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【イタリア】築150年のオペラ劇場で佐渡氏のオケを聴く


イタリアの小さな街に、指揮者の佐渡裕さんがやって来ました。
おそらく初めてのことで、今後あるかないかということろ。
この機会を逃してはなるまいと、仕事をドタキャンし行ってきました。


昨日の続き。


第二幕の始まりです。
演目は、

グスタフ・マーラー
『交響曲第1番 「巨人」』


弦楽器と管楽器の一幕よりさらに、
ピアノ、オルガン、打楽器が加わりました。

一幕の華やかさとは一転、静かに始まります。
またも空気が張り詰める。
耳や目や想像を音に集中させ、
何を表現しているのか、どんなことが起こるのか
固唾を呑んで見守っている感覚。
一瞬たりとも見逃すまいと全神経を集中させていることが
会場の全体から伝わってきます。


かつてトロンボーン奏者として吹奏楽部や市民団体に所属していた頃は、
どんなに小さな音でも、脆弱ではなくコアのある音色を出すために
口の使い方や息づかいを何度となく研究してきました。

大きな音を出すのは簡単で、まるでジャイアンが大声で歌う感じ。
ですが、小さな声量でテレサテンを歌うのは至難の業。
体全体の使い方や喉の開き具合、息量によって調整しなければなりません。

プロの技法は見事で、小さくても明確に聴こえる。
CDでフェードアウトするような演出も、
自分たちの力量でいかようにも調節できることに
痺れました。
音の濃淡を色こく感じた楽曲。
書いている今も繰り返し聴いています。


佐渡さんは、ずっしりとした体格で、
大きく手を振る時は、熊が立っているかの如く迫力があります。
跳ねたり飛んだり、勢いが溢れ出ていました。
時折聴こえてくる息づかいに鋭さを感じ、
一瞬の緊張が走ります。
一方で、繊細な音の時には、丸く柔らかく動かすことで
小さくも見えます。


第三楽章は、耳馴染みある音楽が聴こえてきました。
日本では、「グーチョキパーで何つくろう?」というタイトル。
マイナーなアレンジですが、元々はフランス民謡なんだとか。
それをモチーフにマーラーによって用いられたようです。

隣で集中して聴いていた夫は、「知っている!」と言わんばかりに
目を輝かせ一緒に歌っていました。
重奏するように次から次へとバタンタッチする奏法は興味深く、
オーケストラの醍醐味だと感じました。


1時間近くに及ぶ演奏は、
後半に差し掛かってくると指揮を振る佐渡さんの姿にも
熱が込み上がってくるのが伝わります。
襟足の部分は汗をかいている。
途切れることなく、集中して指揮することは相当な運動量です。
全方位に向けて常に指示を出していくこと、出したい音のカタチ、
作りたい音の表情など、内面での奮闘が起こっていることでしょう。
終盤に向かうクライマックスの姿は圧巻で、感情が頂点へと向かっています。
高度な技術を駆使して奏でられる演奏は、
ただ速いだけでなく、音も細かで重なり合い、
50人とは思えない以上の倍音となって響き渡っています。

こうして、最後のエネルギーを振り絞るかのようにピークを迎え、
勢いよく締めくくった後は、拍手の嵐。


!!!!!!!!!!!!!!!!!


Bravi!! Bravi!!
(ブラボーの複数形)

スタンディングオベーションをしたかどうかは見ていません。
私はずっと佐渡さんに釘付けになり、拍手を贈ったり手を振ったり。
最後のカーテンコールでは、

「佐渡さ〜ん!」と思わず言ってしまいました。
聞こえるわけもないですが、周りの人は
チラッとこっちを見ていました。アハッ

興奮冷めやらぬまま、劇場内を散策。
戦前より生き残っている様子をご覧いただきましょう。


後方
前方
アリーナ入り口
入り口から
この色合いとレトロ感がたまらない
油絵のような大理石の柱
椅子にも愛嬌がある
3階の左から4番目にいました
数日が振られています
パンフレット



じっくり堪能した後、劇場を出ると、
声をかけられました。
日本人の友だちがいました。

ベンツが前づけしていることから、
おそらく佐渡さんが出てくるであろうとのこと。
一緒に出待ちをしました。

すると、車の影にいました!
思わずみんなで駆けつけ賑やかに。
一人の友だちは写真撮影を依頼。
みんな一緒に撮ってもらえました。


かつて、ラジオディレクターとして働いていた時は、
コンサートやライブに招いてもらえることが多く、
その後は必ず楽屋で挨拶することがお決まりでした。
感想を一言ずつ言うのですが、お世辞ではなく、
気の利いた一言を試される機会。
同僚だけでなく、他局の同業者もいる中、
それぞれ印象ある言葉を投げかけます。

何度も経験したこの時間は、
佐渡さんとの会話でも発揮する事ができました。
16万人の小さな街に来てくださったお礼、
『題名のない音楽会』を見て育ったこと、
YouTubeを見たこと、ウィーンでの暮らしなど
少しですが話すことができました。

実は、急遽チケットを取ってから、
佐渡さんについて調べていたんです。
これは制作人としての性ですかね。
背景を知らずに挑みたくないんです。
夫にも一通り情報を伝え、より一層
佐渡さんの音楽を堪能できたと思います。



物静かで少しはにかむような姿は、
一流の指揮者であっても孤高とはならず、
とても親しみある印象を受けました。

快く撮影を受けてくださったこと、
イタリアでの食事が楽しみなこと、
インスタの写真どんどん使ってください!と
大盤振る舞いなところなど
ますます人柄に惚れました。

インスタの写真を見てわかるように、
音楽だけでなく食事とゴルフに夢中な姿は、
茶目っ気さえも感じます。


イタリアの小さな田舎で、まさか
佐渡裕さんが指揮を振るオーケストラを聴くことができただなんて。
私の音楽鑑賞歴史の中でまた、
貴重な1ページとなりました。

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