この世のなごり 夜もなごり

休職した。
正確に言うと溜まった有給を取得している。
精神科で「適応障害のため一か月の休養を要する」という診断書を貰ったその足で会社に向かい、休職したい旨を上長に伝えた。
伝えるときは震えた。本当にこれが合っているのか分からなかったから。

診断書を提出するのも実は一苦労だった。
「もう少しくらい我慢できるんじゃないか。普通の人ならこんなことで音を上げたりしない」という考えがぐるぐると脳内を巡り、「アンタは本当に我慢がない」という幼い頃からの母の罵倒が蘇り、提出を止めようかと思った。低きに流れる自分の性質を考えても、一度休むことを覚えたらろくなことにはならない気がした。
結局、Twitterのフォロワーさんに背中を押してもらい、なんとか上長に休む旨を伝えたが、なんて我慢がない駄目な人間なんだと自己嫌悪にも陥ったし、現在進行形で罪悪感や恐怖や不安が取れない。
これからどうしたいんだっけ。私は何が好きなんだっけ。
生きるってどうやるんだっけ。

休職したら、休んだらどうにかなるかな、と甘く考えていたが、そんなことはなく、むしろ溜めた有給が日に日に減っていくのが新たな精神的苦痛となり、食事を吐き気なしでは済ませられなくなった。
何を見ても美味しそうとは思わないし、ご飯は吐き気を連れて来る苦行になりつつあるし、あんなに好きだった酒も受け付けなくなった。
もう何がなんだか分からない。早く死にたい。楽にして欲しい。
そればっかり日に何度も願う。
私、いつからこんな情けなくってだらしない駄目人間になっちゃったんだろう。
ちゃんと出来てたのに。周りは結婚も出産も出世もちゃんとしてるのに。
死にたい。許して欲しい。
誰よりも自分自身にこれでいいのだと認めて欲しい。

先日WEBでとある文章を読んだ。
『「思ったことを出していいですよ」「好きなことをしていいですよ」と突然言われても、出してもいいと思ったことがないので、または実際に出すことを許されていなかったので、いざ出そうとしても急に出てくるわけがないのだ。かつて自分を守るためにできた蓋が、今度は妨げになってくる。』
(桜林直子「あなたには世界がどう見えているか教えてよ」)

全く以てすべて身に覚えがある。
私の母は、とても感情の起伏が激しい人だった。
今思えばADHDなりASDなり発達特性がかなりあった。時間を守ることや片付けや人の感情をおもんぱかることが非常に苦手で、他人が思い通りに動かないとすぐ暴力や暴言に訴える。
失神するまで殴られるのも、言動を全て否定されるのも、ダブルスタンダードも、ご飯をもらえないのも、包丁を向けられるのも全部日常茶飯事だった。端から母を好いていなかった父は、いつも家庭に不在だった。
いつも次は何が起こるのか分からなくて、毎日怖くて薄氷を踏むようだった。
小さい頃は母の機嫌を読むのが下手で何度も殺されるかと思ったし、長じては母をコントロールするために小ズルくなった。
大人になるまで、私が育った環境が異常だとは知らなかった。
家庭は小さなブラックボックスで、街の明かりの一つ一つには地獄が潜んでいる。

あと数時間で今年が終わる。
月日はいい。スルッと衣でも脱ぐように姿を変えてしまえる。
何もかも打っちゃって私もスルッと違う生き物になりたい。
来年はいい年にしたい。満足できるものにしたい。
それだけだ。

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