カープダイアリー第8466話「限りなく透明に近いドジャーブルー、ユニバーサルな戦い」(2023年12月18日)

ボストン・レッドソックスの吉田正尚とオリックス・バファローズの西川龍馬。1学年違いの先輩・後輩コンビが福井県敦賀市の市民文化センターで「敦賀気比高校OBアスリートトークショー」の壇上に上がったのは2日前、16日のことだった。
 
地元の野球チームの子どもたちや市民らおよそ1000人を前にふたりの思いや来季の抱負を語り、会場は熱気に包まれた。
 
残念ながら翌17日の中国新聞にも、18日月曜日の地元局夕方ローカル番組でも、その様子は報じられなかった。すでに過去の人?カープファンにとってはまだとっても気になる存在だろうに…
 
このイベントは、 北陸新幹線の金沢-敦賀間の延伸開業まで約100日となることを記念して同校を運営する学校法人嶺南学園が主催した。学校経営者側にとって、ふたりはこれ以上ない人的資源だ。
 
少子化が進む中、都市圏でも地方でも中小規模の私立大学のうち3割以上が赤字経営に苦しんでいる。広島でも広島国際学院大学が5月で閉校となり、今は無人の校舎だけが残されている。私立の高校も状況はいっしょ。
 
総務省が7月26日付で公表した住民基本台帳に基づく人口動態調査によると、今年1月1日時点の福井県の総人口は前年比7784人減の75万9777人で、全国で5番目に少なかった。10年連続で減少し、減少数、減少率とも最大だった。最も減少したのは福井市で1701人、次いで越前市1242人、敦賀市671人の順だった。
 
北陸新幹線は、人口減に歯止めがかからない日本海側の北陸各都市に向けての救世主。金沢市内では2015年延伸に備えて中心部の再開発が急ピッチで進められた。その結果、街並みは一変し、北陸新幹線が伸びてくる前段階で多くの観光客を惹きつける条件を整えることができた。
 
金沢駅-敦賀駅間の着工は2012年。12年の歳月を経てやっと新幹線が敦賀まで行き来するようになる。最終的に敦賀-新大阪間が結ばれる計画だが、いつのことになるか誰にも分からない。
 
敦賀と言えば原発、そして「もんじゅ」。市内には「もんじゅ」の名を冠した宿泊施設もある。2001年に制作された映画「戦線布告」では北からの潜水艦が原発に近い駿河半島浅瀬で挫傷し、そこから自衛隊との交戦が始まり、やがて周辺国や米国も戦闘態勢に入る…
 
巨費を投じ、けっきょく廃炉となった「もんじゅ」。こちらは映画ではなくて「リアル」の世界の話だが、やはりこの地方に暗い影を落とす。トラブルに次ぐトラブル、隠蔽に次ぐ隠蔽で矢面に立たされた関係者は自殺した。夢の「核燃料サイクル」は夢のまま終わった。
 
京セラドーム大阪の近くで少年時代を過ごした西川龍馬は「野球に集中できる環境が欲しいから…」と敦賀を目指した。寮生活と学校と野球部専用グラウンドの“トライアングル生活”が自分に合っている、と…
 
1年夏からレギュラーになり、3年春には甲子園の舞台にも立った。
 
敦賀気比は校舎もグラウンドも高台にあり、吹き付ける冬の風は冷たい。雪も降る。だが、どんな時でもバットを振ることを止めなかった。やがてテニスラケットのように、自在にボールを操れるようになった。王子製紙での3年間で“龍馬打法”に磨きをかけた。
 
2015年のドラフト5位指名でその年の12月、カープ入団会見に臨んだ。ひな壇での代表質問のあとの囲み取材で同世代の大谷翔平や藤浪晋太郎の話を振られると…
 
「自分は大谷や藤浪と同い年ですが、(僕が)一番凄い選手だと思っています」
 
…と答えた。
 
その時点では質問した記者らは「おい、おい…」と思ったはずだ。だが、今の西川龍馬は尊敬する先輩のオリックス時代の7番を背負い、4年総額12億円以上の契約を手にするまでになった。
 
栗山英樹“監督”の演出によるWBCファイナルカット「準決勝編」では、3点を追いかける七回、二死一、二塁から四番・吉田正尚の一振りで追いついた。再び4対5ビハインドで迎えた九回には先頭の大谷翔平選手がツーベースヒット。塁上で「カモーン!」のパフォーマンスで自軍を鼓舞すると、続く吉田正尚が四球を選んで村上宗隆がサヨナラ打!という流れになった。

普通では考えられないことが起こる。それが栗山ジャパン…
 
西川龍馬の一番の武器は、そんな吉田正尚を身近な存在としていることだろう。
 
前年オフ、ポスティング申請してボストン・レッドソックスと総額9000万ドル(約128億円)で5年契約した吉田正尚の、今季年俸は1500万ドル(約21億3000万円)だった。
 
西川龍馬はそんな吉田正尚を通して、大谷翔平をより身近に感じることができる。気軽にやり取りできる関係はカープ打線を一緒になって牽引した鈴木誠也とも構築されている。
 
ロサンセルスと大阪、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドとユニバーサル・スタジオ・ジャパン…「一番凄い選手」を目指す映画のようなストーリーは、来季、両都市で同時に展開されることになる。

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