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“みんながみんなで幸せになる”ためには、どうしたらいいんだろう? 「ちがさきこども選挙」ワークショップ、始まりました!

こどもが聞いて、こどもが選んで、こどもが届ける。

2022年9月、神奈川県茅ヶ崎市で「こども選挙」の活動が始まりました。

投票権よりも、大切なこと。

2022年10月30日に投開票が行われる茅ヶ崎市長選挙。それと同時開催という形で、小学生〜17歳のこどもたちによる模擬選挙を行います(※)。

(※)公職選挙法で禁止されている「人気投票」に当たらぬよう、模擬選挙である「こども選挙」の結果は実際の選挙の結果発表後に行います。また、同法で禁止されている「こどもの選挙運動」に関しても十分にこどもたちと話し合い、配慮しながら活動を進めて参ります。

こどもたちは、有権者ではないけれど、立派な主権者。政治や選挙を身近に感じられず投票率も低い現状がある日本で、投票権よりも⼤切なのは、⼀⼈ひとりが未来について考えを持ち、 その声が政治に届くことなのではないか。

今そういう機会がないのであれば、私たち市民が、子どもの声を政治や社会に届け、こども自身が社会と関わる空間を生み出していこう。

「こども選挙」は、そんな思いを抱いた茅ヶ崎市の仲間たちと実行委員会を結成し、草の根的に始まった市民活動です。


こどもたちが自分たちのまちの将来を考えて投票行為を行うことで、一体どんな景色を見ることができるのでしょうか。今回は、公募により集まった15名の「こども選挙委員」向けの第1回プログラムの様子をお届けします。

選挙ってなんのためにやるの?

9月初旬の日曜日、まだ夏の香り漂うサザンビーチちがさきの目の前にあるコワーキングスペース「Cの辺り」に、15人のこどもたちが集いました。

茅ヶ崎市在住の小学3年生から6年生。彼ら「こども選挙委員」は、これからまちのことや選挙のことを学び、候補者への質問を考えるなど、「こども選挙」の運営を担います。

保護者の皆さんもずらりと見学席に並ぶ中「こども選挙」の大人スタッフが登場し、初日のプログラムがスタートしました。

最初は緊張の面持ちだったこどもたち。

選挙って知ってる?

というスタッフの問いかけには手を挙げ、元気に発言してくれました。

「みんなで選ぶこと」
「ポスターが貼ってあって大人がやってる」

積極的に手を挙げて発言する子どもたち。そのパワーに、大人は圧倒されっぱなしでした。

積極的な発言とスタッフとの軽快なやり取りで徐々に心もほぐれたところで、まずはグループに分かれて「わたしたちのまち」を考えるワークショップがスタートしました。

まず茅ヶ崎の地図に自分の家をプロットした後は、自分のまちについて「好きなところ」「残念だと思うところ」を書き出します。「好きなところ」は次々にあがり、藁半紙はあっという間に付箋でいっぱいに。たとえば、こんな「好きなところ」。

「海であそべる」
「公園がたくさんある」
「歩いていて声をかけると返してくれる」
「お店がいっぱいある」
「このようなイベントがあるところ!」(これにはスタッフ感涙!!)

こどもたちが考えた「茅ヶ崎の好きなところ」(一部抜粋)

一方で、「残念だと思うところ」に関しては、なかなかペンが進まないこどもも。でもある子が「自転車が海風でさびる」と書くと、「わかる〜」と盛り上がる同じグループのこどもたち。それを皮切りに、「残念なところ」もずらり出揃いました。

「海にゴミがいっぱい」
「雨だと公園で遊べない」
「ららぽーとがない」
「校庭に遊具を足したい」
「せまくて危ない道がある」

こどもたちが考えた「茅ヶ崎の残念だと思うところ」(一部抜粋)

