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(17)新商品の販売はフレッシュな人材が向いている(ミドル期)

スタートアップ「ミドル期」の5番目の記事です。
※ミドル期:一般的には「事業拡大に向けた投資を加速し、成長に差し掛かった段階」を意味します。

今回は課題(17)「新商品の販売はフレッシュな人材が向いている」です。

課題17新商品の販売はフレッシュな人材

①新規分野検討の試行錯誤

アルー株式会社は、リーマンショックによって大きな影響を受けた2010年春の新入社員研修シーズンを乗り越えました。

当社顧客の中には、業績悪化に伴う新卒採用数を減らす会社が多くありました。新卒採用を控えると、単純にその年の新入社員研修の受注が減るだけではなく、その後数年に渡り若手社員研修の機会が減少します。新入社員研修、若手社員研修を得意としていた当社にとっては大きなインパクトがありました。

当時の私達の危機意識は大きなものであり、新入社員・若手社員研修に依存した事業構造からの転換の必要性を強く感じていました。


この時私は新規事業であるグローバル人材育成に情熱を注いでいました。

グローバル人材育成というテーマは、当時複数候補があった事業展開の中の一つでした。他にも企業の管理職階層や営業研修分野などについて検討をしました。

しかし企業向け研修サービスにおいて、管理職層を対象とした研修は、最もマーケットが大きな分野ではありましたが、その分、古くから存在する競合企業が強みを持つ分野です。アルーでも幾つかの顧客企業様において管理職研修を実施させていただいた実績はありましたが、顧客からの見え方は「新人・若手を得意とする会社」であり、その分「管理職には向かない会社」として見られていました。

営業研修分野についても、近しい課題がありました。研修サービスにおける大分野の一つである分、既存のライバル企業が多く存在しました。また営業研修は、当社が普段顧客内で付き合いがある人事部・人材育成部門が直接担当するケースは少なく、事業部門が企画を担当するケースが多いです。そのためマーケット開拓をするためには、既存顧客に営業をしづらく、かつ新規で事業部門に行っても「アルーは人事向けの研修を得意とする」という見え方をされてしまうケースが多くありました。


では「グローバル人材育成」という分野はどうだったのでしょうか。
当社にとって完全な新規分野であることには、管理職研修・営業研修と変わりません。顧客からの見え方も当然、強みがあると認識はされない分野でした。一方で、2010年時点においてはマーケット規模が、まだ小さく、そのため競合と呼べる企業も多くない状況でした。

何よりも当社が取り組む意思決定をしたのは2つの理由がありました。

一つは、2009年に再設定をした新ヴィジョン「アジア人材育成№1」の存在です。
当社はドメスティック企業からグローバル企業に生まれ変わることを宣言しました。自社がグローバル展開を行うことにより、グローバル企業における人材育成の課題・ノウハウを事業活動を通じて蓄積していくことができると考えたためです。
自社の事業展開とサービス付加価値の「強化ループが回る」のです。


そして二つ目は、グローバル人材育成というテーマがお客様の中でニーズが高まり、市場が急速に形成がされていくことを確信したためでした。


②グローバル人材育成のビッグウェーブ


楽天の三木谷社長が、社内における「英語公用語化の宣言」をされたのが2010年1月のことでした。この英語公用語化宣言は、日本企業に賛否両論の大きな議論を巻き起こしました。

「楽天が英語を公用語化するなら、当社はC言語を公用語化する」
といった大手ゲーム会社の経営者がいたとか・・・。

楽天だけでなく、2010年当時、多くの日本企業のグローバル化は既に進んでおりました。しかし国内需要の減少が見込まれる中、グローバル化を更に加速させるためには「人材のグローバル化」こそ本格的に取り組む必要があると、多くの企業経営者の中に認識が広がったのです。

私はこの出来事を「楽天ショック」と呼んでいます。

企業研修サービス業界においても、「グローバル人材育成」という言葉は、実は古くから存在していました。それを専業としている研修会社もありましたが、市場規模が小さく大きな事業になっていませんでした。

大きなトレンドで「グローバル人材育成」が日本企業にとって必要となることは多くの方が分かっていました。しかし市場の形成は、マクロトレンドがあっても立ち上がりません。
実際に「楽天ショック」の前(そしてリーマンショックの前)までは、グローバル人材育成に対して本格的な投資を行っている日本企業は多くありませんでした。

市場の立ち上がりには、トレンドがあることを前提として、投資の必要性に火をつける「楽天ショック」のような事件が必要だったのです。


2010年5月頃、私はグローバル人材育成について研究をする様々なセミナーに参加をしていました。

セミナーに参加をして驚きました。
熱気」が溢れかえっていたのです。

何社もの人事部長クラスが自ら足を運んでいました。またあまり研修会社が来ていませんでした。私は明らかにチャンスだと考えました。
セミナーに参加されている人事部長の方々のお話を聞いてみれば、グローバル人材育成の必要性は感じるものの、一方でそもそも何をすればいいかわからないという声を多く聞くことができました。

