(4)初期顧客案件でプロダクトをいったん完成させ、実績を作る(シード期)
スタートアップ「シード期」の4つ目の記事です。
※シード期:一般的には「アイデアがあるが起業前」または「アイデアはあるが具体的な製品サービスがない段階」を意味します。
今回の記事は、課題(4)「初期顧客向け案件でプロダクトの形をいったん完成させ、実績を作る」です。
①ミッション実現のために自社プロダクト開発にも取り組む
事業ドメインやプロダクトの具体アイデアが固まらないまま創業をした株式会社エデュ・ファクトリー(アルーの創業時の社名)、メンバーの前職の経験を生かしたコンサルティングの仕事でキャッシュを稼いだり、教育分野のサービス提供ベンダーの下請け案件を受注しながら知見を深めてきました。
創業後の数か月間、前述の営業活動を真剣に行った結果、コンサルティング案件や下請け開発案件を一定数受注することができました。
前職のコンサルティング会社時代には、営業の経験もありませんでしたので、自分達で営業をして仕事を獲得することに一定の自信も生まれました。
実際には、顧客の課題に対して提案をして受注を勝ち取ったというよりも「何か仕事があればお手伝いをさせてください!」という形でいただいた仕事ばかりでしたが・・・。
私たちが自社プロダクトの営業活動に本当の意味で向き合うのはアーリーステージになってからとなります。
(この話については別の記事で解説いたします)
しかし、当社は「社会の発展に貢献する次世代のパイオニア人材の育成に寄与する」ことがミッションです。教育・人材育成の分野での事業を行うために起業をしたのであり「このままでは何のために創業したか」ということになります。
コンサルティング案件や開発案件で多忙な日々を送っていた私たちは、夜にオフィスに集まり、自社プロダクトの開発について議論を重ねました。
②下請け開発案件によりドメイン知識が深まる
自社プロダクトの開発については、2003年の創業以前からメンバーでは日々議論をしてきました。
教育分野の事業を手掛けることだけは決めていましたので、幼児向けの教材や、大学生向けの教材、社会人向けの教材等についてアイデアを出し合っては試しに作ってみるということを繰り返していました。
「スターバックスコーヒー」を題材にしたビジネスケーススタディは、私達が創業前に作成をした最初の教材でした(このケーススタディは後に修正をしてアルーの問題解決研修の素材に使われています)。
しかし最初期に作ったプロダクトというものは基本的に「きっとこういうものを作るとよいのだろう」という私達の「妄想ベース」です。
ターゲット顧客のどのような課題に対して効果を発揮するものか、はっきりしないものばかりでした。
また私たちは教育業界の素人ばかりであり、基本的な教材や研修のプロトコル(様式)も知らず、今から見れば酷いものばかりでした。
そんな私たちでしたが教育分野のサービス提供ベンダー様からいただいたお仕事を遂行していくことで、少しずつ教育分野という事業ドメインについて知見を深めていくことができました。
サービス提供ベンダー様に受注した教材を納品する際には、多くのフィードバックをいただきました。この納品プロセスを経て教材開発に必要なプロトコルを学ぶことができました。
このように仕事を通じた学びを活かして、改めて自社プロダクトの開発に取り組んでいきました。そうして生まれたエデュ・ファクトリーの最初のプロダクトは「ロジカルシンキング100本ノック」という若手社会人向け研修プログラムでした。
(ロジカルシンキング100本ノックの開発ストーリーは↓)
ロジカルシンキング100本ノックは、
(1)前職のコンサルティング会社で培った私たちの経験をベースに
(2)「習うより慣れろ!」という人材育成コンセプトを明確にし、
(3)下請け開発案件を通じて学んだ教材開発の基本プロトコル
を踏まえて形にした研修プログラムです。
ロジカルシンキング100本ノックという自社オリジナルプロダクトを開発したことが、当社の自社事業の立ち上げにつながっていきました。
全員が営業をして全員で開発をした「営業マン兼開発」という動き方の成果でした。
③エンドユーザーに体験していただき、初期プロダクトをいったん完成させる
ロジカルシンキング100本ノックは、企業向けの研修プログラムとして販売するために開発をしたものでしたが、すぐに導入していただける企業・法人はありませんでした。
そこで私たちは個人向けのセミナーを企画し、ロジカルシンキング100本ノックを始めとする幾つかの自社プロダクト(研修プログラム)を、ターゲットである若手社会人の方々に受講していただきました。
研修プログラムという商品は、最終的に研修を受講される方(エンドユーザー)の変化が成果となります。受講者の方の体験や学び、そこからの行動変容が生じるプログラムでなければ、商品として成立していません。そのため
エンドユーザーの方からフィードバックをいただく機会を作る必要がありました。
当時、セミナーは毎週土日に開催をしていました。平日は、営業活動・コンサルティング案件の遂行・開発案件の遂行があったためです。毎週1コマ2時間×3回セット/日×土日2日間と、週12コマのセミナーを行いました。集客も一苦労でした。
