コスメのファネル

インフルエンサーマーケティングの弱点(Season1総集編)

いままで、数本のインフルエンサーマーケティングに関する記事を書いてきました。

過去の記事で、本来、Earned✕Sharedの場所に生息していたはずのインフルエンサーのリーチをPaid化させてしまった功罪について触れ、

次に、消費者は店頭に来た時点ですでに購入するブランドが70~80%決まっていること(ZMOT)に触れた上で、そのZMOTをつくっているのは既存顧客のTMOT(=大事なのは既存顧客によるUGC)であることに触れました(Paid型インフルエンサーの起用は、瞬発的なリーチは稼げても、持続可能なTMOTをつくってはくれない)。

次に、そもそもなぜここまでインフルエンサーマーケティングが注目されるに至ったのかという歴史的背景に触れ、

あらゆるものがコモディティ化した現代社会においては、もはやすべての商品が「最高商品」であり(=どの商品もほとんど差がない)、その状況では認知的態度(良いか悪いか)ではなく、感情的態度(好きか嫌いか)で選ばれる――。

だからメーカーは「最高製品」の開発だけに命を懸けるのではなく、「最好商品」にする努力を怠ってはならない。そしてその最好商品のもつ感情的・情緒的・精神的ベネフィットを熱く伝導してくれる人こそがファンフルエンサーであることを説きました。

そして、前回、消費者は8つの場所で検索することをまとめ、課題は(フィードやタイムラインではなく)TwitterやInstagramでの検索フィードの最適化であることと、そもそもどうやって「検索したい」という検索の情動をつくり出すかであることに触れました。

今回はここまでの総集編(Season1の最終回)。

あえて刺激的な「インフルエンサーマーケティングの弱点」と題し、フォロワーの多いスプレッダー型(拡散型)インフルエンサーとファンフルエンサーの相互補完関係(=組み合わせが大事)についてまとめます。

コスメのマーケティングファネル

コスメは、SNSでの情報が、ターゲット顧客の購買意思決定に最も大きな影響を与えている商品カテゴリーのひとつです(つまり、商品の全売上におけるSNS寄与率が大きいということです)

売上におけるインフルエンサー寄与度

出典:電通報

僕が整理したコスメのマーケティングファネルがこれ。

コスメファネル1

いろいろな要素が一枚にまとまっているので、順を追って説明します。

ちなみに、ここでは便宜的にコスメカテゴリーで説明をしますが、基本的な考え方は(全売上におけるSNS寄与率が高い商品カテゴリーであれば)同じなので、自身が担当している商材に当てはめて考えてみてください。

まず、この図はダブルファネルです。

左側が「買ってもらうまでのマーケティング(=プリマーケティング)」で、右側が「買ってもらってからのマーケティング(=ポストマーケティング)。

MOTで整理すると、左側がZMOTからFMOTで、右側がSMOTからTMOT。

ちなみに、ここからの説明にはずっとMOT(Moment Of Truth:真実の瞬間)の話が出てくるので、くどいけど、わからない人はこの記事読んでくださいね!

「認知→興味」ではなく、「興味→認知」へ逆流する

商品の認知のしかたにも特徴があります。

コスメファネル2

この段階は、別にお目当ての(気になっている特定ブランドの)コスメがあるわけじゃないので、検索ニーズはありません。ただ漫然とスマホでTwitterやFacebookやInstagramのフィードを眺めている状態です。

そこに、憧れのインフルエンサーが現れました。なにやらかわいいパッケージの商品を紹介しています。

ここで、ターゲットユーザーの指が止まります。

通常の広告だったら他人ゴトとして0.1秒でスルーされていた情報が、「憧れのインフルエンサー」が現れたから自分ゴト化されて指が止まったのです(←ここ、重要です)

ここで発生しているのは、インフルエンサーによる興味喚起によって指を止め、そこから「なにこれ、パッケージかわいい。XXXって商品なんだ」と認知へ逆流している現象が起こります。

過去の記事でも、「Paid型インフルエンサーが諸悪の根源である!」と言い切らなかったのは、ここに理由があります。

リーチ力が大きく、多くのファンを抱えるPaid型インフルエンサーは、ターゲット消費者の「興味喚起→認知向上」を獲得する力があるんです。

興味が喚起されたユーザーが次にする行為は検索

人は、ニーズが顕在化した瞬間、もしくは、何かに対して興味がわき、「もっと知りたい」と思ったとき、必ず検索をします。

その検索場所が(目的や文脈によって)多様化してきたことは、前回の記事にまとめました。

コスメの場合、雰囲気や文脈検索をInstagramで、リアルタイムおよびリアリティ検索をTwitterで、製品そのものの使用感(レビュー)を@cosmeもしくはLIPSなどのアプリまたはWebで、動画が見たい場合はYouTubeで、ブランドサイトで詳細情報をゲットしたい場合はGoogleやYahoo!で検索をします。

コスメファネル3

ここで重要になるのが、Instagramでのタグ検索やTwitter検索で表示される「検索フィード」です。

フィードと検索フィード

Instagramを想像してください。

通常開く画面は、自分がフォローしているフォロイーの投稿が時系列に流れる「フィード画面」です。ここには自分がフォローしているフォロイーのいろいろな画像や動画が流れてきます。

このフィードでの存在感は、圧倒的なリーチ力を持つインフルエンサーの影響力がとても大きい。

200人のフォロワーを持つユーザーは200人のフィードにしか登場しませんが、20万人のフォロワーを持つインフルエンサーは20万人のフィードに登場するんですから、当たり前ですね。