そして普段は取ることができない人事部長クラスのアポイントメントが、簡単に取れました。

私は短期間で、グローバル人材育成分野について研究を行い、企業が何をするべきなのか全体感と具体的な事例をまとめたレポートを作成しました

また、同時に商品が必要だと考えました。
顧客と議論をする中で商品サービスがある状態と、ない状態では受注までのスピード感が全く変わります。実はこの時点では、グローバル人材育成に本当に効果的なサービスが何かはよくわかっていなかったのですが、少なくとも「企業研修」というフォーマットであれば当社の強みが生きるはずです。そこで短期間で開発をしたのが「グローバルコミュニケーション100本ノック」という研修プログラムでした。

ディスカッションレポートと、研修プログラム商品、この二つを準備し、急激に立ち上がりつつあるグローバル人材育成市場獲得に向けて動こうととしたのです。


③テレアポに動いてくれたのは新入社員

当社では毎週月曜日に朝礼を行っています。会社方針や事業の状況などを共有する会です。2010年6月頃、私はグローバル人材育成ビジネスのチャンスについて、熱く語っていました。

お客様は今まさしく必要としています
必要性はあるが、何をしたらいいか企画ができていない状況です
だから、アルーが競合に先んじてお客様とディスカッションを行っていけば、案件獲得の大きなチャンスにつながります
という話をしました。

営業部の会議でも、ゼネラルマネジャーの田中さんや各グループマネジャー陣に、グローバル人材育成のテーマでお客様訪問の機会を作っていただきたい旨をお願いしました。私はこのチャンスを何とか形にしたく、当時の既存顧客を全て回る意気込みでした。

ですが、実際にはなかなかグローバル人材育成のアポイントメントが増えませんでした。

2010年当時は、私は事業企画・商品開発を担当しており、日々の営業活動としてはお客様との接点はありませんでした。
大きな既存顧客を担当している営業メンバーは、2006年・2007年頃に当社に参画をし、もはやベテランと呼べる方々です。

個別にベテラン営業メンバーにも声がけをして、お願いをしてみたものの「池田さん、お客様にグローバルの話を振ってみましたけど、まだ当社では興味がない、とおっしゃっていましたよ」と言われました。

別の方からは「グローバル人材育成分野はチャンスがありそうですね。ですがまだアルーにはお客様に価値を出せると確信できる商品がありませんよね・・・。一応新作の研修プログラムはありますが、それを無理やり売って、失敗をしたら既存の取引にも影響がありますよね」という話も聞きました。

既存の顧客との関係性を重視すれば「とても合理的」な意見といえます。

(簡単なことではないな・・・。チャンスはありそうなのに・・・)
少し意気消沈していたことを覚えています。

グローバル人材育成分野を立ち上げるぞ!と決めて動き始めた最初の数週間はあまり動きがありませんでした。


ある日のことでした。
2010年4月に新卒入社をされたKさん(2015年まで在籍。現在はもう一人のアルー卒業生と一緒に保育園経営をされています)が私に声を掛けてきました。

「池田さん、グローバル人材育成でアポが取れたので訪問に同行していただけますか?」

グローバル人材育成の本格的な商談アポ第1号を取ったのは新入社員のKさんでした。入社後営業部門に配属され、テレアポ研修をする中で獲得したアポイントメントだったそうです。

Kさんに聞いてみたところ、テレアポ研修で成果を出したかったが、アルーの得意とする新入社員研修などのテーマで電話をしても反応が良くなかったそうでした。
アポを取るにはトレンドのテーマが必要では、と同期の新入社員メンバーで話し合ったそうでした。そこで私が朝礼でグローバルの話を何度もしていたので試しにやってみたところ、アポが取れたということでした。

この出来事は、とても大きな学びがありました。

既存取引先という「守るもの」がある営業メンバーは変化に抵抗があることは自然であること。その感覚を踏まえず、指示命令・依頼をしても人は動かないこと
特に既存の商品で稼げているうちは新しい商品を売ろうとしません。
リスク感度の高い人は、新商品の販売には消極的です。

一方で「守るもの」がなく、「新しいチャレンジ」と向き合う方は、低い確度でもチャンスに掛けて動いてくれました。
特に変化への抵抗がない、もしくはリスク許容度が高い人が、新商品の販売には向いています。

こうした新しいチャレンジをする人が作ってくれた機会を成功させ、その事例を横展開していくことが大切でした。


④海外派遣型研修の最初の受注

Kさんと共に、大手メーカーのグループ会社のIT会社様に訪問をすることになりました。お客様とのグローバル人材育成のディスカッションの中で、研修プログラムに関するニーズを聞きながら、グローバルコミュニケーション100本ノックの簡単な紹介をいたしました。

国内で行う研修ではなく、グローバル人材を育てるには海外経験を積んでいただくことが必要だと考えています。アルーさんでそうした研修はできますか?

