見出し画像

マンガレビュー『ねじ式』つげ義春(1965~1984)いびつなエロ・グロ・ナンセンス



不条理マンガの元祖

本作のことはかなり前から
気になっていて、
ずっと探していました。

なかなか中古では売っておらず、
そろそろ新品で買おうか
迷っていたところだったのですが、

先日、たまたま中古で見つけたので、
ようやく読むことができました。

つげ義春といえば、
雑誌『ガロ』で有名な
マンガ家の一人です。

私がこの方の名前を知ったのは、
「不条理マンガ」について
調べていた時のことでした。

10代の頃から吉田戦車の
4コマが好きで、

こういうものの源流は
どこにあるのか
気になっていたんですね。

「不条理」と言っても、
吉田戦車はギャグマンガで、
ちょっと毛色は違うんですが、

つげ義春こそ、
日本の「不条理マンガ」の
元祖と言っていいかもしれません。

悪夢のように
脈絡のない世界が延々と続く

つげ義春作品で、
もっとも有名な
『ねじ式』は短編です。

私が買った'90年代発行の
小学館の文庫版には、
それ以外に以下の短編も
収められています。

収録作品
『ねじ式』('68)
『沼』('66)
『チーコ』(’66)
はつたけがり』('66)
『山椒魚』('67)
『峠の犬』('67)
『噂の武士』('65)
『オンドル小屋』('68)
『ゲンセンカン主人』('68)
『長八の宿』('68)
『大場電気鍍金工業所』('73)
『ヨシボーの犯罪』('79)
『少年』('81)
『ある無名作家』('84)

まずは、『ねじ式』について
書きましょう。

海辺で「メメクラゲ」
という謎の生物に刺された
男の物語になっています。

最初の1ページに
ドーンと描かれた
腕を抑える男の画が
インパクト大です。

『ねじ式展』

この男が延々と病院を
探し回る話なんですが、

とにかく、悪夢のように
脈絡のない話が続きます。

夢の中って、
突拍子もない展開が続きますよね。

あんな感じです。

病院をずっと探しているけど、
全然見つからないし、
いつまでも辿り着かない、

たどり着いたところで、
何も解決しない、
そんな焦燥感が
よく出ていました。

いや、でも主人公自体は、
その無表情で、
どこかのんきな感じもあります。

『ねじ式』は、
'90年代に浅野忠信主演で、
映画化もしており、

果たしてどんな映像に
なっているのか、
そちらの作品も気になりますね。

いびつな
エロ・グロ・ナンセンス

ここからは『ねじ式』以外の
作品について書きます。

本書に収録された作品を
収録順に読むと、
つげ義春の作風の広さが
感じられますね。

『沼』『チーコ』
『ゲンセンカン主人』
あたりを読むと、

やはり『ねじ式』のような
脈絡のない世界観が
印象的なので、

はじめて読む方は
「こういう作風なのか」
と思うでしょう。

しかし、『オンドル小屋』
『長八の宿』を読むと、
急に主人公は作者
と思わしき男性で、

紀行エッセイ風の
マンガが展開されます。

紀行エッセイ風の作品では、
なんてことはない、
旅先の宿でのエピソードが
描かれていますが、

平凡なようで、
どこかいびつな感じが、
いかにも「つげ義春」を
感じさせます。

つげ義春の作風を
わかりやすく言うと、

「エロ・グロ・ナンセンス」
という感じですね。

しかし、「エロ」と言っても、
絵柄的には性を感じさせませんし、

(裸の女性が
 たびたび出てくるが
 セクシーではない)

「グロ」もなんだか
現実ばなれしていて、中には
「吉田戦車の4コマに出てきそう」
と思ってしまうくらい、

残酷な描写なのに、
笑えてしまうものも
ありました。

(それを笑える自分も
 普通じゃないのかも
 しれないが)

今までに読んできた
マンガの中には
なかったタイプのマンガで、

「人の哀れさを描いた」
という点では
純文学に通じるものも
感じさせます。

(小説で言うと、
 安部公房の『箱男』に
 通じるものを感じる)

そういう作品は、
読んだあともずっと
心に残り続けて、
何度も読んでしまうんですよね。

本書に納められた短編も
そういう作品に感じました。


【作品情報】
初出:『月刊漫画ガロ』ほか
   1965~1984
著者:つげ義春
出版社:青林堂、小学館ほか

【作者について】
'37年東京都生まれ。
’54年、『犯人は誰だ!!』でデビュー。
’88年以降はマンガを発表していない。

【映像化作品】

『ねじ式』(1998)


この記事が参加している募集

マンガ感想文

今こそ読みたい神マンガ

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。