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知らなきゃハドソン~札幌に一大ゲームメーカーがあった時代~(9)ハドソン初のRPG

※2019年12月22日に書いた記事を
 加筆修正したものです。

‘87年にハドソンは、
はじめての RPG を発売します。
それがファミコンの『桃太郎伝説』でした。

『桃太郎伝説』('87)

前年である‘86年には1作目の
『ドラゴンクエスト』が発売されています。

『ドラゴンクエスト』('86)

初代『ドラゴンクエスト』は
150万本を売り上げるヒットを記録し、
ファミコンの「RPG」
というジャンルを確立しました。

いわば、『桃太郎伝説』は
その「2匹目のドジョウ」を狙う形で
作られたのです。

そもそも、このゲームはどういう形で
企画されたものだったのでしょうか。

その辺の経緯については、
ゲームデザイナー・
桝田省治さんの著書

『ゲームデザイン脳』に
詳しく書かれています。

『ゲームデザイン脳』桝田省治(2010)

桝田省治さんは当時、
ゲームデザイナーになる前で、
広告代理店で『桃太郎伝説』の広告を
担当していました。

(後にシリーズの開発にも携わる)

この著書によれば、
当時、桝田さんが勤務していた
広告代理店はゲーム関連の広告が、
他社に比べて遅れていたそうなんです。

そこで、広告代理店から
企画を持ち込んで、
ゲーム関連の広告の販路を広げよう
と画策していたとのこと。

桝田さんは最初から
この企画に携わっていたわけではなく、
先輩社員がこの企画を任されていたのですが、

その先輩社員の大学の先輩が、
『桃太郎伝説』の生みの親となる
さくまあきら氏(※1)だったのです。

さくまあきら&土居孝幸(※2)のコンビは
『週刊少年』の読者投稿コーナー
『ジャンプ放送局』も担当していた

※1 さくまあきら:ゲームライター。
 『桃太郎伝説』シリーズ、
 『桃太郎電鉄』シリーズなどを手掛けた。
※2 土居孝幸:イラストレーター。
 『桃太郎伝説』シリーズ、
 『桃太郎電鉄』シリーズなどを手掛けた。

そもそも、さくま氏にゲームの企画の
依頼がされたのは、

『ドラゴンクエスト』の生みの親である
堀井雄二さんと
親しかったからでもあります。

さくま氏は堀井さんがライターとして
活動していた頃からの仲間で、
『月刊OUT』というアニメ雑誌でも
繋がりがありました。

『月刊OUT』('77~'95)
日本初のアニメ雑誌。
堀井雄二氏、さくまあきら氏も
ライターとして参加

さくま氏と堀井さんはかつて、
一緒に出版社を立ち上げたことも
あるのだそうです。
(ちなみに、その出版社は大赤字を出して失敗)

『桃太郎伝説』の企画の発端は、
『ドラゴンクエスト』をプレイした
さくま氏が「昔話の『桃太郎』に似ている」
と言ったことでした。

実際の制作にあたって、
さくま氏にとっては、

はじめてのゲーム制作というのもあり、
堀井さんに手ほどきを受けた
という話もあります。

そして、広告代理店の
持ち込みではじまった
この企画がなぜ、札幌にあった
ハドソンに持ち込まれたのかと言うと、

さくま氏の話によれば、
スタッフに「おいしいカニが食べられる」
という口実を作るためだったそうです。

そう考えるとハドソンが
もしも、北海道の企業でなかったならば、

『桃太郎伝説』も、のちの『桃太郎電鉄』も
ハドソンから発売されることは
なかったのかもしれません。

当時の状況としては、
『ドラゴンクエスト』が‘86年5月発売、
『ドラゴンクエストII』が‘87年1月発売、
『ドラゴンクエストIII』が‘88年2月発売
という状態でした。

(今から考えるとものすごく
 短い間隔で発売されている)

そんな中にあって『桃太郎伝説』は
当初から『ドラゴンクエストIII』が
発売される前のリリースを
目指していたらしいです。

というのも、当時はまだ年間に発売される
ゲームソフトの数はそんなに多くもなく、
ましてや、RPG はファミコンユーザーに
認知されたばかりの時代でした。

ですから
「『ドラクエIII』が出る前に発売すれば、
 たくさんの人に遊んでもらえるだろう」
という思惑があったそうなんですよね。

その思惑は見事にあたり、
『桃太郎伝説』はそこそこの
ヒットを記録しました。

ちなみに、『ドラクエII』と
『ドラクエIII』の間にあたる
‘87年に発売されたRPGには、

他にもデータイーストの
『ヘラクレスの栄光』、

『ヘラクレスの栄光』('87)

今では押しも押されもせぬ
人気シリーズである
『ファイナルファンタジー』の
1作目も発売されていますね。

『ファイナルファンタジー』('87)

こうして当時の RPG を並べてみると、
いずれも西洋の神話の世界観が
ベースとなっています。

これは言うまでもなく、
RPG の原点が

「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム」
というテーブルゲームに
根差しているからです。

’74年にアメリカで発売された
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の1作目は
RPG の元祖とされている

その中にあって、
「おとぎ話」の世界観をモチーフにした
和風の世界観は『桃太郎伝説』
ならではの魅力です。

そして、この和風の世界観が
後に発売されるハドソンの人気 RPG に
繋がっていくことにもなります。

『桃太郎伝説』はその後、シリーズ化、
『桃太郎電鉄』という
大人気ボードゲームシリーズにも派生し、

『桃太郎電鉄』('88)

‘89~’91年にはテレビアニメも
放送されるほどの人気作となりました。

『桃太郎伝説 PEACHBOY LEGEND』
('89~'90)
続編『PEACH COMMAND 新桃太郎伝説』
('90~'91)
※いずれも DVD 化していない

発端は広告代理店主導の
企画ではあったものの、

『高橋名人の Bug ってハニー』に引き続き、
ハドソンはゲームとアニメのタイアップの
ノウハウを蓄積していくことになります。

【参考文献】
『別冊宝島セレクション 僕たちの好きなTVゲーム 80年代懐かしゲーム編』‘05/宝島社
『ゲームデザイン脳 桝田省治の発想とワザ』‘10/桝田省治/技術評論社

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