ここでスタッフから問いかけがありました。

「その残念なところは、どうすれば良くなると思う?」

残念だと文句を言うだけではなく、どうすればいいかを自分ごととして考える。1人の市民として、大事な姿勢を学ぶワークです。

ここでもこどもたちの思考は停止することなく、次々と解決アイデアが飛び出しました。テーブルごとの発表では、ユニークな解決策に、笑いあり歓声あり、大盛り上がり。

「雨だと公園で遊べない」→(雨でも遊べる公園を作ればいい)→「公園に屋根みたいなカバーをかける」

「海にゴミがいっぱい」→(面白くないと解決しない)→「ビーチクリーンしてビンゴをする」

「ららぽーとがない」→(作るためにはお金がかかる)→「茅ヶ崎のお店をバエるお店にしていっぱいお客さんが来ればお金が貯まってららぽーとが作れる」

こどもたちなりの「解決策」は、発想豊かでとってもユニーク。でも一方で、大人から見るとツッコミどころも満載です。

ただ、「楽しくないと解決しない」「お金を作るためにどうすればいいか」といった1段階深めた思考で解決策を生み出しているところには、スタッフ一同驚かされました。ここで講師からは、こんな話がありました。

解決策は、自分やまわりの人が動けば良くなるものと、多くの人の協力やお金がないと変えられないものがあると思います。

日本全国のみんなに関係するものは、国の仕事になります。
茅ヶ崎だけの人に関係するものは、茅ヶ崎市の仕事になります。

国の仕事か、茅ヶ崎市の仕事か、自分が動けば良くなることなのか。こどもたちはその仕分けにもチャレンジしました。

自分なりの解決策について、「自分と周りで解決できるもの」と、「解決のために、お金も含めてみんなの力や協力が必要なもの」に仕分けをしてみました。

茅ヶ崎市民のルールは、「条例」と言われるもので、茅ヶ崎市議会で作ります。茅ヶ崎市長は、このルールの案を市議会に出して決めてもらうことができます。そして、このルールなどに従って、みんなから集めた税金を使って、茅ヶ崎をよくするために働きます。

ですから、茅ヶ崎市長選挙は、茅ヶ崎市をよくするために働く人を選ぶものです。

「選挙」をする意味をしっかりと理解したところで、休憩を挟み、プログラムは第2部へと進みます。

「民主主義」ってどういうこと?

さて第2部は、いよいよ「民主主義」について学びます。スクリーン映し出された写真に、「国会!」とすぐに反応するこどもたち。さすが、知識も豊富です。

では、なぜこんな形をしているか、わかりますか?

これは大人にとっても難しい問いかけでしたが、実はアテネのパルテノン神殿に倣って作られたとのこと。ではなぜアテネなのか。それは“みんなのことは、みんなで話し合って決める”民主主義が始まった場所だから。

ここからは、スタッフの一人が講師となり、「民主主義3,000年の歴史」の話がスタート。アテネで実際にあった出来事を、「ハマチ国」「ブリ国」「アジ国」など、仮想の国々をモチーフに30分で解説しました。

土地や食べ物の奪い合いが起き、権力を持った人が登場して…。でもその権力者が亡くなったとき、どうなったか。後を継ぐのは、家族?それとも…?

そこで必要になったのが「話し合い」です。話し合って投票し選ばれた人を中心にしてみんなで知恵を出し合い、できるだけ多くの人が納得する形で、ものごとを決めて、動いていくようになりました。

…という、2500年前に実際にあったこと。講師はこの歴史を受けて、こう切り出しました。

今日の話の中で、いろいろな言葉が出てきました。その中のルールについて、改めて考えてみたいと思います。

ルールとは何のためにあるものでしょうか?

この問いかけには、「みんなが仲良く暮らすために必要だから」など、こどもたちからいろいろな意見が出ました。講師は続けます。

私の大学の先生は、「ルールとは正義を実現するためのもの」と言いました。では、正義とはなんでしょう?

これにも「ルールを守ること」など、あちこちからこどもたちの声が会場に響きました。

正義とは、「みんながみんなで幸せになること」です。

果たして、「みんながみんなで幸せになること」とは…?

…難しいです。

だから、みんなで良く話し合って、知恵を出し合って決めていくことが大切です。難しいことを、みんなで考えて、みんなの代表者を選んでやってもらう、それが一番正解に近づくと考えて実施すること。

それが、民主主義の考えです。

民主主義の話は、きっとこどもたちにとって難しい部分も多かったと思います。それでも真剣に話を聞くこどもたちの力強い眼差しには、スタッフ一同、勇気づけられる想いでした。

