🇮🇹通信OA 露軍侵攻の影響とラーメン

2022年3月21日 19:49

香川のAMラジオ局で、隔月放送している「イタリア通信」。イタリアから電話で、最近起こっていることや周りで見たものを詰め込む20分間。話した内容をここに書き留めていく。語尾は、OAと同じ「デスマス調」にして、本番っぽくしてみる。

冒頭の挨拶

Buongiorno a tutti !!!!

今季一番の寒さが3月になってやってきました。雪が降ることはないですが、朝晩は厚手のコートがまだ手放せません。気温は、高松と似たような感じですが、ゆるく変動するので、日本のように急激な温度差はないです。でも、春は着実に着ていて、街では、梅や菜の花が開花、園芸店では、どれを植えようか迷うほど、色とりどりの花々が並んで心浮かれます。

新型コロナウイルスの状況

まずは、3年目に突入した新型コロナウイルスの状況です。

前回お届けした1月は、一日の感染者数が過去最大の数値を出し、一日に20万人に達しました。この2ヶ月でまたグッと下がり、
現在は一日、平均して約2万人にまでになりました。が、今月に入り、また緩やかに上昇しています。屋外のマスク着用義務がなかなったからかもしれません。
一日の死亡者数は、この2ヶ月でずっと下がり続けていて、平均は、140人です。
ワクチンの摂取率は(3月16日時点)、
1回でも受けた人は、85%
必要回数完了した人は、80％
ブースター接種は64％。　完全に修了した人は、多いとは言えません。

現在、イタリアで敷かれている規制は、

・屋内のマスク着用
・飲食店やジムや娯楽施設・職場などのワクチンパスポート提示義務
くらいです。
イギリスやフランスでは、徐々に規制解除の方針を発表しましたが、イタリアでは、集中治療室の空き状況や感染者の増加が見られる中で、今月末の解除はないと報じられています。

ですが今月24日から、スタジアムの動員数を100％にすることが明らかになりました。ワクチン未接種者の入場も可能になるとか。実は、この日にサッカーの大事な試合があるようで、関係者の嘆願あって、政府の許可が降りたということでしょうか。国民にとってのサッカーの熱量が違いますね。

さて、この話も避けては通れません。

ロシア軍のウクライナへの侵攻

（オフレコ: OAでは言ってないですが、本番前にこんなことを話しています。
マスコミでは、惨事や出来事に関して、テレビやラジオ局で統一した名前をつけます。これにより混乱を回避することができます。ですが、今回のロシア軍の侵攻については、局から特に指定はなかったので、アナウンス部長のアドバイスで、「ロシア軍の侵攻／ロシア軍の攻撃」ということに。イタリアでは、「戦争」という言葉を使うが、戦っているのではなく、攻められている状態なので、それは使わないでということだった。各局・各新聞社を見ても、バラバラだったので、この辺りの呼び方は、後々決まるものなのかもしれない。）

陸続きであるイタリアでも、難民が着ていて、3月16日現在、44000人が既に来ているとの政府のHPに掲載されています。今後70万人にまで達する予定です。（翌日、我が小さな町にも、ウクライナから避難してきた人が、リュックや荷物を抱えて市役所前にたくさんいたと聞きました。）

彼らは入国時に、PCR検査を2日おきにするか、ワクチンを接種するかを選ばなければならないようです。地域差もあるようですが、ワクチン接種をしていない人も多いとか。このあたりでも、入国に時間がかかっているようです。

ロシア軍の侵攻によるイタリアへの影響

まず、一番最初に変化が表れたのが、「ガソリン」です。
数週間前から高騰していて、1リットルあたり、日本円でおよそ300円までに。

輸送費が上がり、主に生鮮食品から影響が出ると考えれています。
また漁業においても、魚介の値段がさらに上がる見込みです。

ガスは主にロシアから購入していましが、先日の欧州連合の会長が語るように、他のクリーンな、再生可能エネルギーやバイオガスなどの利用を増やすと発表。ロシアに依存しない暮らしを目指すとのこと。

