シンガポール技能資格認定制度WSQと「日本版WSQ」実現に向けて
WSQ(Workforce Skills Qualifications) はシンガポール政府が運営する技能資格認定制度です。
労働者に必要な能力を「定義」し、「訓練・育成」「評価」「認定」を通じて、就業能力を維持・向上させるものです。政府が認定する継続教育訓練センター(CET センター)等の教育機関において実施されます。
WSQの大きな特徴として、31業種+9分野にわたる多様な分野に対して人材育成能力要件が詳細にわたり定義されていることです。
例えば、「Aerospace」という分野においては、航空宇宙分野に関する保守業務、修理業務、およびオーバーホール(MRO)業界の技術者に必要なスキルを定義しています。このスキル定義はシンガポール経済開発庁(EDB)とシンガポール民間航空庁(CAAS)によってサポートされているとWSQのWEBサイトには書かれています。
この定義された人材育成要件に基づく、教育施策を様々な教育機関が提供をしています。教育機関でのプログラム参加については、シンガポール政府が補助金を出すため、派遣元の企業・個人はとても割安な価格で教育プログラムを受講することができます。
労働者は教育機関での訓練や研修に参加をすることで、適切な成果を実証できれば、シンガポール政府認定の証明書を受け取ることができます。
(※画像はWSQWEBサイトトップ画面)
当社、アルー株式会社は、シンガポールの現地法人ALUE SINGAPORE PTE. LTD.(以下アルーシンガポール)においてシンガポール政府認定のWSQ講座の提供を行っております。
アルーシンガポールでは、在シンガポール企業様の人材育成を支援するサービスを提供しております。アルー日本本社と同様に、個別企業向けのカスタマイズ研修サービスも提供しておりますが、WSQ認定講座が事業の柱の一つとなっております。
顧客企業様のシンガポール国籍社員を対象として、アルーのWSQ講座にご参加をいただき、コースの受講・終了をしていただくと、シンガポール政府より最大95%の助成金が提供されます(コースにより助成金の比率は異なります)。また助成金に加え、企業からのお申込みの場合は研修時の社員不在に対する政府補助金が適用されます。(最大7.50 SGD / 1人につき1時間)
また私が認識している限りにおいては、日系の人材育成・研修サービスベンダーにおいてWSQ認定講座を提供しているのは当社のみです。(この点について誤りがあればご指摘をください)
アルーシンガポールが手掛けるWSQ講座については、後述いたします。
本noteでこのWSQについて取り上げたのは、WSQという仕組みは国家レベルでの人材育成におけるとても素晴らしい仕組の事例だと考えているためです。
国家レベルで人材の競争力を高めていくために、政府・企業・教育機関・労働者個人が連携した取組みであり、非常に有意義なものです。
一方で、日本におけるWSQの知名度・認知度は高くないと考えております。そこで、唯一のWSQ認定講座を提供する当社がその周知に役立てればと考えております。
将来的に、このWSQを参考にした「日本版WSQ」と呼べるような、効果的な人材育成の仕組みが日本においても実現できればと考えております。
※本noteでは別途、当社の研修プログラム開発のノウハウを公開しています。ご関心ある方はぜひ以下リンクからお読みいただけますと幸いです。
※本稿において調査不足等で不正確な情報がございましたら申し訳ございません。ご指摘をいただければ随時訂正をして参りたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
WSQの背景
WSQは、シンガポール政府が推進する「SkillsFuture」(スキルズフューチャー)という職業能力訓練政策の軸となるものと私は認識しています。
(※画像はSkillsFutureサイトトップ画面。WSQトップより上位ページ)
シンガポールは独立後、経済発展を図るために積極的な外資導入政策をとってきました。労働者としての外国人や移民が増え続けてきた中、雇用面においても外国人労働者の存在は大きくシンガポール国民の不満も高まってきました。そうした不満に対応すべく、シンガポール政府は外国人労働者の増加抑制政策を取らざるを得なくなりました。しかしながら、日本よりも低い出生率であるシンガポールにおいては労働力の不足に繋がります。
シンガポール政府はこの問題を解決するために、シンガポール人向けに職業能力訓練による労働者の高技能化・生産性向上という政策を進めることとなりました。この職業能力訓練政策に関する一連の活動の呼称がSkillsFutureと命名され、PR活動に展開されることとなりました。
職業訓練を受けやすくするために、政府機関が産業界や労働組合と密接に連携しながら様々な環境整備を行ってきました。WSQはそうした活動の中で制度として誕生しました。
2003年に経済再生委員会の提案のもとに、雇用訓練庁が設置されました。
全国労働組合会議(National Trades Union Congress)と通商産業省のStandards, Productivity and Innovation Board と協力しつつ、諮問機関の企業の意見を元に、2004年にWSQがスタートすることとなりました。
WSQの特徴①:レベル定義6段階
WSQのレベル定義(証明書)の種類は、初級の「Certificate」から最もレベルの高い卒業証明書(Graduate Diploma)までの6レベルがあります。
各業種・各レベルで必要とされる能力基準や評価基準が明示されているため、労働者の技能証明が可能になります。また労働者が能力向上を目指すにあたり目指すべき道筋が明確になるというロードマップ的な役割を果たしています。
業種によって必要とされる能力や特性が違うため、WSQ のレベルの数は業種ごとに異なっています。必ずしも全て分野において6段階あるわけではないようです。
(※図はWSQWEBサイトより引用)
WSQの特長②:31+9分野の人材要件定義
