最新テクノロジーを「魔法」に。謎解きエンターテインメント「code name: WIZARD」に迫る
「魔法」といえば、幼い頃、ハリーポッターやダレン・シャンなどの小説を読み、「わたしも魔法が使えたら……」と魔法の世界に思いを馳せていたことを思い出します。
そんな「もし魔法が使えたら」の世界観をテクノロジーの力で実現した、謎解きエンターテイメントシリーズ「code name: WIZARD」。体験者は、一人前の魔法使い「ストライダー」を目指す修練生になり、妖精たちと共に魔法の修練を積んでいきます。
クラウドファンディングで実現した「code name: WIZARD Episode 0」に続く WIZARD シリーズ第2弾「code name: WIZARD Episode 1」が、10月2日から12月28日まで東京タワーのフットタウンで開催されています。
体験はアナログの謎解きパートと現実世界にグラフィクスを重畳するMR(複合現実)を用いた謎解きパートに分かれています。
まず、受付カウンターで魔導書と地図が入ったA5の小さなファイルを受け取り、東京タワーに散らばるポイントを巡りながら魔導書の謎を解き明かしてきます。
そして、魔導書の謎を解き、妖精を召喚する呪文を手に入れたら、最後のステージで待ち受けているのは、WIZARDの体験の肝となるMRグラス「Magic Leap 1」を用いた謎解きです。
MRグラスをかけ、両手で三角を作ると、現実世界に突如妖精が召喚されます。こうして召喚した妖精の力を借りながら、魔法を使って謎を解いていきます。
召喚のポーズ
正直なところ「最新デバイスを用いた体験は、どうしても技術のデモンストレーションに近い体験になってしまう」という先入観がありましたが、WIZARDの場合はMR以外の要素でも、「魔法図書館」を模したセットや魔法世界の衣装をまとうスタッフに至るまで、徹底的に世界観が作り込まれており、現実と魔法の世界が混ざったような不思議な体験をすることができます。
わたし自身、今までさまざまなXRグラスを使った体験をしてきましたが、現実世界で魔法を使ったような不思議な感覚になるのは初めて。他の体験では感じたことのない感動です。
何を追求したら、テクノロジーをこうした感動体験に昇華できるのでしょうか。
企画に携わった、株式会社カクシンの代表を務める太田高揚さん、クリエイティブディレクターの佐々木淳一さん、3Dクリエイター・エンジニアである財津翔さんに、WIZARDが誕生した経緯について伺いました。
左から、太田高揚さん、佐々木淳一さん、財津翔さん
(聞き手・編集: 池澤 あやか)
面白い体験を創るには「体験の中心」を考え抜く
池澤: WIZARD が企画として誕生した経緯を教えてください。
佐々木さん: 体験設計の軸となるものを最初に考えました。今回の場合は、それが「魔法」でした。体験設計の軸を決めた後は、空き時間で趣味程度に企画書やプロトタイプをつくりはじめました。
最初はデバイスとかを気にしなくて作っていて、どんなデバイスなら一番「魔法」を再現できるかなと考えたときに、「Magic Leap」というキーワードが出てきて、「それならもっとこういうことができるよね」と企画を具体化させていきました。
太田さん: カクシンでは「体験の中心」に立ち返ることを大切にしています。デジタルってどこまでいっても体験の中心ではなく、表現の一部でしかないんですよね。
今回で言うと、「本当に魔法を使っているような世界観」です。
ユーザーさんは誰しも、過去の経験を踏まえて「こんなことやってみたい」という世界観のベースがあると思うんですよ。
それをデジタルで再現できれば、ユーザーさんの感動を呼び起こすことができます。
テクノロジーで魔法を創る
池澤: テクノロジーを魔法にするために苦労したところはありますか。
財津さん: Magic Leap をいじって遊んでいたときに、ハンドトラッキング機能があることに気づいて、これを使って手から魔法を出したら面白いんじゃないかとひらめきました。
しかし、そこには予期せぬ苦労が待っていました(笑)
手が認識されたら魔法が出るだけだったら面白くないし、かといって凝りすぎた手の形をトリガーにすると、実装した自分以外は誰も魔法を使えない。
コントローラーを使えばみんな同じような体験が簡単にできるんですけど、そうするとただのゲームと一緒になってしまいます。
