見出し画像

【イタリア】夜に響くオヤジたちのブルース


なぜかこの街のオヤジたちは、
ブルースをこよなく愛している。
街のあちこちにあるパブでは、
ジャムセッションが行われ、
また今日も、そしてまた次回も
ブルースが響き渡る…

我が夫もその一人。
今集っているバンドメンバーは、
出会って5年になるでしょうか。
週に一度、練習を行っています。

何が目的かというと、
レストランやライブステージを備えたバーで
一晩のステージを任されることです。
お店側は毎週末行っているので選り取り見取り。
わずかな出演料をもらえることもあるんです。奏者はそよりも、そこで演奏できることが誉なのです。

知り合いがステージに立てば見に行き、
突然、名前を呼ばれれば飛び入りし、
歌ったり演奏したり、ありったけの技術を披露します。
目をつけてもらえたなら、次の機会に繋がる。
だから、いつでもスタンバイしておくんです。



パブとブルース

その一晩のライブを任される前に、
人前で度胸をつけられる場所があります。

それが街にあるお酒の飲めるパブ
週に一度「ジャムセッション」を行っていて、
誰もが手を挙げればステージに上がれるというもの。

練習し覚えたての技術を発散するが如く、
鼻息荒くステージのそばまでやってきて、
次に歌いたいと手を挙げるのです。

ここでよく演奏されるのが、

ブルース

ブルースとは、アメリカの黒人たちの間で広まった音楽。ジャズの基になったとも言われます。アメリカの各地で個性を持って育ったたブルースは、そこから世界へと広がっていきました。

詳しく知りたい方はこちら



イタリアのオヤジたちに人気なのかは謎。
しかし、夜の酒場で嘆きを歌うことは、ブルースが誕生した背景と同じ状況だから、オヤジたちが集う理由も分かります。


哀愁と唸り。そして、こぶしが入れば我々の「演歌」とも似ています。歳をとってより滋味深さを感じ、一節歌いたくなるのは、どちらにも共通したエレジーではないでしょうか。


ブルースの曲

さて、ブルースと聴いてどんな音楽を思い浮かべますか。

日本だと「伊勢崎町ブルース」や「港町ブルース」などタイトルが出てくるかもしれませんね。
やはり演歌との相性が良く、演歌歌手がブルースをリードしてきました。

はたまた、「スニーカーぶる〜す」があったと思ったあなた、惜しい。マッチの歌うブルースは音楽性ではなく、「哀愁」というメッセージが込められたものなんです。

あと、EGO-WRAPPINの「色彩のブルース」もありますね。ジャズ寄りの楽曲と言えますが、ブルース性を感じられます。


では、この街のオヤジたちが歌っているブルースとは

・マディーウォーターズ 「Hoochie Coochie Man」
・BBキング「Three」O’clock Blues」
・フレッディキング 「Sweet Home Chicago」
・スティーヴンレイヴォーン「Pride and Joy
・クリーム (エリッククラプトン)「Cocaine」
・ジョーボナマッサ 「Taxman」
・ジョンメイヤー 「GRAVITY」

など、これはほんの一部です。このような60年代以降から近年の曲をカバーして歌います。

聴きやすいブルースの特集はこれをどうぞ。


ジャムセッション


毎週のジャムセッションでは、
度胸試しにステージに上がりたい人がやってきます。夫もバンドで駆けつけて、人前で慣らす練習を行っています。しかしこの日は、ギターリストが風邪で休み。せっかく仕事終わりで私も駆けつけましたが残念。
夫はただみんなのパフォーマンスを見て勉強していました。

このセッションに若者もやってきます。ブルースを演奏していればステージに上がることができるから、まず青年たちもオヤジたちに習ってブルースを弾くようです。

一人の青年がドラムを叩きたいと上がり、演奏したいブルースの曲を他のメンバーに告げ、いざ本番。

ブルースのリズムは基本的には同じで、
4分の4拍子の3拍目にスネアを叩きアクセントをつけます。
「ロバのパン屋」の音楽を想像してください。
つまり、パッカパッカッカパッカのリズムと3拍目の太鼓です。
これが基本で、速さやアレンジで変化します。
だから知らない曲でも演奏できるものなのです。

青年は緊張からか、バンドのみんなと一拍ズレてしまいました。急に戻せないため、不思議な曲として前進していきます。途中でギタリストがギターを振り、叩く場所を合図しています。するとなんとか軌道修正できました。このまま終わりまで刻んでくれ!とみんなの想いが合致しているのが分かります。そして無事に終了。持ち堪えたみんなに拍手。彼はこれで一つの場数を踏むことができました。

次にやってきたのが、ギター青年。

意気揚々と上がってきました。ギターの流れもブルースは一定で基礎さえ覚えておけばほぼ演奏できます。そして肝心なのが、「間奏のソロ」。ここで腕が試されます。最初は落ち着いて始まり、最後に花火の大輪が打ち上げられるように絶頂を持っていければ完璧です。

上手い人はここですぐに差がつきます。家で練習してきてぶつけるのではなく、もう身体の中に溜まった音のマグマを発散するが如く、音楽が溢れ出てくるんです。それは聴いていて口が開いたままになることも。

この青年はというと、初めは良かったんですが途中で見失ったか衰退。もう一人のギタリストがリカバーしたので音楽としては完成しました。これからまだまた伸びる余地があるので、一つの経験としてずっと弾き続けてほしいです。

オヤジたちは寛容で、上手かったら「良かった」と声をかけるし、巧みな技術なら演奏後に褒めに行きます。この日の青年には「よく頑張った!」と声援を送っていました。

聴いている奏者もただ生演奏を楽しみたい視聴者も今この瞬間を味わっている。たまたまできたメンバーでたまたま合致したら幸運。この一期一会がたまらない。
また来週集って、今度はどのブルースを奏でるのか聴けるのか。

水曜日のオヤジたちのブルースは鳴り止まない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?