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場としての雑誌で「ページをめくる」

宇野常寛さんの著書「遅いインターネット」を読んで、そこから「遅いインターネット」のWebマガジンに繋がり、紙の雑誌を出すいうことを知るに至りました。最近本は買うのですが(今回寄稿している安宅和人さん、猪子寿之さんの本は買って読みました)、雑誌は最後にいつ買ったかがわからないくらい買っていませんので、かなり久しぶりの購入になりました。
 特集は『「都市」の再設定』『10年目の東北道を、走る』『TOKYO2020はどうあるべきだったか』です。表紙の綺麗な海は、気仙沼の小田の浜という有名なビーチで、海藻をたくさん拾ってから撮影したそうです。

購入は現在Baseでの販売になっています。Amazonや大手チェーンでは販売されない上、実際の店舗でも買えるところが限られるということなので、Baseより購入しておいた方が良いと思います。その販売方法自体にも意味があるのですが、「『モノノメ 創刊号』が100倍おもしろくなる全ページ解説集」が付くので、通常盤よりもオススメです。私は雑誌を読むより先に解説集を全部読んでしまいました。

そもそも、「遅いインターネット」って?というところですが、まずその反対の「速いインターネット」とは何かというと、twitterでつぶやくためにその場所へ行く、instagramにアップするためにその場所で写真を撮る、などの脊髄反射的なコミュニケーションが主流となり、タイムラインがものすごい速さで流れていくインターネットのことです。そこはタイムラインの潮目さえ読めば、誰でも考えなくても承認されてしまうため、よろしくありません(言葉悪く書くと、馬鹿になります。)そのため、「遅いインターネット」では、タイムラインの流れからは検索されない場所で、ゆっくり考えて咀嚼することを目的として、長文の記事を無料で公開しています。ただ、それでも記事単位でしか読まれず、自分の興味の外側に触れることで、さらにゆっくりと考えることにはつながらないという課題がありました。そのため、今回の「モノノメ」は、ページをめくりことで、目当ての記事以外が偶然目に入ることを目的に、紙の雑誌として作られています。

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(紙の雑誌「モノノメ」ができるまでのイメージです。「検索では出てこない」「定期刊行」はマイナス要素のようですが、モノノメではプラスに働くと思います。)

SNSで承認されるために現地に行く、イベントに参加する、など「速いインターネット」の延長線上になってしまった現実の場所を、雑誌で特集されているように改めて考えることで、現実の場所としての機能を取り戻そうとしているように感じました。人と人とのコミュニケーションから生まれるものではなく、その場に訪れることで偶発的に見えるものが重要なのだろうなと思いながら、雑誌を読み始めました。(ここまでは解説集の内容で、まだ雑誌に到達していません。)

雑誌を手に取った感じは、雑誌にしては小さく、本にして大きい。中を見た感じは、雑誌にしてはテキストが多く、本にしてはカラー写真が多く綺麗。レイアウトや文字の形や大きさで気を引くわけではなく、シンプルなレイアウトのルールに沿っていながらも、書かれている内容で表情が変わるようにデザインされているように思えました。めくっていく中で紙の色が少し変わることで、雰囲気が変わる部分もあり、そこに本というモノの力を感じました。

その紙の色が変わったところから、さらにページをめくっていくと、なんとなくイラストが入ったページが気になり、めくる手を止めました。「穴」という浅生鴨さんが書かれた小説でした。最近そういえば小説もほとんど読んでいなかったなと思いながら、ほとんど読んでいなかった雑誌で小説を読みました。

読んでみて、変わらない作業を続けることを、世の中が変わらないことのせいにして諦めるのではなく、変えるためにすべきことは何かということを表現しているように感じました。
 とにかくなんでもいいから変えたいという衝動では、変えた先に破壊や停止があり、望んでいる未来はない。偶発的かもしれないけれど、違和感や気づきを徐々に受け入れていく先に、内部から大きな変化が起こりうる。大きな変化を起こすためのハッチは地下にあり、その周りには他の人の望みが無数の穴になり明るくなっている。そんな少しづつ皆の思いがつどる明るい場所で、勇気を持ってハッチを開けることで変われる未来がある。その結果本人には大きな変化はなくても確実に変わったという実感と世界の変わる瞬間を感じる。
 私の文章を読んでも何が何だかよくわからないと思います。読みながら想像したイメージのスケッチも載せますが、それもよくわからないと思います。それでも何か伝わるものがあれば、読んでみてほしいです。

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(上のスケッチは「穴」を読みながら思っていたイメージです。描いていて思いましたが、ネタバレを含んでいます。)

スケッチを描いていたり、ここでの文章を考えている間に、雑誌の方もだいぶ読み進んでしまいました。大体半分読み終わっています。読んでいくほどに、雑誌としてのコンセプトと、載っている記事・小説と、関係者の現在の活動がリンクしているように思えました。
 6年前のオリンピック開催決定時に、オリンピック反対を建設的に提案することで変えようとした宇野さん、猪子さん、乙武さん達のメンバーが、オリンピック自体を変えることはできなかったけれど、その先に進んで活動していることが、小説の主人公とラップして見えます。また、10年前の震災で壊れてしまった街を変わらない姿として、震災の前に戻すのではなく「復興」をその土地に根付いた活動から行う方達の姿にも共通点を感じます。「都市」の再設定も、コミュニティーではなく、都市論としてではなく、モノの動きから都市を考え直すことが「遅いインターネット」から「モノノメ」に繋がっているように思えます。

「モノノメ」はモノの目という意味もあり、人の目で見える限定された世界ではなく、視点を変えることで違った世界に見えることも表しています。雑誌を読み進める中で、虫の目、猫の目から見た町、下戸の人から見た夜の東京、物から見た都市、など、雑誌のページをめくることでいつもと違う視点に出会えます。そして、別の視点で見る世界を考えることによって、今起きている問題やこれから考えることに対するヒントを発見できる可能性を感じられます。
 雑誌にて生物ごとに感じる世界を「環世界」とドイツの生物学者が名付けたと紹介されていましたが、生物それぞれの環世界を想像することで、人が作ったインターネットの世界の外側には、さらに広大な世界があることを知り、閉じたインターネットの外側の世界を考える重要性に気づけました。

宇野さんは解説集に「作成途中を見せることに価値を持たせることはあまり好きではない。」と書かれていましたが、今回は解説集があることで、「なるほど、読んでみよう」と雑誌を読む動機になり、理解が深まるので良かったと思います。思っていたよりも盛りだくさんの内容で解説集自体を読むのにも時間がかかりましたが、何を考えて作っているのかがわかるので、次号でもあると個人的に嬉しいです。そんな解説集を読んで興味を持った「推しが山いっぱいに増えてくれたら死ぬ」が楽しく読め、印象に残りました。東さんの「人類堆肥化計画」を読もうと思います。
 そんな解説集もついた雑誌だからこそ、いや「モノノメ」だからこそ、SNSでもWebでも本でも体験できない出会いがあります。残り3分の1をこれから読もうと思います。

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(モノノメ全ページ解説集です。A4で16ページありました。ピンボケしているのは画像から文字を読めないようした配慮で、あくまでミスではありません。)

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