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日高村で“舞台作家×生姜農家”に。都会とまったく違う生活サイクルの中で感じたこと。


小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク

小野彩加と中澤陽が舞台芸術の創作を行なうコレクティブとして2012年に設立。舞台芸術の既成概念に捉われず、独自の新しい仕組みを研究開発しながら舞台芸術の在り方と価値を探究している。固有の環境や関係により生じるコミュニケーションを創作の根源とし、作品ごとに異なるアーティストとのコラボレーションを積極的に行なっている。2018年、高松市「高松アーティスト・イン・レジデンス」選出。2019年、穂の国とよはし芸術劇場PLAT「豊橋アーティスト・イン・レジデンス/ダンス・レジデンス」選出。2020年、ロームシアター京都×京都芸術センターU35創造支援プログラム「KIPPU」選出。2021年、金沢21世紀美術館芸術交流共催事業「アンド21」選出。2022年、KYOTO EXPERIMENT 2022「Shows」招聘。

生姜農家の壬生農園に2週間滞在し、“舞台作家×生姜農家”として活動を行った。

(注)アーティスト・イン・レジデンスとは
アーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence、以下、AIR)とは、国内外からアーティストを一定期間招へいして、滞在中の活動を支援する事業をいう。日本においては1990年代前半からAIRへの関心が高まり、主に地方自治体が担い手となって取り組むケースが増えてきている。

本文(以下敬称略)
Q:スペースノットブランクのお2人は、演者として舞台に立ちながらも、演出や振り付けもされています。そんな、お2人の肩書きは何と言ったらいいのでしょうか?
A:“2人組の舞台作家”です。

中澤)私たちがつくっている舞台は、一口に「演劇」や「ダンス」と言い切れるものではないと思っています。作品によっては演出をするし、テキストを作ったり、ダンスを作ったり、パフォーマンスを作ったりもする。ジャンルも役割も問わず舞台芸術を作っています。

だから「あなたたちは何をしている人ですか?」と聞かれた時に、しっくりくる肩書きがなくて…
とは言え「自分達でもわからない」と答えてしまうと、それで終わってしまう。“スペースノットブランク”がやっていることを、しっかりと伝えていくためにも、形容する肩書きを作ろうと思ったんです。

映像芸術の世界では、CMディレクター・CGクリエイター・映画監督など、映像芸術を作る人を総称して“映像作家”という肩書きがあります。それをヒントに、ジャンルも役割も問わず舞台芸術を作る人を総称して“舞台作家”と名乗るようになりました。

ヨーロッパには舞台における役職を表すものとして“Theater maker”という言葉がありますが、それを日本語で表した言葉として“舞台作家”と言っています。


Q:普段はどこで、どのような活動されているんですか?
A:日本各地、場所にこだわらず、さまざまなパフォーマンスをしています。

小野)ここ3年ぐらいは半年関東、半年関西という感じで活動をしています。もちろん人も大事なのですが、場所にも重点を置いています。劇場だけではなく、ギャラリーやカフェで上演したり、ストリートパフォーマンスをやってみたり。大阪の街で、半ゲリラで踊ったりもしました。

中澤)2022年はKYOTO EXPERIMENTで公演したり、2018年には高松AIRに参加し翌19年に高松公演をしたりと、至るところで上演をしてきました。あらゆる環境、あらゆる状態を使って、作品を創っています。

Q:お2人がAIRに参加しようと思ったきっかけを教えて下さい。
A:作品を創り続けるために、新しい環境で、新しい人たちから刺激を受ける。

中澤)AIRの情報は常にリサーチしていました。作品を創り続けるためには、新しい環境で、新しい人たちから刺激を受けることが重要です。常に積極的に新しい場所に出向いていきたいので、自分たちに合いそうなAIRを探していました。

Q:各地でAIRの取り組みが進んでいますが、その中でも日高村を選んだ理由は何でしょう?
A:作品づくりの上で、日高村の生活サイクルを体感してみたいと思ったんです。あと農業にも興味がありました。

小野)実はもともと農業体験できる場所を調べていたんです。

中澤)農家という全く違う職業に身をおいて、新しい生活サイクルを体感してみたいと思っていました。東京にいると、人の流れが一定に感じてくるんです。毎日同じ道を通って、毎日同じ電車に乗って、毎日同じ会社に行くような。そんな気持ちになることがあります。

日高村のAIRでは、そこから完全にかけ離れている“農家で働く”という生活サイクルを体験できるのが魅力でした。

小野)あと、もう一つの理由は日高村は成果物をアーティストに求めていなかったことです。AIRでは成果物を求められることが多いですが、それがないのは私たちにとっては初めてのことでした。
滞在中に作品を創れば、“成果”が目に見えて分かりやすい。でも日高村はそこではなくて、滞在経験から生まれるインスピレーションや、その先の繋がりに価値を見出していました。自分たちの芸術作品を作ることだけが全てではなく、生活や風景、情緒などを新たな視点でじっくり見つめて、インプットできる環境にも魅力を感じました。


Q:日高村に滞在中の1日の流れについて教えて下さい。

6:00 起床・準備
7:10 自転車で通勤(30分くらい)
7:50 壬生農園到着
8:00 生姜作業
16:30 生姜作業終了
17:00 帰宅
   ご飯を作って食べたり
   次の日のお弁当を準備したり
   オンラインの仕事をしたり
22:00 就寝