一方、検索フィードはどうでしょうか。

お目当ての(興味がある/もっと知りたい)タグ検索の検索結果フィードには、数百、数千のユーザー投稿が並びます。

検索フィードでの存在感は、個人のフォロワー数に関係なく、1投稿は1投稿です。

たとえば、フォロワー20万人のインフルエンサーひとりが1回の投稿しかしていないハッシュタグの検索フィードは、コンテンツが1つしか表示されません。

一方、フォロワー200人のユーザー100人がそれぞれ1つずつコンテンツを投稿してくれていれば、検索フィードには100個のコンテンツが並びます。

InstagramやTwitterで検索をするユーザーは何が知りたいのか。多くの人たちの多様な投稿を見て、雰囲気やリアリティを確かめたいわけです。

タグるユーザーに対して、豊かな検索フィードを提供するためには、UGCの「数」が必要ということなんです。

ここにインフルエンサーマーケティングの弱点があります。

豊かな検索フィードをつくってくれるのは、インフルエンサーではなくファンフルエンサーである

新規顧客のZMOT(お目当てのブランドが購入前のブランド体験で形成されること)は、既存顧客のTMOT(レビューやレコメンド)がつくっていることは前に書きました。

同じです。

新規顧客がInstagramやTwitterで検索して見ている検索フィードのコンテンツは、既存顧客が投稿したUGCです。

コスメファネル4

インフルエンサーは何度も投稿してはくれませんから、検索フィード内ではすぐに埋没してしまいます。

一方のファンフルエンサーは数が多く、かつオーガニックに、ある程度の頻度で投稿してくれるため、常に鮮度の高い検索フィード結果を形成してくれます。

インフルエンサーマーケティングだろうとなんだろうと、結局、既存顧客のブランド熱狂度が鍵を握る

おわかりいただけたでしょうか。

コスメファネル5

上図の右下にあるAdvocacy(アドボカシー)とは、「ブランドの熱烈な支持」(Brand Advocates:ブランドの熱烈な支持者)という意味です。ファンフルエンサーとほぼ同義です。

このファンフルエンサーを、中長期的なリレーションズをとることによって、宣伝予算に頼らない、持続可能で良質な検索フィードを共創することができるんです。

もしその手間を惜しむなら、宣伝予算をジャブジャブ使うことによって、強制的に「お目当てのブランドポジション(Evoked Set:想起集合)」を獲得することはできるでしょう。でも、そんなの、得策じゃありませんよね。

もう一度、全体像を確認してください。

コスメファネル1

コスメは、全商品カテゴリーの中でもっとも売上におけるSNS寄与率が大きなカテゴリーではありますが、大なり小なり、他のカテゴリー商品も同様の考え方が成立します。

インフルエンサーマーケティングは1.0から2.0へ

最後に、従来型のインフルエンサーマーケティング(1.0)と、ファンフルエンサーリレーションズ(2.0)の違いをまとめておきます。

インフル1から2

繰り返しますが、「1.0はダメダメだから、これからはすべて2.0へ移行せよ」とは言っていません。

ファネルで整理したように、効いている「段階」が明らかに違うため、役割が違うのです。

従来型の広告は、これからも年々効果は低下し続けるでしょう。それが、消費者の多くが広告に対して示しているアンサー(態度)です。

そのため、これからもしばらく行き場をなくした広告予算はインフルエンサーマーケティングに流れ続けるでしょう。

でも、インフルエンサーマーケティングの課題は山積しています。

インフルエンサーマーケティングの課題

広告主の皆さまにおいては、広告会社に対して「影響力のあるインフルエンサーを起用して情報が拡散する企画持ってきて!」などといった荒っぽいオリエンをすることなく、スプレッダー型のインフルエンサーと、すでに皆さんのブランドのことが好きでしかたがないファンフルエンサーをしっかり組み合わせ、持続可能な施策を講じるようにしてください。

そして、延べリーチやCTR、サイト誘導数など、「広告でやれること/やるべきこと」を、Earned✕Sharedの住人であるインフルエンサーに過度に期待しないようにしましょう。

「広告という手法ではできないこと」をするためにインフルエンサーを起用するのではないのですか?

「通常の広告よりもサイト集客効率が良い(CPC:クリック単価が安い)または通常のリスティング広告やリタゲ広告よりも顧客獲得効率を向上させたい(CPA:顧客獲得コストを抑制させたい)からインフルエンサーを「使いたい」という考え方は、近いうちに必ず限界がきます。

そして、広告会社の皆さんにおいては、広告主からの依頼に対して、すぐにインフルエンサーマーケティングの専門会社へ丸投げしないようにしましょう。

丸投げされたキャスティング会社(二次請け)は、すぐに複数のキャスティング会社(三次請け)に当たり、エクセルでインフルエンサー候補者リストを完成させるでしょう。

あれ、このエクセル、どこかで見たことがありますね。

そうです、昔からある、メディア出稿リストです。リーチ、想定CTR、想定誘導数、想定CPCが並ぶこのリストによって、誰を起用するかどうか、足し算と引き算で決める。

これ、インフルエンサーマーケティングでやることでしたっけ…。

ということで、Season1はこれにて終了です。

年明けから徐々にSeason2(ファンフルエンサーリレーションズの具体的方法や効果測定法)をまとめます。

お楽しみに!

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