[2023.10.14]密室づくりが仕事のぼくは、Taylor Swiftに夢中になる
英語の「好き」の言い回しが好きだ。
crazy forとかintoとかmad aboutとかcherishとか。どれもが、なるほど、とにかくなんかもう、それのことがすっごい好きなんだね!ってなる。とても良い。もちろん日本語だって、夢中になるとか虜になるとか色々あるんだけど、なんか英語の方がグッと来る言い回しが多い。
「Taylor Swift THE ERAS TOUR」を映画館で観た。良すぎて次の日も観た。
まだ足りなくて翌週も観た。まだまだ欲しくなってその次の週も発声可能上映で観た。4回観てもまだ観たい。
今までに4回も映画館で観た映画があっただろうか。
もののけ姫と千と千尋の神隠しと風立ちぬは3回観た気がする。最近だとeverything everywhere all at onceも3回観た。
一人で観る。より理解したくてもう一回観る。良すぎて誰か誘いたくなる。の手順で3回まではわりと良くある。
だが映画館で同じ作品を4回観た記憶は他にない。1回目の4回目が、映画ではなくライブ映像で、しかも好きなアーティストランキングつけて行ったら100位にも入るかどうか。くらいだったはずのTaylor Swiftのライブだった。意外すぎる。
グラミー賞めちゃくちゃ取る超若いカントリーの人。LeAnn RimesとかShania Twainと同じ枠で自分とは関係ない。けどLove StoryとYou Belong With Meだけは売れすぎなので、自分チャートにも入って来ちゃう。普通にいい曲だけど、なんかのっぺりした曲だよね。というのが2011年ごろまでのTaylor Swiftへの認識。不遜。何様だと過去の自分に言ってやりたい。
We Are Never Ever Getting Back Togetherが大ヒットして、MVの、特にサビになると現れる動物バンドたち、がはちゃめちゃに好きで、その年の自分チャート年間3位になったのが2012年。ちなみにこの年の4位が、のちにTaylor Swiftと強力タッグを組むJack Antonoffが所属していたFUN.の「We Are Young」
さらにちなみに2位はRihannaの「We Found Love」。Weで始まる曲が3つ並んでたんだな。
この曲の入ったアルバム「RED」から大ヒットメイカーMax Martinが入ってめちゃくちゃポップになり、出すアルバムは全てビルボード1位。シングルも大ヒット連発で、年々右肩上がりに更なる大スターへと大飛躍して行くものの、自分にとっては、昭和のアイドルやJustin Bieberなんかと同じく、世間的なヒットシングルだけをなぞるように聴くだけ、という枠であり、Blank SpaceとかDelicateとか、たまにめちゃくちゃ自分の好みに刺さる曲はあるものの、「RED」「1989」「Reputation」「LOVER」という4枚の大ヒットアルバムを積極的に深掘りして聴くようなことはなかった。
状況が変わったのは、We Are Never Ever Getting Back Togetherから早8年が過ぎた2020年。コロナ禍最初、フジロックもサマソニもない、せっかく鎌倉に引っ越したのに海も開かない、そもそも人はなるべく外に出かけてはいけない、そんな途方もない閉塞感が充満していた夏に突如リリースされたアルバム「folklore」だった。
プロデュースがJack Antonoffで、The NationalとBon Iverが参加している、ということは、それまでのキャリアのカントリーやポップスとは一線を画した、インディーロックみたいな曲調なんだろうなと、期待に胸を弾ませながら聴いたそのアルバムは、全てが期待を遥かに上回る名曲ばっかりだった。
インディーフォークでインディーロックでめちゃくちゃBon Iverなのに一貫してとてもキャッチーで、どの曲もまごうことなくTaylor Swiftそのものだった。菊池桃子がラムーを始めた時のような、中澤裕子が演歌歌わされた時のような、行き詰まって来たのでとりあえず他ジャンルに挑戦して(させて)みました感は一切なかった。
