【短編小説】桜並木とブランコ
サキ「ゆか、ごめんね、待った?」
ゆか「全然、久しぶりだねー。サキは受験お疲れ! 合格おめでとう! 春休み、休めてる?」
サキ「3年分の教科書とかね、片づけようと思ってるんだけど、なかなか」
ゆか「そうだよね、分量もあるし。ねぇねぇ、見た? さっきのカップル」
サキ「見た! 女の子、めちゃくちゃ怒ってたね」
ゆか「いやー、彼氏とのテンションの差よ。同い年くらいかなぁ付き合い始めなのかもね。あ、こっちの道行くね」
サキ「あ、うん。今日はお邪魔させてもらってありがとう」
ゆか「ぜんぜん。これからゆっくり会える機会も少なくなっちゃうし。家でゆっくり話そ!」
サキ「うん、あのね、今日はね」
ゆか「あ、次の信号渡るね。えーと、ごめんなんだっけ?」
サキ「あ、いや、えーと……あ、ここって桜並木なの?」
ゆか「そうそう! そんなに距離は長くないんだけど、けっこう見ごたえあってキレイなんだよね。まだちょっと早いかなー」
サキ「そうなんだー」
ゆか「ここの桜が咲いたら、地元の人たちがみんな集まってきてね。ほら、幼なじみのタカヒロいるでしょ? 子どもの頃は、毎年一緒に見に行ってたなぁ。5月の文化祭でさ、サキとタカヒロ一回会ってるよね? 7組の喫茶コーナー行ったときに話したやつ」
サキ「うん、覚えてるよ。そっか、毎年来てたんだぁ」
ゆか「そうそう。家がお隣同士とはいえ、高校まで腐れ縁になるとは思ってなかったなー。さすがに大学は別になったけど」
サキ「……あのね、私、ずっと毎週水曜日に図書室通ってたでしょ?」
ゆか「うん、1年生のときから、よく続くなって思ってた」
サキ「うちの高校ってけっこう蔵書が多くて、読みたい本が市民図書館よりも多かったんだよね」
ゆか「そういえば、タカヒロもそんなこと言ってたなー。3年のとき図書委員だったらしくて」
サキ「タカヒロ君ね。文化祭で挨拶してから、図書室で会ったら話しかけてくれて」
ゆか「へぇ、そうだったんだ! 二人にそんな接点あったなんて知らなかった」
サキ「あ、受験勉強で忙しくなってからはあんまりなんだけど。好きな作家が一緒で、おすすめの本教えてもらったりして」
ゆか「全然知らなかった! まぁ私、本読まないし、受験も推薦で決めて図書館もほとんど行かなかったからなー……あれ、こっちこっち! この道が迷いやすいんだよね。……どうしたの?」
サキ「……あのね、私、実はタカヒロくんと付き合うことになったの。今日は、それを言わなくちゃって」
ゆか「……どっちから?」
サキ「……。」
ゆか「……タカヒロからかー。あいつ、何なの。だったら言えってゆーの」
サキ「ゆか、バレンタイン渡すって言ってたでしょ? だから、本当はもっと早く相談しなきゃって思ってたの。だけど、考えて、迷ってるうちに3月になっちゃった」
ゆか「なんだそっか、ごめんね。気つかわせちゃったなー。そっかぁ! サキとタカヒロがねぇ……あ、ここね、家から一番近い公園。小さいころから一番遊んだ場所。ちょっと寄ってこ?」
サキ「あの、言うタイミングつかめなくて、今日になって、ごめんね。やっぱりちゃんと会って言わなきゃって」
ゆか「なんで謝るの、あ、ブランコ! ブランコ乗ろ!」
サキ「……うん」
ゆか「わぁーなつかしいね。ブランコ乗るなんていつぶりだろう」
サキ「……うん」
ゆか「……タカヒロに誰か好きな人いるんだろうなーって気づいてたよ」
サキ「え?」
ゆか「毎年バレンタインはね、近所のケーキ屋さんで買ったチョコをあげるのが恒例だったの。で、タカヒロも同じケーキ屋さんのキャンディボックスをお返ししてくれて。お店のおじさんも顔見知りでね。だけど、今年のバレンタインはさー、買ったやつじゃなくて、チョコを手作りしたんだよね。私も4月から地元離れちゃうし、もう渡せるのも最後かなって」
サキ「うん」
ゆか「それでね、そのお返しがコレ」
サキ「なにこれ? 御守り?」
ゆか「健康祈願だって。友達と卒業旅行で行った神社のやつだって。女子からの手作りチョコのお返しがこれって! おじーちゃんかよ。……私は仲良しの幼なじみだったんだなぁって」
サキ「ずっと一緒にいたんだもんね。タカヒロ君だって、離れるの淋しいし、ゆかのこと心配なんだよ」
ゆか「うん、わかってる。……あそこの桜、今年はサキがタカヒロと見に行ってね。私の代わりに写真撮って、送って?」
サキ「うん、わかった」
ゆか「桜だけじゃなくて、ちゃんとツーショットの写真撮るんだよ?」
サキ「うん、ありがとう」
ゆか「さ、そろそろ家行こう! なんかお腹空いちゃった。あいつの家も寄ってっちゃう? 頭一発はたいてやらないと!」
(おわり)
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