Magic Leap の特徴を活かしつつ、万人がジェスチャ操作できるラインを探るのが難しかったですね。
特に、ジェスチャから魔法を飛ばしたい方向を認識させるのはかなり苦労しました。
単純に手ひらの向いている方向に魔法のエフェクトを飛ばすと、自分が考えている方向とは全然違う方向に飛んでいくんですよ。実は、ほとんどの人は目で見つめている方向に飛んでいってほしいんです。でも、実際に見つめている方向に魔法のエフェクトを飛ばしてみると、逆に狙った場所にはっきり飛びすぎて違和感がある。
試行錯誤と微調整を行った結果、イメージした場所の近くに飛んでいくようになりました。この苦労は Magic Leap 特有のものだと思います。
魔法を飛ばすジェスチャ
自社プロジェクトを終わらせるためには「締切」が不可欠
池澤: そもそも WIZARD はどういった枠組みの中で生まれたのでしょうか。
太田さん: WIZARD は次世代型エンターテイメントをつくる「AJARA」という自社プロジェクトの一環から生まれました。
カクシンでは受託仕事を受けているので、最先端デバイスにさわる機会はたくさんあります。ただ、本当に最先端のデバイスを使用したコンテンツをクライアントに提示しても「他でどこでやってるの」って言われてしまうことが結構あるんですよね。
なので、未来的な体験の核の部分は僕たちが最初につくっておいて、後から企業の方が参画するようなプロジェクトの進め方に挑戦しようと立ち上がったプロジェクトが AJARA です。
AJARA とは
池澤: 自社プロジェクトだからこそ、時間をかけてじっくり突き詰められましたか。
太田さん: いや、完全にその逆でしたね。実は WIZARD って AJARA においては3作目なんです。AJARA が始動して1.5年ぐらいなのですが、1作目・2作目は現時点でも形になっていません。
1作目・2作目で明確に失敗だったのが、責任の所在が明確ではなかった点です。リリース期限がないと何度もリテイクしてしまうし、自社プロジェクトって難しいなと痛感しました。
WIZARD の場合は、「Magic Leap を使った世界初の体験型のアトラクション」と銘打ちたかったので、リリースとクオリティの責任をチーム全体で明確化して、厳しいスケジュールを決めました。メンバー全員で死ぬ気で頑張ってくれたと思います。
結果として、1作目・2作目の制作スケジュールの1/5くらいの超タイトスケジュールだったのに、比べ物にならないくらいクオリティが高いものが出来ました。
池澤: なるほど。時間があるほうがこだわれるようなイメージがありましたが、なんだかんだプロジェクトには締め切りがある方がしっかり進むんですね。
WIZARDをさまざまな業界に影響を与えるコンテンツへと成長させていきたい
池澤: 今後 WIZARD や AJARA をどのように発展しさせていきたいですか。
財津さん: 僕は MagicLeap で魔法を使いたいって思っていたときから、VR上だけではなくて、実際のものを動かしたいと思っていました。
デジタルから現実の世界に何か影響を及ぼせたら面白いじゃないですか。そこまでいけたら本当に「魔法」ですよね。
佐々木さん: 近い未来の目標としては、WIZARD をテーマパークに設置したいですね。
最終的には、XRグラスが普通に使われる世の中になったときに、XRグラスをかけると WIZARD の世界に気軽に遊びに行けるような世界観を実現したいです。
太田さん: 僕らは未来を創りたいので、WIZARD をエンタメ業界以外にも影響を与えるようなコンテンツに成長させたいです。
あとは、今のエンタメ業界は、ディズニー以上のものは生まれないとみんなどこかで諦めてるところあると思うんですけど、ディズニーが生まれてまだたった100年しか経っていないのだから、僕らが塗り替えられないことはないと思っています。
テーマパーク作りたいわけではないけど、そのぐらいいろんな業界に WIZARD というコンテンツが広がっていくといいなと思っています。
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本記事は、日経MJでの連載『デジもじゃ通信』での取材インタビューを基に執筆しています。
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