ロジカルシンキング100本ノックは1日あたり2回開催し、数多くのフィードバックの声を集めていきました。もう一つの初期プロダクト「コンビニ経営ゲーム」というビジネスゲームもこのセミナーで磨いていきました。
(コンビニ経営ゲームについてはこちらの記事をご参照ください)
下請け開発案件で、教材作成の基本プロトコルを学んだといっても、それはごく一部。実際のユーザーからのフィードバックに勝るものはありません。
研修における「アイスブレイク」の必要性、個人ワーク・グループワークの設計、また効果的な研修の場づくり・備品の必要性など、細かい点についてユーザーからフィードバックをいただくことができました。
この成果を反映して、当社の初期プロダクト「ロジカルシンキング100本ノック」は、企業向けに納品をしたとしても、トラブルやクレームが出ることがないレベルに到達しました。
④初期顧客でプロダクトの実績を作る
2004年1月のある日、私の携帯電話が鳴りました。学生時代の友人であったTさんからの電話でした。
「池田くん、久しぶり。最近転職をして人事として、2004年4月の新入社員研修の企画を担当しているんだよ。エデュ・ファクトリーのロジカルシンキング100本ノックの話を聞いたよ。基本的にお願いしたいと思っているんだけど、打ち合わせできるかな?」
Tさんは社会人同期で大手人材サービス会社に入社をして営業・人事を経験された後、2003年末のタイミングでインターネット広告会社に人事として転職をされていました。学生時代以来お会いはしていませんでしたが、どこかで当社の活動を知っていただいたようでした。
Tさんとの最初のミーティングで、2004年4月の新入社員研修に当社のロジカルシンキング100本ノックと幾つかの研修プログラムを導入していただくことが決まりました。Tさんは研修についても詳しく、その時点での教材を見ていただき、多くのアドバイスと参考情報をいただきました。
「池田くん、現時点の資料を見せてくれてありがとう。ロジカルシンキング100本ノックはいいコンセプトの研修だね。だけど、今の時点だとクオリティが不足しているかな。色々と参考になるだろう資料を共有するから、4月までにもっと作り込みをしてくれるかな」
発注をいただいただけでなく、当社のプロダクト改善につながる情報までご提供いただきました。
私たちはTさんからいただいたフィードバックや参考情報を元に、ロジカルシンキング100本ノック等の研修の改善に取り組みました。そして、4月に株式会社エデュ・ファクトリーとして初となる「自社プロダクトでの企業向け研修の初回納品」を行うことができました。
この受注は「降ってわいた棚ぼた」でした。
自社から積極的に営業を行い、自社プロダクトを受注することは本当に難しいと感じるのはこの後のことです(別の記事で詳しく説明します)。
またこの時、コンサルティング案件や教育分野サービス提供ベンダー様の下請け開発案件の実績は大切でした。下請けとは言え、大きな企業様と取引をしていたことは事実でした。この実績がなければ、Tさんは友人とは言え発注してくれなかったでしょう。
貴重な機会を作っていただいたTさんには今でも深く感謝いたしております。その後、Tさんはインターネット広告会社様の中で別の事業を担当されたり、独立されたりもしました。現在では複数の企業の経営に携わられています。2021年現在でも繋がる関係でいさせていただいております。
⑤地道な活動が積み重なり、結果につながる
創業後、自社がやりたい分野、自社プロダクトの実績を作るまでは簡単ではありませんでした。
それまで取り組んできた、コンサルティング案件や開発案件全ての経験が積み重なり、私たちは自社プロダクトを顧客に届けることに辿り着いたと考えています。
事業ドメインが定まり知見が深まったこと、初期プロダクトの完成と顧客への実績。これがシード期の到達地点でした。ここからまた違った課題と向き合うアーリー期の始まりとなりました。
本記事のまとめ
◆多忙でも自社プロダクト開発に取り組む
◆下請け開発案件で学んだドメイン知識を、プロダクト開発に反映する
◆エンドユーザーから直接フィードバックをもらう機会を作る
◆自社プロダクトの最初の実績を作る
◆全ての取組みは積み重なる
次の記事はこちらです!
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本記事を含む「シード期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
シード期のスタート時点・主たる活動・到達地点について解説しています。よろしければぜひご覧ください。
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<「スタートアップ営業組織作りの教科書」をまとめて読むには↓>
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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。
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