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さよならモナカ

実家が引っ越したらしい。

引越しから2週間、内緒にされていた。わたしの家族はいつもそんな感じだ。よくわからないサプライズを仕掛けてくる。この引っ越しサプライズも2回目になる。血をしっかり受け継ぐ私も同じようなことをするので文句は言えない。

最初の引っ越しサプライズで水色一軒家からクリーム色アパートになった時も寂しかったけど、あれから5年が経過して、年に数回帰るだけのアパートにもそれなりに愛着があった。

リビングの電気がモナカみたいで可愛かったからすぐ好きになった。
昼でもカーテンを閉めて豆球にして、モナカ感をアップさせて楽しんでいると怒られた。

お風呂場が水色のタイル張りで、油断すると排水溝が髪の毛で塞がってプールみたいになって、不便で、愛おしかった。
磨りガラスの前に立ってシャワー中に驚かしたり、驚かされたりした。
磨りガラスには一応目隠しの布を掛けていて、それがファミチキみたいな色で可愛かった。

キッチンの窓から入ってくる夜の匂いが好きだった。
日本画の襖は建て付けが悪くて、帰省する度に開け方のコツを忘れて雑魚扱いされた。

狭いから物がギチギチで、家族5人が揃うとすれ違うのが大変。でも嫌いじゃなかった。

大嫌いな母校が近くてチャイムの音が聞こえた。

高台にあるせいでどの道を通ってもわりと辛い坂だった。景色は良かった。西陽が最悪。

近所にヤギを飼っている人がいて日中はよく鳴いていた。そんなに田舎じゃないのに住宅街にヤギがいるわけのわからなさが気に入っていた。

バイクに座りにくる猫が可愛かった。姉が勝手にスノーマンと命名していた。由来は忘れた。

老人が孤独死して畳で溶けていたから家賃が他より安かった。たまに変な物音が鳴ったり微妙な怪奇現象があったけど、我々一家は賑やかなので霊も多分嬉しかったろう。

孤独死は2021年あたりに事故物件扱いされなくなったはず。たしかね。

そこで毎日暮らしていた家族よりも別れを惜しんでいるかもしれない。もう二度と帰らない場所を今日くらい惜しんだっていいよね。


ありがとうモナカ。愛らしい形のおかげで私の寂しさは救われました。お元気で。


物だらけの玄関
お風呂のスイッチ
ご丁寧に標識のあるトイレ
水色タイルのお風呂場
スノーマンが訪ねてきた廊下とバイク
目隠しのファミチキ
さよならモナカ

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