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交流を通じた感動と学び

(2020年3月18日水曜日)

 一昨日まで、インドネシアのバリ島で開催された教育学会に参加し発表した。内容は、近年注力している国際学生交流活動の考察である。私はこの学会でほぼ毎年類似テーマで報告をしているため、楽しみにしてくれている方もいる。その一人(スウェーデン人)から質問された。
 「これほど熱心に取り組む活動を通じて、あなたは何を学生に与えたいのですか?」
 この質問への回答を以下に記す。

1.異文化との接触

 自文化の枠組み(コンフォートゾーン)から一歩出て、他文化の枠組みの中で適切に活動できるようになる力を高めたい。詳細は前回のブログで紹介した論文「多文化共生時代における学生主体国際交流プログラムの考察」を参照してほしい(https://19b0304.blogspot.com/2020/03/blog-post_17.html
 ところで、文化は様々に範疇化が可能であるが、その一つを紹介する。“目に見える”文化(表層文化)と“目に見えない”文化(深層文化)である。

(1)表層文化

 “目に見える文化”体験とは、異国の料理を食べる、異国の伝統衣装を着る
などの活動だ。例えば、ネパールでダルバート(ネパールの国民料理)を食べる)、ベトナムでアオザイ(女性の伝統服)を着用するなどがそれにあたる。一方、“目に見えない”文化とはもっと心の奥底に根付く常識や価値観などを指す。例えば家族感、幸福感、教育感など。

(2)深層文化

 “目に見える文化”に触れるチャンスはその地に身を置けば容易に触れることができる。しかし“目に見えない”文化に触れるためにはその地に生きる人々との交流や対話が不可欠となる。深層文化は最初は表層文化に深く覆われているが、表層部分での交流を深めていく中で少しずつ姿を現してくる。そしてこの深層部分の文化交流こそが人の心を揺さぶり文化力を向上させる。

2.異文化との交流体験の熟考と言語化

 ただし、深層部分の文化交流によって心を揺さぶられた時、それを受け身で受容して“揺さぶられっぱなし”になるのでは不十分だ。感動を言語化する主体的な作業が重要となってくる。「なぜ自分は感動したのか」「どんな文化的差異に心を揺さぶられたのか」そんな自分の心の動きを詳細に反芻して言葉に直す作業を通じて、国際交流の場で得られた感動は学びに昇華する。
 実際、国際交流プログラム実施後に参加者には1ヶ月以内にレポートの提出を義務付けているが、手を抜く学生は滅多にいない。深層文化との接触によって起こった己の価値観の転換を、必死に言語化することに額に汗を流して取り組む。

3.深層文化との交流→感動の支援

 深層文化との文化交流で心を揺さぶられた瞬間に「今、私は深層文化との交流で心を揺さぶられているのだ」と冷静に自覚できる学生などいない。本当に感動した瞬間、心は「言葉では表現できない」大混乱状態となり、感情を冷静にモニタリングする余裕などあるはずがない。
 そんな時、脇にいて彼らの「感情を自覚」をそっと手助けするのが私の重要な役割だった。感動のタイミングは様々、集団が一斉に感動状態を迎えることもあれば、ある学生に突然感動の兆候が見られることもある。その瞬間を見逃さないために、相当に集中して学生たちを観察し続けてきた。
 さらに付記して述べるならば、無為・無計画に外国に学生を連れて行くだけで、異文化交流が進むわけがない。気心の知れていない外国人に心の深い部分をいきなる見せるわけがない。深層文化のレベルで深い異文化交流が行われるように、プログラムは異文化コミュニケーションなどの理論に基づいて綿密に計画される。
 交流先の現地学生は3〜6ヶ月もの長期にわたり私と共に事前準備を整えて日本人学生を受け入れる用意をしてくれている。彼らは無償のボランティアで、2週間の交流中の三食すべての食事から訪れる場所まですべて事前に徹底した準備で臨んでいる。その中には両国の学生が打ち解け、深層部分でも文化交流が進むことを目論んだイベントなどが数多く盛り込まれている。

4.プログラムで成長する学生

 2008年以降、今年で12年目。大変に手の込んだ異文化交流プログラムを27回もこなしてきた。プログラムで感動を体験した後に伸びる学生の共通点のようなものが見えてきた。
 上手い表現が見つからないが敢えて言うならば「まだ活躍しきれていない学生」。地道な努力が実を結んでいなかったり、キラリと光るような潜在能力を眠らせていたり。そんな「まだ活躍しきれていない」「思い悩む」学生が、このプログラムをきっかけにめざましく活躍するようになる様をなんども目撃してきた。
 それは彼ら彼女らが「感動」の体験を経たことと関係していそうだ。深層部分と交流し心が揺れ動かされる体験が、人生の大きな転機となったのだろう。

5.予告

 次回の記事では、今回話しきれなかったプログラムでの現地の学生のことについて語りたい。

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