当時、日本作詞大賞みたいなやつで、せっかくの歌詞が歌い手によって台無しだ。と、審査員の大物作詞家に酷評されていた中澤裕子のことは折に触れ思い出す。
夏から秋にかけて、一向に良い方向に向かわず混迷を深めていった世界で、「folklore」を聴きながら、観光客のいなくなった森の中のハイキングコースを犬と散歩する時間は、ものすごく大切だった。
冬を迎える頃、連作の「evermore」も発表された。よりしっとりと冬に合う、暖炉の前で聴くのにぴったりのアルバムだった。もちろん家に暖炉などないので、こたつに潜りながらみかんを食べながら、そしてやはり寒空の下、人のいない神社やお寺で、犬と散歩をしながら聴くと、全身に染み渡るようで、少しも寒くないわ、と思えた。
そして最新作の「Midnight」。
事前に発表されていたアートワークが好み過ぎて、そして前2作に引き続きJack Antonoffがプロデュースで、よりポップな作品だということで、一時期の混沌からは抜け出す兆しを見せていた世間にぴったりじゃない。と期待に胸を膨らませていた。
が、やはり、前2作があまりにも自分にとって大切なものになっていて、うーん、まあ、うん、そうか。いい曲も多いな。くらいの感想だった。あと、思ったよりかなり暗かった。けどこれも、コロナの混迷は、別に抜け出したんじゃなく慣れただけだし、新たな紛争や分断が次々起こる世の中にはしっくり来るトーンなのかもしれない。
そう思いながら聴くと、ジワジワと良くなってきた。
そしてこの夏、自分のSNSは、Taylor Swift THE ERAS TOUR 、Beyoncé Renaissance World Tour、映画BARBIEの情報で埋め尽くされた。TaylorとBeyoncéとMargot Robbieのかっこいいコスチュームが次から次へと投稿され、その度に保存してはうっとりと眺めた。
小さい頃からステージ衣装、とりわけ女性アイドルのドレス、がものすごく好きだ。
自分で着たいという気持ちも、性的な目線も、どちらも皆無で、ただとにかく、「スターがゴージャスな衣装を纏ってパフォーマンスをすること」に目眩がするほど興奮を覚える。だから歌番組が好きで、普段の歌番組より衣装が豪華になる賞レースが好きで、その最たるものの紅白が大好きだ。紅白にジーンズや普段着風衣装で出た吉田栄作やaikoのことは許せない。aiko、大好きだけど、それはちがうのだ。私は、TPOの話をしている。
中学に上がるくらいから洋楽や映画も好きになると、ただただスターの豪華な衣装を拝めるありがたいイベント、レッドカーペットというものを知る。
グラミー賞やアカデミー賞、ゴールデングローブ賞にスーパーボウルのハーフタイムショー。そしてもはや、音楽も映画も関係ない、(庶民からしたら)ただセレブの最高のオシャレを楽しむためだけのイベント、メットガラ。
紅白のラスボスみたいな、いや、比べ物にならないほど豪華な衣装を纏ってバッチリポーズを決めるスター達に釘付けになる。
ただ長年、女に比べて男はタキシードかフォーマルなスーツくらいしか選択肢がなくつまらんな、と感じていたが、Billy PorterやLil Nas Xのようなクィアたちが風穴を開けてくれたし、Kendrick Lamarみたいに奇抜じゃなくてもかっこいい人も増えてきた。
なんてことで無邪気に喜べなくなってきた昨今の情勢の中、今伝えるべきメッセージを鮮明に発信しながら極上のコスチュームを何パターンも魅せてくれたこの3作品に関する投稿は、まだ本編に触れる前から、ふとした瞬間に正気を失いそうなこの夏の私の気持ちを、画像や短い切り抜き動画の時点で、強烈に鼓舞してくれた。
そのTaylor Swift THE ERAS TOUR が来年日本に来る!後先考えずに高額な席を申し込みまくったがあえなく全て落選。
そこへ10月、映画館での上映情報が飛び込んできたのだ。
映画を観るときには買わない、ポップコーンといちばんデカいサイズのアイスティーを買って、プレミアシートに座った。
すごかった。キャリアを網羅するセットリストのため、ほとんど聴いたことある曲ではあるが、ちゃんと口ずさめるのは数曲。
知ってるだけで全然こんな曲好きじゃないよって思ってた曲の方が多いし、全く知らない曲もあった。