小麦粉は主に、ロシアとウクライナからきているので、パン屋クッキーは常に上昇しているとか。小麦粉の購入に際し、「一人家族数袋まで」と規制が出ているようです。パスタは、主にカナダ、アメリカ、メキシコ、ヨーロッパの他の国から輸入される「デュラム小麦」で作られています。ちなみに、パスタの1キロの価格は2ユーロ。つられて値段が上がることはあるかもしれませんが、昨日、近所のスーパーへ行くと、パスタが売り切れていました。

他にスーパーの棚は、牛乳、クッキー、缶詰、オイルなどが品切れ。健康食品の高価な商品はまだまだ並んでいました。店員さんによると、値段の高騰はまだそこまで表れていないが、時間の問題とのこと。

ちなみに、こちらが直前に行ったスーパーの様子。

70年代の石油ショックをどう乗り越えたのか

ニュースを検索していると、気になる記事がありました。

イタリアでは、第一次石油ショックの影響が1970年代に顕著になりました。エジプトとシリアがイスラエル攻撃をしたことにより、原油の価格が高騰止、禁輸措置を行いました。そこから、経済が暗転します。

その頃の経済危機を、市民はどのように乗り越えたのか、という記事。

当時の通貨が、ユーロの前の「イタリアリラ」だった頃で、一般的な給料は、現代の日本円に換算すると、20万円相当。現在15万円でも暮らしていけるイタリアで、みんなが少しずつ裕福な生活ができていたと考えられます。コーヒー一杯が、数円の域。ユーロになる前のイタリアは、経済的にも精神的にもとても豊かだったと言われている時代です。

ですが、1973年の年末には、暮らしが貧しくなっていきました。どのように政府が規制を行ったかというと、

日曜日や祝日は、イタリア全土で車やバイクでの外出禁止、
夜の外出規制も
人々は燃料を買わなくていいように、ガレージから、自転車や複数乗りの自転車：タンデムやキックボードで外出する人がドッと増えたとか。中には、馬で出かける人もいたらしい。（かつて車は、一家に一台あるかないかというほど、今ほど多くなかった。）
車は、安全や緊急を要する車両、医師、宗教関係者のみが利用でき、その他の人は、現在の日本円で、およそ5万円相当の罰金。
夜のレストラン、商店やオフィスの時間は前倒しされ、娯楽施設も午後11時に閉店。
クリスマスや年末年始は、屋内で過ごし、電圧の制限も。
街の明かりも2つに1つ消灯し、40％の街灯が削減。
早寝を勧めていたために、テレビ番組も午後11時には放送終了。

貼り付けた記事の写真を見ると、当時の市民は、みんな笑顔で自転車を漕いでいる。質素な暮らしをしていたはずだけれども、なぜか楽しそうに見えるのは、イタリア人だからでしょうか。

しかし、この節約暮らしは長く続かず、その数ヶ月後には、インフレが上昇し、1980年代には、消費主義へと移り変わっていきました。

1970年代の様子を振り返りましたが、現代で置き換えるといかがでしょうか。当時と違うところと言えば、電子機器：スマホ、パソコン、Wi-Fi、はなくてはならないライフラインです。ほとんどの場所で、データ管理されています。医療関係、オフィス、商業施設、交通機関など、「ピッ」とすることで、作業の効率化が図られていますが、充電不足やネット環境の制限があれば、人々の苛立ちは膨れ上がり、荒れることが予測されます。
学校は、本があれば大丈夫ですが、このコロナ禍で、一筋縄ではいかなさそうです。

今から、スマホや電子機器の依存を解放する必要があるかもしれません。私もその一人です。

ラーメンはじめました

私は、日本食レストランで働いています。ここにも、大きな影響が出ることは間違いないですが、まだ値段には響いていません。

前回のイタリア通信では、アリタリア航空の経営破綻により、直行便がなくなり、流通に影響が出ていました。この4月1日から、ローマ～羽田線は就航する予定です。しかし、ロシアの上空を飛行機が飛ばないこともあり、ロンドンやパリなどでは運行を停止しています。直行便が増えれば流通も以前の状態に戻るかもしれないと期待しています。

