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【連載】コロナ禍備忘録 #3

「【連載】コロナ禍備忘録」は、単に私がコロナ禍に経験したことを書き留めることを目的とします。とりわけ何かを社会に訴えたいわけではありません。

(写真は学会はインドネシアで開催された学会発表中の私)

前回の記事はこちら。https://note.com/ikes822/n/n0e5e3bffa0d4

ダイヤモンド・プリンセス号のでの新型コロナ集団感染発生からWHOのパンデミック(世界的な大流行)表明に至る2020年2月~3月中旬に南アジア、東南アジア4ヵ国を廻り、「未知なる恐怖」に怯える世界の人々の雰囲気を最前線で観察できたのは、ある意味貴重な経験であった。シンガポールから羽田への深夜便機内では、シンガポール、チャンギ空港で購入した高価なマスクを身に着けじっと目を閉じ、ひたすら眠りに落ちるのを待った。筆舌に尽くしがたい異様な雰囲気の機内で7時間も耐えるほど私の心は強くない。しかし、「寝よう、寝よう」と焦れば焦るほど、逆に頭は冴えわたった。

「ペストが大流行したのは600年前。あの当時、ヨーロッパを中心に世界中で1億人が亡くなった。これによって社会構造はもとより、人類の精神史、つまり人々の価値観までガラリと変わった。そこからイタリアを中心にルネサンス革命が勃興しドイツの宗教革命へと続いた。もし、新型コロナ大流行がペスト以来の歴史的事件だとするならば、これから何らかの大革命が起こるかもしれない。そうだとしたら、これまでの常識が根底から覆されるのかもしれない。自分はそれにどう立ち向かっていくべきか・・・

結局、機内では一睡もすることができなかった。

早朝に帰国したその足で、職場のある東京都国分寺市に直行した。その日は午前10時から、私のゼミへの所属を希望する学生の選考会が実施されることになっていたのである。研究室に向かう私の心は重かった。なぜならば、来たる選考面接において私は限りなく虚偽に近いことを学生に問わなければならなかったからだ。

「9月にベトナムかネパールで二週間のゼミ研修を開催しますが、それに必ず参加できますか。」

私のゼミは「多様な他者との交流を通じた学び」を表題としており、夏季休暇中の外国での研修への参加が原則必須となっている。そのため、選考面接の際に必ず確認しなければならないのだ。「関ゼミ」は学生間で’ガチゼミ’と称されるほど活発なゼミであり選考競争率も高い。その名物とも言える海外研修に「もちろん参加します」と学生たちが目を輝かせて答える姿を思い浮かべると、深く胸が痛んだ。

実際、面接した学生は皆素晴らしく、合格したい一心でしっかりと準備をして面接に臨み、突きつけれる一つ一つの厳しい質問にも必死に回答した。健気な学生たちを相手に「虚偽同然」質問を繰り返す度に私は酷い自己嫌悪に陥った。

しかし、その時には、まさかその後一年間、その学生達と一度も会うことすら許されなくなるなど想像すらできなかった。

2020年3月下旬以降、まる坂道を転げ落ちるように状況は悪化の一途を辿りなすすべもなかった。緊急事態宣言発令、国境封鎖に近い入国制限、大学の授業オンライン化。あらゆる対面行事の中止。いずれもかつて経験のない事態ばかり。帰国便の機内で考えた「妄想」がいよいよ現実味を帯びてきたと思わざるを得なかった。

「そもそも私は生き延びることができるだろうか。」

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