この日の最後には、「こども選挙委員」がこれから何をしようとしているか、講師から改めて伝えました。

【こども選挙委員がやろうとしていること】

・茅ヶ崎の「みんながみんなで幸せになるためには」どういうことをしていく必要があるのだろうかと考える。

・茅ヶ崎市長選挙の候補者が「みんながみんなで幸せになるために」どういうことをやろうと考えているかを調べる。そのために質問を考える。

・質問の返事をもらって、茅ヶ崎市長選挙の候補者の考えのうち、自分の考えに一番近い人は誰かを考え、模擬選挙を行う。お友達にも、同じように模擬選挙をしてもらう。

・本当の選挙の結果が出た後に、模擬選挙の結果を調べる。

・模擬選挙の結果も見ながら、当選した市長さんがやろうとしている「みんながみんなで幸せになる」と思われることのうち、もっとよくやって欲しいこと、あるいは、そこの掲げられていないことがあれば、それを意見にして、市長さんに茅ヶ崎のこどもとして持って行く。当選しなかった候補者にも伝える。

そして大事なのは、「こどもは有権者ではないけれど主権者だ」ということ。

「こども基本法」にも定められていますが、こどもは意見表明をする権利を持ってます。自分たちの社会の在り方を考え、それを作っていくことに加わる権利もあります。

みなさんのまちのことをみなさん主権者として、投票権はまだないですが、考えることは大切です。

ただし、法律は守らなければなりません。最後にしっかりと、公職選挙法に定められている「こどもの選挙運動の禁止」についても伝えました。

「茅ケ崎市長には、〇〇さんがよい」と友達や大人の人に言うことや、特定の候補者を応援するようなメッセージをブログ、SNSに投稿することは、ルール違反。でも、民主主義の勉強をしたり、投票に行くことを呼びかけることは、もちろんやってもいいことです。

守らなくてはならないこともある。それは守りながら、こどもも大人も一緒に自分たちのまちや社会のことを考えていく。

その先には、本当の意味でこどもの声を大切にし、一人の市民として尊重される社会、さらには、みんなが社会のことを自分ごとと捉えて行動し、市民主導の強い社会が広がっているのではないでしょうか。


それぞれの想いを携えて

この記事の最後に、「こども選挙委員」のこどもたちの感想をそのままお届けします。

【ワークショップ後、こども選挙委員15人の感想】

・選挙は今まで大人の人たちで決めていたけど、日本は子どももいっぱいいるから、こどもも一緒に決めて、偉い人を選んだ方がいいと思いました。

・選挙って普通は大人がやるって思っていたけど、こども選挙でこどもも選挙できるのは楽しみだなと思いました。

・今日はみんなで考えられて楽しかったなって思いました。

・みんないろいろな意見が出てすごいなと思いました。

・(茅ヶ崎の)残念なところの解決策をみんなで考えたりできたのが楽しかったです。

・みんながみんなで幸せになるために選挙が必要だと改めて感じました。

・選挙を大人だけじゃなくてこどももやっていいのは楽しみ。

・今日みんなでやったことは、ちょっと難しかった。

・自分の意見だけじゃなくて周りの人の意見も聞くことが大事だなと思いました。

・これからのプログラムを見て、すごくワクワクしています。

・選挙は大人だけがやるものだと思っていたけどこどももできて楽しみだなと思いました。

・選挙のことをいろいろ知れてよかったです。

・話し合いは昔からあるんだなと思いました。

・選挙は大人だけで考えることだと思っていたけど、こどもも一緒に考えられて面白いなと思いました。

・なんで選挙はこどもを入れないんだろうと思いました。

事情により、オンラインで参加してくれた子もいました。

得られた学びも湧きあがった疑問も、それぞれにそれぞれの想いを携えて。終わった後のこどもたちの晴れやかな笑顔が印象的でした。

もちろん、こども選挙(模擬選挙)で投票しても、その結果は本当の市長選挙には影響を与えません。そこはしっかり認識してもらう必要はありますが、こどものうちから、市のことや選挙のことを自分事として考えることは大切です。

次回プログラムでは、茅ヶ崎のまちの人々の声を聞いていきます。どんなところを「残念」だと感じ、どんな「解決策」を考え、行動しているのか。

こどもたちと大人たちの学びは続きます。


【こども選挙は寄付を受け付けています】
こども選挙は実行委員メンバー全員がボランティアで運営している非営利の活動です。頂いた寄付金は、こども選挙新聞・投票用紙の印刷代や会場費など、こども選挙の運営に活用させていただきますので、サポートをよろしくお願い致します。ホームページにて受け付けています。


貴重な時間を割いて読んでくださったこと、感謝申し上げます。みなさんの「スキ」や「サポート」、心からうれしく受け取っています。