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新人薬剤師向:スピロノラクトン+低用量ピル

当薬局でこんな処方箋が来まして。一年目の薬剤師には薬理作用の再確認になればいいなーという感じで色々教えていまして、折角なので記事にしてみました。

皮膚科からの処方にて、低用量ピルとスピロノラクトン錠が処方
自分が一年目の時も同じ処方で疑問に思った事を思い出しました。
ただ一つ念頭に置かなければならないのは、この治療法はガイドライン上の推奨グレードは低いという事です。

そもそもスピロノラクトンってなんぞ?

スピロノラクトン(先発商品名アルダ九トンA錠)は元々高血圧の薬。
分類上は利尿剤の一種。要は「体から水を尿として出しちゃおうぜ。血管に水が少なければ血圧も上がらんやろ!」っていう、なんというか非常に分かりやすいタイプのお薬。

薬理作用の確認(読まなくていいやつ)

人間は食事や飲み物から摂った水分を尿として外に出します。そしてその尿と一緒に「体に有害なものも一緒に外に出しちゃった方がコスパよくね?」という事で、尿には様々な物質が含まれております。ただその中には「実はまだ使える材料」も結構入っていて、それを腎臓で再吸収して、体に循環させるのも腎臓の役割の一つです。
で、ここでいう「実はまだ使える材料」の代表格が水分なんです。ぶっちゃけ食事って何日か食べなくても死なないけど、水分って絶たれたらヤベェじゃん。だったら水分再利用しようぜっていう理屈。
水はナトリウムと一緒に体に再吸収されます。「水だけで再吸収」ってのは基本的には起きません。基本的にはナトリウムと一緒に再吸収されます。つまりこれって、「ナトリウム再吸収できないようにすれば水も再吸収されないんじゃね?」って理屈がまかり通るって意味。尿管での水の再吸収を止める為にナトリウムの再吸収止めよう。そうすりゃ尿がドバドバ出て血圧も下がるぞ! って感じ。
ただ、「水をドバドバ出すだけじゃなくて他にも血圧下げる作用追加した方が良くね?」ってわけで、このスピロノラクトンは血圧を上げる「アルドステロン」の輸送体にも作用します。その為、「アルドステロン拮抗薬」と呼ばれ、他の利尿剤との大きな違いでもあります(あとは「カリウム保持性利尿薬」とも言われますがここでは割愛)。
んで、「アルドステロンだけに作用するんやで!」って薬だったら良かったんですけど、アルドステロン受容体とよく似た構造を持つ受容体として、「アンドロゲン受容体」っていうものがあるんですわ。アンドロゲンって男性ホルモンの一種なんですけど、アンドロゲン受容体も一緒にブロックしちゃうから、体は男性ホルモンを体の中で一部使えなくなっちゃう。すると男性でもおっぱいが張ったりとかします(女性化乳房って言います)。

低容量ピルってなんぞ?

低用量ピルは生理周期をコントロールしたり、PMSを抑制したりしたい時に使用するお薬です。間違っても「ピルは避妊の為のもの!」みたいなクソみたいな先入観は持たないでください。避妊目的でピルを使うより真面目に困ってる人の方が確実に多いです。

薬理作用の確認(やっぱり読まなくていいやつ)

そもそも俗にいう「ピル」の中身は女性ホルモンです。また女性ホルモンのうち、エストロゲンの量が少ないもの( 50mcg以下のもの)を「低容量ピル」と言います。
で、女性で女性ホルモンが増えるのは生理の時と妊娠の時。特に低用量ピルを服用する事で体は「こんだけ女性ホルモン出てるんだから、私妊娠してんじゃね?」という錯覚を与えることができます。妊娠している時に再度妊娠するという事はありませんし、また生理は止まります。
ここでは、女性ホルモンを入れるんだなーって考えておいてください。

つまり目的は?

スピロノラクトンは抗アンドロゲン作用により、「男性ホルモンを使えなくする」事を目的としている。
低用量ピルは「女性ホルモンを入れている」
つまり、目的は「男性ホルモンを抑えて女性ホルモンを入れようぜ」ってことになるのです。

今回は皮膚科での処方。皮膚科で「男性ホルモンを抑えて女性ホルモンを高めたい」ってなると脱毛症か尋常性ざ瘡(ニキビ)です。今回は尋常性ざ瘡に対しての処方でした。

ニキビの発生要因は男性、女性に共通ですが、その機序が異なる場合があります。
まず第一に肌のターンオーバーにより古い角質が毛穴に汚れと共に詰まり皮脂の停滞を起こし炎症を起こしてしまうパターン。そして二つ目がホルモンバランスが崩れる事で女性でも男性ホルモン優位となってしまい、男性ホルモンが皮脂分泌を活発にする事でニキビができてしまうというものです。尚、男性は元々男性ホルモン優位である為女性よりもニキビが生じやすいと言われています(一般的に女性よりも肌のケアをきちんとしている人が少ないってのもあると思いますが)。
今回の処方は皮脂分泌を促進する男性ホルモンを抑えて、生理によるホルモンバランスの乱れを抑える為に処方があった事が分かりました。まぁエストロゲン(女性ホルモン)が肌の質をよくする作用があるのでそれも狙っての事と思いますが。

ただ、ここで注意しなければならないのが、この処方は飽く迄「ニキビの発生を抑える」事を目的としているもので、「今あるニキビを治す効果は期待できない」という事です。なので患者さん側としては効果が実感しにくいという難点があります。

いっかだいち的肌ケア

いっかだいちの使っている洗顔、化粧水、クリームはこちら。乾燥している時期にはこれに加えてヒルドイド(ヘパリン類似物質として市販でもあります)を使用しています。

アベンヌ化粧水

敏感肌でも使える化粧水。スプレータイプなので非常に簡単。ベッドサイドや洗面所に置いておくと便利。

アベンヌ(Avene) アベンヌ トリクセラ NT フルイドクリーム

こちらも同じアベンヌ。ポンプタイプなのでこちらもベッドサイドに置いておくと便利。

ジュレリッチ エクストラ モイストフォーム

色んな洗顔を試してみて最後に辿り着いたのがこれ。余分な皮脂をしっかり落としてくれるのに乾燥しないとかいう意味の分からないやつ。寧ろこれ以外の洗顔は当分使う気が起きないかなって程度にはお気に入りです。


最後に

新人薬剤師向けのちょっとした面白い処方を紹介しました。

勿論基本も大切ですが、こういったトリッキーな処方も教えてあげるとやる気が上がるように思います。

薬剤師としては、患者さんの悩みを適切に理解しつつ、プラスアルファの提案もできるといいですね。

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