れてきて楽しめたけど。でも音楽が無いなら無いで寂しいからあった方がいいのかなあ…。
○良いところ 美術のレベルは相変わらず高い。
×良くないところ キャラクターが多すぎる
親族が多過ぎてテーマがバラけてしまった感がある。アナ雪では主に姉妹のすれ違いを描いていた。両親も早くに亡くなったので物語がシンプルで良かった。
この作品では家族が多すぎるし、メインが姉と妹だけの対比ならまだしも、三姉妹と言うのが余計に話をぐちゃぐちゃにした気がする。親世代の三兄弟の顔が若過ぎて、兄弟やいとこのようにさえ見えてしまって混乱する。次姉の悩みを聞いた後は長姉の悩みを知り、次は祖母の悩みを知る。和解する相手が多過ぎて感情をどこに持っていけば良いかちょっと困る。
長姉との口喧嘩のシーンではミラベルは「高慢で自己中!」と言うが、視聴者はそのようなシーンを見ていないのでちょっと置いていかれる。(ミラベルに髪をぶつけたシーンも故意ではなくて事故に見える。)
×良くないところ 長姉イサベルの婚約者候補の男性の乗り換えが早過ぎ
ミラベルのいとこのドロレスが少し告白しただけでころっと乗り換え。いや、婚約者候補の男性も周りに焚き付けられてイサベルを好きになっただけだと思うから可哀想なんだけどね。同じ年頃なのに容姿の優れているイサベルに良い縁談話が来て、ドロレスには無いってのもまた偏りの切ないところ。祖母、さてはイサベルが可愛いからってエコひいきしてたな…?
×良くないところ いとこのドロレス、耳が良い設定なのに屋敷の中のブルーノおじさんの存在について誰にも話していなかったところ。ご都合主義だと思う。
ブルーノおじさんの潜んでいる音が聴こえていたと言いながら誰にも伝えていなかったところに納得がいかない。ミラベルがブルーノおじさんの話をしたのはよく聴こえていた上にすぐ他の家族に話したのに…。
ドロレスの能力は聴力では無くて別の能力にした方が良かったかも。
×良くないところ 長姉イサベルの婚約者候補の男性が勝手に子供は5人ほしいって決めてるのもキモかった。
イサベルがドン引きしているのが良かった。
命を張って出産する側の女性が出産するかどうか、何人出産するかどうかを決めるべきだと思う。男性側は希望を伝えてもいいけど必ず5人ほしいけど彼女はなんて言うかな、という態度でいるのが理想だと思う。
×良くないところ 長姉イサベルの婚約者候補の男性のことが嫌だとはっきり言えたこと。
長姉イサベルが婚約者候補の男性のことを好きでないのは態度の節々から伝わって来たので、彼女が「あんなのと結婚なんて嫌」と言い出した時は良く言った!とスカッとした。
親族に評価されるため・生きていくために好きでない男性の元に女性が嫁ぐと言うのは大昔からよくあることだった。が、その気持ち悪さを描けていたのは良かった。
○良いところ 部屋の広がりと美しさは素晴らしかった。
まず、家の中よりも広い部屋が存在すると言うのが素敵だ。特にいとこのアントニオの部屋は美しいジャングルが広がり、能力開花後のパーティーシーンは夢がたくさんの素晴らしい映像だった。
×良くないところ 他のキャラクターの能力を活かしきれていない。
しかし動物の話が聞けると言うのがストーリー上影響してくるシーンは「ネズミの話を聞いたからミラベルとブルーノおじさんの会話内容についてアントニオは全部知ってる」だけ。これだけで終わってしまったのはちょっともったいなかった気がするな。悪天候をもたらすおばさんも耳の良いいとこも、活躍シーン不足だ。
まとめ
物語のクオリティはズートピアやアナ雪に並ぶレベルではない。もっとクオリティが低い。大成功はないと思う。けどビジュアルが綺麗なのでそれなりに興行収入も伸びると思う。けど最初っからディズニープラスで公開されていて、映画館での興行収入が落ちないか少し心配。
おまけ この作品はこんな展開でも良かったかも?↓
美人の長姉イサベルが主人公の話。嫌な結婚話を持ちかけられ本当は断りたかったが、祖母に気に入られたいばかりに承諾してしまう。あまりの嫌悪感からショックのあまり魔法が使えなくなり、他人からの評価に悩み、アイデンティティを失う。美貌があるだけ良いじゃないかと言われるが、その美貌でさえ男に気に入られなければ意味がない、自分の好きな髪型や服装は許されないという現実にショックを受ける。が、開き直って髪型も服装も自分好みに全部変える。男性から評価されやすい美貌から逸脱し、自分の好きな自分の外見を獲得する。花を咲かせる魔法が使えなくなったものの元々植物は大好きだった。だから代わりに、家を出てお花の農家さんで修行を始め、そのうちに花同士を掛け合わせて美しい新種の花を咲かせる技術を身につける。特別な才能や能力なんて関係ない。自分の好きなことに関する仕事を地道にやろう。と前向きに頑張る。「他人に評価されるために生きるのをやめよう。美貌も能力も関係ない。自分は生きているだけで特別なんだ。」と悟る。生き生きと過ごすイサベルを見て、祖母も自分の態度を改める。
こんなふうに家を飛び出て自立していく話の方が、テーマが綺麗に収まったかも。
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