大きな特徴としては、幅広い業種(汎用含む)に対して、人材能力要件定義を詳細に定めていることです。
さらに個々の分野について詳しく見ていきましょう。
ここでは「Business Management」という項目を例に紹介します。
シンガポールWSQのWEBサイトにおいて、リンクからフレームワークが紹介されています。
(※図はWSQWEBサイトより引用)
と定義されています。この分野において、以下の13項目の小~中分類の人材能力要件フレームが定められています。
※ページによって多少区分異なるようで、この分類が小分類なのか中分類なのか、正確にご説明ができず恐縮です。
上記の各小~中分類において、更に、それぞれ人材能力要件定義(マップ)が示されております。
日本企業においても、人材育成に携わられる方は、自社に「人材育成体系」があられることが多いかと思います。
それがこれだけの広い業種や分野にわたり、細かく定義がされていることは驚きになられるのではないでしょうか。
またそれが政府が認定する基準ということであり、こうした基準が定義されているため前述のとおり、労働者にとって技能証明になり、能力向上ロードマップとなりえているのでしょう。
WSQの普及状況
WSQの普及状況について、一般財団法人自治体国際化協会 シンガポール事務所が2018年に発表しているレポートによれば、以下のような情報がありました。
シンガポールの総人口が約570万人、労働人口が約230万人です。少し古いデータではありますが年間25万人以上が受講するということは、労働人口の10%以上になります。
シンガポールにおいて、本制度の活用度合いは高いものと言えるのではないでしょうか。
アルーシンガポールのWSQ講座について
アルーシンガポールでは2021年7月現在、12コースのWSQ講座を提供しています。この認定を受けるには、WSQフレームワークに沿ったプログラム、講師、効果測定までをセットに開発申請をする必要があります。コース単位で認定を受け、2年毎に更新認定も必要になります。
https://alue.sg/jp/wsqeventinformation/
アルーWSQ 5つの特長
提供コース(全12コース)
「Business Management」分野に対応するコース
1:新規顧客開拓のための営業&マーケティング
2:プレゼンテーション
3:日系企業向けの提案書の書き方
4:分析力を高めるクリティカルシンキング
「Leadership and People Management」分野に対応するコース
1:日系企業の働き方
2:メンバーの能力を引き出すOJTスキル
3:メンバーの育成方針策定
4:ビジョン達成のためのチームマネジメント
5:チームリーダーに求められるリーダーシップ
6:マネージャーに求められるリーダーシップ
7:変化を推進するリーダーシップ
8:目標設定・評価フィードバック
一つ具体例として「マネージャーに求められるリーダーシップ」という講座について、ご紹介をします。
提言:日本版WSQに向けて
ここまでシンガポールにおけるWSQと、アルーシンガポールのサービスについてご紹介をしてきました。
WSQという仕組みが具体的にどの程度の人材育成成果や雇用競争力を各個人にもたらしたかは詳細なデータはありませんが、前述の通りシンガポールにおいて利用数を毎年増加させているということもあり、とても有用な仕組みであると考えております。
改めて俯瞰してこのWSQに関する「アウトカム」とは何か?
それはシンプルに労働生産性の向上を通じて、国全体の人材競争力向上に繋がるということです。国全体の人材競争力の向上がイノベーション創造や地域活性化に繋がっていくでしょう。
日本のホワイトカラーの生産性は、先進国諸国の中で非常に低いということが言われております。こうした労働生産性向上施策を、更に行っていくことは日本にとって必要なのでしょうか?
またデジタルトランスフォーメーション(DX)化の流れの中で、現在のネックはそれを実現できる人材が不足していることです。
DX化推進の人材を育成することできること、そして、DXが推進する中で既存業務が無くなり、新たな分野へ職業転換をする人材もこれから多く出てくるでしょう。そうした方への職業再訓練を支援する仕組みも必要です。
このWSQのような仕組みはDX化にまつわる人材育成のスピードを高められる仕組みだと考えております。
人生100年時代においては、労働者は人生を通じて「一つの会社で一つの仕事」という働き方ではなくなってきています。複数種類の仕事をまたぐことが自然となっています。
職種・業種の変更、またぐことが当たり前の時代には、労働者がその変更をスムーズにできるような職業再訓練・再教育が大きく必要になるでしょう。
WSQのような制度の成功の鍵は何か?
私見ではありますが、鍵は「教育のクオリティアシュアランス」であると考えます。
「認定」が鍵となります。「結果評価」をきちんとすることです。
・仕事と結びついて、履歴書に書ける認証の仕組みと結びついていること
・「資格欄」に書ける。それが政府・企業・個人において認められている
・政策を推進するための国による補助・サポートが行われることで制度の認知・活用促進につながること
日本においても本制度を参考に、人材育成に国レベルでの投資を更に進めていただきたく考えております。またその活動の一助に、当社・私がお役に立つことができれば幸いです。
この日本版WSQは当社一社で実現できる取り組みではないと考えております。政府、教育機関、産業界、そして企業研修業界の各社様とも連携をしていくことができればと思います。本取り組みにご関心あられる方はぜひご連絡をいただけますと幸いです。
「日本版WSQ」の実現に向けて今後も情報発信をしていきたいと考えます。
※本稿において調査不足等で不正確な情報がございましたら申し訳ございません。ご指摘をいただければ随時訂正をして参りたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。
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