ところが、好きじゃない曲も知らない曲も全部ひっくり返って全部良かった。観終わっても興奮が止まらず、劇場を出てすぐイヤフォンをつけてTHE ERSS TOURのプレイリストを聴きながら、SNSに出回る世界各国の感想投稿を漁ってはいいねを押しまくり、すかさず翌日の席を予約した。
2回目。店員さんに大きいですよ?と心配されながら昨日より大きいポップコーンを買う。大きくないとキャラメルと塩のハーフハーフにしてくれないのだ。
3回目。池袋のグランドシネマサンシャインで。ポップコーンにバターをかけてくれた。引くほど美味かった。
3回目には全曲だいたい口ずさめるほど夢中になっていた。ただ不満はあった。1回目のTOHO新宿が、外国の人やクィアやギャルが思い思いに歌ったり踊ったり叫んだりしててその雰囲気こそが最高だったし、世界中どこの映画館もなんかサークル作って踊ってもはや画面一切観てなかったり大合唱が巻き起こっていてとんでもない幸福感で満たされている様子だし、実際あのライブ映像を観て歓声やらため息やら万感の思いを込めた拍手やらは、自然発生的に巻き起こらざるを得ないと思う。
なのに苦情があったのか。2回目は劇場全員黙って観る映画館スタイルだった。拍手だけはしたけどそれも音の出ないサイレントかしわ手スタイル。
すると、TOHO六本木で一度だけ発声可能上映やるぞという情報が飛び込む。しかし即完。のため、3回目も大人しく鑑賞。
そして、4回目。六本木の好評につき、発声可能上映をする映画館が一気に増えた。
友達を誘って、グランドシネマでいちばん良いIMAXレーザーの、足まで伸ばせちゃういちばん高いプレミアシートで、バターがけ塩味とキャラメルのハーフ&ハーフポップコーンを食べながら、発声可能上映。というベストな状態での鑑賞に成功したのであった。
どうして、一体何にここまで釘付けになったのだろう。
まず目に飛び込んで来る何がどういう仕組みで起きているのか、にわかにはわからない特殊効果。そんなとこ、何万人の客席からは絶対見えないのにという細部まで魂の宿ったこだわりの美術と衣装。
それらを、まるで映画専用に開催されたライブだったのではないかというほど、常にベストな臨場感が味わえる、一体どう撮っているのかわからない画角で届けてくれる撮影技術。
さらに実際のライブでは挟まれるであろう転換がカットされているため、息つく間もなく名曲が投下され続け、一時たりともテンションが下がらない。
そして多様性て、まさにこういうことだよねというステージ。
様々な人種、体型、性別のダンサーが、性別による役割を極限まで削除したダンスを繰り広げる。社交ダンスも同性同士で組む場合があるし、ヒールダンスや椅子を使うセクシーなダンスも男女同じ振り付け。
そのダンサーたち始め、バンド、コーラスも全員ををくまなく映す。その人たちがずっと最高潮にハッピーなフィーリングを保ちながらすごいクオリティのパフォーマンスをしてくれる。ほとんどのダンサーにいわゆるキリングパートみたいなのがあるから、一回目からすでにダンサーやコーラスやバンドのことも好きになる。
そして当たり前だけどこれらの全ての場面にTaylor Swiftがいる。3時間半出ずっぱり。なんならMCはダンサーの着替えの場繋ぎだったりする。ダンスもするしギターも弾くしピアノも弾く。ファンサービスもバッチリ。歌声全然ブレない。語尾がハスキーになるところも、歌い上げる時のまっすぐきれいな歌声も心地よい。
というわけで2023年10月、私は完全に
I’m crazy for Taylor Swift
I’m into Taylor Swift
I’m mad about Taylor Swift
I cherish Taylor Swift
という状態に陥った。恋は人を狂わせると言うがまさにそうだ。寝ても覚めてもTaylor Swift。映画館で会える週末が待ち遠しい平日。
観終わったらもうすぐ次の約束がしたい。日常のペースは乱れっぱなし。
日々仕事や家事と並行して、日常に頻繁に「恋」を導入してる人、すごすぎるな。消費する時間とエネルギーがエグすぎる。頭が下がる。
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