ですが、郵便局のサイトでは、イタリアでは、税関の検査強化により、配達に遅れが出るというお知らせも。流通に関して、荷物が思った以上に早く届いた人と、半年もかかったという人も見聞きする中で、税関によるものなのかもしれません。

これで、引っかかったのがあります。

それが、日本の即席麺です。

ニュースにもなっていたんですが、日本のカップラーメンや韓国の袋麺には、イタリアでは使ってはいけない食品が含まれているということで、検疫に引っかかり、商品が入って来なくなりました。

実は、レストランでは、日本から日本食を扱う業者を通して、ラーメンを購入していました。小麦粉も上がれば商品も高くなる。でもメニューの値段は上げたくないということで、

我がレストランのオーナーは立ち上がりました。日本のラーメンを提供しよう！と。

イタリアでは、お寿司はもうハンバーグに次ぐ、人気の外国料理。その多くは、中国人が営む「寿司と中華料理」を提供していて、日本食と中華を混同している人が多いです。寿司は仕込みに時間と費用がかかるもので、ラーメンに手を出す人はあまりいません。どのラーメン屋を見ても、専門店がほとんど。ラーメンを作る工程は、片手間ではできないほど、負担となることが想像できます。

ですが、コロナ以降、客足は少しずつ遠のいています。また、街に寿司を提供する競合が急激に増えたこと、コロナ禍において、お客さん自体が失業や減給を強いられた人など、転職を求めて街を離れたなど、あらゆる原因が重なったと考えられます。かつては週末に、多い時で150人ものお客さんが来ていましたが、今では50人でも良い方です。

ということで、時間に余裕ができたオーナーは、ラーメンの研究に入りました。

ちなみに、この街の人口は16万人町。日本人はわずか14人なので、日本食の需要はそこまでありませんが、寿司と中華の店は、なんと17店舗もあります。ハンバーガー屋さんの次ぐ人気。ですが、この町に住むイタリア人は、ラーメンの味を知らないんです。興味を持っている人は多いと感じていました。

オーナーは、中国人ですが、レストランのメニューは「日本食」にこだわっています。だから、僕が完成させるんだ！という意気込みです。期待と夢を背負って、スープに使う具材、煮込み方、麺の太さ、硬さ、茹で具合、トッピングなどと日々試行錯誤していました。私は、お店で唯一の日本人なので、何度も試食させられました。来る日も来る日もラーメン。スタッフの中には、もういらない！と嘆く声も。最初の頃のラーメンは、まだ子鹿くらいのひ弱さで、人に出すほどではありませんでたが、1ヶ月もすれば見た目も味も良くなっていきました。

味は、あっさりした醤油ラーメンに、トッピングは、チャーシュー、ズッキーニと半熟卵。スープやトッピングはいい感じ！ですが、「讃岐人としては、麺は踏もうぜ！」と思います。しかしながら、オーナーにとって、食べ物を踏むことに抵抗があるのと、イタリアの食品衛生の面から指摘されるであろうとのこと。それでも捏ねて捏ねてコシのある麺は出来上がりました。

そうこうしている間に、近所でハンバーガーを営んでいるお店が、路線変更しラーメンも始める！という広告が入ってきました。
負けていられいない！と、オーナーは急遽ラーメンを完成させ提供することにし、当店も広告を作りました。（私はメディア担当）

完成したラーメンを常連客から少しずつ味見してもらったところ、どの人も、「美味しい！素晴らしい！完璧！」と絶賛の言葉をもらえました。お世辞でも、オーナーの励みになっています。今では、毎日10食は出るほど、人気メニューに。
ちなみに値段は、日本円で約1100円。この値段は、他店と比べても600円ほど安い値段設定です。あくまでうちは寿司屋。少なめの量でラーメンを満足してもらって、残りの胃袋にお寿司を頼んでもらおうという狙い。ですが、ラーメンだけで終わる人も。それでもいい。こうやって、着実にラーメンの良さを伝えることが、今できることでしょう。

今季一番の寒さ、もう少し続きますように。ラーメンの旨さを際立たせるために。

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