中澤)作業の内容としては、土まみれの生姜をブラシのついた機械で洗い、「芽とり」をして、袋詰めをしていました。生姜はいろんな形があるので「芽とり」をしていると、彫刻作品を作っている気分になりました。そういう感覚が生まれたのが面白かったです。
帰宅してからは、オンラインの仕事をしたりしていましたが、けっこう昼間の作業で疲れていて、よく眠れました。

小野)次の日のお弁当用に、前の晩の残りを詰めたりして準備をして、22時には寝る生活をしていました。


Q:体力的にもきつかったようですね。買い物はどこでされていましたか?
A:スーパーでまとめ買いしたり、いろいろおすそ分けをいただきました。

中澤)初日にスーパーまで連れて行ってもらい、まとめ買いしました。あと、野菜はいろんな方からおすそ分けをいただいたんです。一緒に働いたパートの方が、僕たちの帰り道でわざわざ待っててくれて「そろそろ通るかなと思って」と、茄子やお芋をくれたり、他の方からも四方竹(しほうちく)という珍しい筍や、生姜もいただきました。

小野)おすそ分けをいただけて、とても嬉しくて、食べたらとても美味しかったです。この期間は本当に食欲旺盛で、毎日たくさん食べていたと思います。

Q:地域の方のおすそ分けもあったんですね!滞在中、印象的な出来事はありましたか?
A:いっぱいあります。個性豊かな生姜の芽とりをしたり、まるでお祭りみたいに盛り上がりながら農作業したり。

小野)「生姜の芽とりは、いろんな大きさや角度があるから、ロボットを入れようが手作業じゃなきゃできない」という壬生さんの言葉が印象的でした。切る前の生姜って両手で抱えるくらいに大きくて個性豊かなんです。今までスーパーに並べられている、形が整えられた生姜しか見たことがなかったので、新鮮でした。「生姜の生命力はすごいな」「犬の顔をしてるな」とか思いながら、形が違うことに気づくと楽しくて。そういう気持ちで芽とりをしていました。

中澤)収穫の準備として生姜にかかっているネットを上げる作業をしたのですが、それが特殊な作業で、印象に残っています。4人でネットを掴んで「よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ」と叫びながら、揺らしてネットを上げていくんです。
壬生さんも盛り上げ上手だったので「次は掛け声変えてみよう!ほいさ、ほいさ、ほいさ、ほいさ〜」みたいな感じで、生姜の収穫直前のピンポイントの時期にしかできない、まるで「秘密のお祭り」のようでした。ある意味その作業さえもパフォーマンスみたいで、面白かったです。

Q:ちなみに、来る前と来てからの日高村の印象に変化はありましたか?
A:実は、来る前はまったく知らなかったんです。

中澤)高知にあるということ以外はほとんど調べずに来ました。仁淀川も知らないぐらいで…
来てからは、このAIRも含めてそうなのですが、村全体が新しさを打ち出そうとしているし、村民の人も「アップデートする」ということに前向き。いろいろなことを、より良くすることに対してポジティブなエネルギーを持っていると感じました。

Q:お2人が日高村で舞台をやるとしたら、どのような舞台を創りたいですか?
A:地域の多様な人に舞台へ立ってもらえる舞台を創りたい。

中澤)スペースノットブランクがクリエーションしているところに、地域の多様な人に関わってもらいながら、その環境で生活する皆さんの「人間的な部分」が見える舞台を創りたいと思っています。だから、もし日高村で舞台をやるなら、地域の人に舞台へ立ってもらいたいです。プロやアマチュアも関係なく、多様な人が関わるのが舞台芸術だと思っているので。職業が俳優でなくてもダンサーでなくても、舞台に立つ人がいれば、上演として成立する。そんないろんな垣根を超えた舞台を創りたいです。


Q:農作業でも日高村ならではの体験をされたようで良かったです!最後に、日高村でこれからやってみたいことを教えて下さい。
A:舞台芸術をここに住む方々に届けたいですね。

中澤)次は、自分達が作った作品を日高村にいる人にどうやって届けるかを考えていきたいです。ここで実際に生活をしてみて、地域では、YouTubeやテレビは受け入れられていても、舞台芸術はまだまだ知られていないと感じました。テレビで見られるようなもの以外でも、多様な手法を考えながら、舞台、ダンスなどを仕事にしている人がいる。私たちが日高村に来たことで、そういう事実を少しでも地域の人に知ってもらえたら良いなと思います。

また、私たちは舞台を作るのが仕事。だから上演を日高村の人に見てもらわないと、AIRをきっかけに始まったこのコミュニケーションを達成したことにはなりません。舞台芸術と普段接点のない生活を送っている人たちにも、新しい価値を創造して、舞台芸術の上演を届ける方法がないか、考え続けています。

最終的には、スペースノットブランクとして日高村で公演するのはもちろん、今までに日高村に来たアーティストの合同パフォーマンスができたら、いいなと思っています!

【小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク 今後の公演情報】
●2023.6.29~ 7.2
セイ

セイ=Sey=Sayのミススペル。

亡くなった死刑囚の意識をサーバーに保存。デジタル上でAIにより繰り返される更生と再生と転生。それらの現実への報告。

会場:神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI

出演:荒木知佳 古賀友樹 瀧腰教寛 奈良悠加
原作:池田亮
音楽:額田大志
演出:小野彩加 中澤陽
主催:スペースノットブランク 神奈川県

2023年上演ラインアップ>

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