手間をかけて開発をしたグローバルコミュニケーション100本ノックが、お客様のニーズにマッチしていないなかったことを認識し、多少なりとも残念な気持ちになりました。ですが、その商品があったからこそ「そうではなく、こういうものはないのか?」という具体的なニーズをお聞きできたことを嬉しく思いました。

私は即答で「当社で海外派遣型の研修をご提供することができます」とお答えしました。
とてもスタートアップベンチャー的な判断ではありましたが、私にはサービス提供を実際にできる確信がありました。

同時期に、当社は中国現地法人の設立を進めていました。総経理の陳さんに相談をすれば実現できるはずでした。
もう一つは、インドで海外研修を行っているパートナー企業様の存在がありました。代表の落合さんが海外展開を構想し、企画調査をする中でつながったネットワークでした。


翌週、Kさんと私は、当社としての海外派遣型研修の提案をまとめ、こちらの企業様にご提案をさせていただきました。お客様の反応は良く、実際の海外派遣型研修の視察に行きたいということになりました。前述のパートナー企業様がインドにて実施している海外研修を視察をすることとなりました。

翌月、お客様と共にKさんと私は、3泊4日の弾丸スケジュールでインド出張をすることになりました。インド渡航は初めての経験でしたが、パートナー企業様の研修施設に訪問をさせていただき、滞在中の研修受講者の方へのインタビューや最終プレゼンテーション等を見学させていただきました。

このインド出張と経て、海外での滞在型の研修というものをこの目で見て、サービスのイメージが固まりました。

結果、こちらの企業様はインドのパートナー企業様の研修プログラムに参加することとなりました。当社にとって、販売代理という形になりましたが、初の海外派遣型研修の受注でした。

この初の受注は、新入社員のKさんのチャレンジが作り出したものでした。


⑤海外派遣型研修が第2の事業の柱へ

同時期に、Kさんの同期入社である2010年新卒入社の瀬尾俊一さん(関西支社のカスタマイズ部門マネジャーを経て、2021年現在アルーの営業企画部門でご活躍)もグローバル人材育成関連のアポを取られました。他の新入社員メンバーも、同様にグローバルのアポを取ってくれました。

瀬尾さんは、大手素材メーカー様のグローバル人材育成、海外派遣型研修のアポイントメントを取られました。

Kさんと共に、一度海外派遣型研修の受注、納品を経ていたので、私達は自信をもってこの案件にも提案をさせていただきました。

Kさん案件では、インドのパートナー企業様のサービスの販売代理という形になりましたが、海外派遣型研修については今後大きく伸びる可能性があるため、私達は自社としてのサービス開発に取り組む必要性を認識していました。

この瀬尾さんの大手素材メーカー様では、海外事業比率を10年で大きく構造改革をするというヴィジョンを掲げられていました。そのため人材の育成こそが鍵であると考えられていました。

「新入社員全員を海外経験を積ませたい。10年間研修施策を続ければ、10年後には会社の4分の1が海外を経験している人間になる。経営直轄のプロジェクトとして取り組みたい」

そう大手素材メーカー様の当時の経営トップの方の意思に基づき、当社がご支援をさせていただくことになりました。

2011年新入社員約200名全員を、海外6か所に同時派遣する、という当社にとって初の大型プロジェクトを、2010年当社の新入社員の瀬尾さんが受注されたのです。この受注については、当社が立ち上げたばかりの中国上海現地法人、インド現地法人を中心にサービス提供を行いました。

実際に、こちらの素材メーカー様では、2011年~2019年までの9年間に渡り、当社にてこの大型の海外派遣型研修をご支援させていただきました。残念ながら2020年はパンデミックにより当初構想の10年目の海外派遣型研修は実現しませんでしたが、当時の経営トップが構想されたことはほぼ実現されたと言えるでしょう。

当社の新規事業へのチャレンジは、当社の新入社員の方々がきっかけを作ってくださったのでした。

海外派遣研修


本記事のまとめ

◆「守るもの」がある営業メンバーは変化に抵抗があることは自然であること。その感覚を踏まえず、指示命令・依頼をしても人は動かない
◆「守るもの」がなく「新しいチャレンジ」と向き合う必要性がある方は低い確度でもチャンスに掛けて動いてくれる
◆変化への抵抗がない、またはリスク許容度が高い人が、新商品の販売には向いている
◆新しいチャレンジをする人が作ってくれた機会を成功させ、その事例を横展開していくことが大切


次回の記事は・・・・

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本記事を含む「ミドル期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
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