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ものづくり施設 DMM.make AKIBA 6年目の挑戦

3Dプリンターやレーザーカッター、切削機、リフロー炉などハードウェア開発のプロの現場で使われる機材がずらり。ここは、会員となれば個人でも利用することができる「DMM.make AKIBA」のシェア工房だ。
東京・秋葉原にある DMM.make AKIBA は、こうしたシェア工房とコワーキングスペースを備え、団体個人問わずあらゆるメイカーを支えてきた。

そんな DMM.make AKIBA も、今年でいよいよ6年目……。

設立したばかりのころは、ちょうどメイカームーブメントの真っ最中だった。

こうした個人でも使えるシェア工房の登場によって、個人のメイカーでもプロに遜色ない造作物をつくることができるようになったことや、3Dプリンターの登場により、ものづくりのトライアンドエラーが簡単にできるようになったこと、クラウドファンディングによって個人でもお金を集められるようになったことが時代を後押しし、2010年頃より小規模チームや個人によるものづくりの一大ムーブメント、メイカームーブメントが到来した。

しかし、最近はそんなムーブメントにも陰りが見えはじめた。2017 年にメイカーにとって象徴的存在であった米 TechShop が破産、2019年には Maker Faire の運営やライセンス管理を行っていた Maker Media の財政難による事業停止と全従業員の解雇があった。日本でも 2020年2月に TechShop Tokyo が多くの人に惜しまれながらも閉店することになった。

そんな環境の変化のなかで、DMM.make AKIBA はどう変わっていったのか。DMM.make AKIBA 6年目の挑戦についてインタビューした。

(聞き手・編集: 池澤 あやか)

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左から、DMM.make AKIBA の事業部長の大沼慶祐さん、テックスタッフの山口潤さん、広報の小山柚奈さん

継続して事業を運営していくためには収益化が大切

池澤: DMM.make AKIBA も今年で6年目。最近は、メンバー体制や料金体系やサポートなど、大きく変わってきている印象があります。

大沼さん: わたしは昨年の3月から施設責任者としてジョインし、9月から責任者として携わっていますそこからは、継続して事業を運営していくためのビジネスモデルの再構築に力を入れてきて、最近は経営状況も良くなってきました。

行った施策としては、例えば、個人のメイカーだけではなく、大企業にも新規事業創造の場やスタートアップとの共創の場として活用してもらえるよう取り組みを進めてきました。これらの企業には、スポンサーやパートナーとして関わってもらっています。

池澤: 企業数、結構多いですね!

大沼さん: 大企業も内部からイノベーションを生むために、スタートアップを始めとする外部との取り組み、いわゆるオープンイノベーションに力を入れています。そういった背景もあって、増えているのだと思います。

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ものづくり施設の運営は、自治体が担うべきなのか?

池澤: TechShop Tokyoの閉店など、メイカームーブメントが終息しつつある現状を受けて、「メイカー向けの事業は、収益モデルはつくりにくいが社会的に意義のある取り組みなのだから、自治体や行政が運営するべきなのではないか」という声も一部から聞こえてきますが、どう思いますか?

大沼さん: ものづくり施設の運営は、地方自治体の慈善事業にしてはお金がかかるし、ノウハウも必要です。わたしたちはエリアパートナー制度を設けているので、地方自治体や大使館とは、連携ベースで力になっていければと思っています。

また、他のものづくり施設も良いライバルですが、まだマーケットがそこまで大きくないこともあって、こちらも連携を強化しています。例えば、東京・日本橋にあるライフサイエンス系スタートアップ向けのシェアラボ「Beyond BioLAB TOKYO」や、大阪・堺筋本町のコワーキングスペース・ファブスペース「The DECK」などは、DMM.make AKIBAの会員であれば安く使えるような連携を進めています。

ハードウェアスタートアップは「ハード」だ

池澤: DMM.make AKIBA の空気感は、初期から現在に至るまで変わってきましたか?

大沼さん: それは、生き証人に聞きましょう(笑)山口さんは、DMM.make AKIBA の立ち上げ期からの、機材の使い方を教えてくれたり、サポートをしてくれたりするテックスタッフとして働いています。

山口さん: できたばかりの頃はメイカームーブメントの真っ最中でした。「個人や小規模チームのメイカーでも売れるものがつくれる!」とすごく盛り上がりました。なので、会員の方は個人のメイカーが多かったです。でも、だんだん「ハードウェアスタートアップはハードだ」って現実が見えてきて、メイカームーブメントも下火に……。

池澤: いくら3Dプリンターの登場によってトライアンドエラーしながらつくることがしやすくなってきたとはいえ、売れる商品を作ろうと思うと、小ロットで生産してくれる工場探しから、めちゃくちゃお高い金型の発注、在庫の管理等々する必要があって、人件費とコンピューターさえあれば開発が進められるソフトウェアスタートアップに比べてめちゃめちゃハードですよね。

DMM.make AKIBA の会員でもある猫用 IoT トイレを開発するスタートアップ toletta さんのプレゼンテーションの Togetter は、涙なしでは読み進められませんでした。

山口さん: そうした背景から、ハードウェアスタートアップ自体の数は減ってきたかもしれないのですが、質が高くなってきたように感じます。うちのようなものづくり施設の増加や成熟、ベンチャーキャピタル、特に大手企業がベンチャーに対して投資を行う CVC が整ってきたこともあって、ハードウェアスタートアップが生まれるだけではなく、育つ環境がようやく整ってきたように感じます。

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大沼さん: 最近注目しているのはヘルスケアのハードウェアスタートアップです。トイレにセンサを設置しておくと、日常的に健康診断を行ってくれるサービス「スマート体調チェック」を開発する SYMAX や、IoT 尿検査装置「Bisu(ビースー)」を開発している Bisu, Inc. 、おへそで深部体温を測れる「Picot(ピコット)」を開発する HERBIO は、DMM.make AKIBA の会員さんです。

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(IoT 尿検査装置「Bisu」)

メイカースペースからプラットフォームへ

大沼さん: メイカーのための施設としてではなく、人と人をマッチングしたり、個人や小規模グループではケアしきれない開発面・製造面・ビジネス面・法律面のケアだったり、ビジネスプラットフォームとしても伸ばしていきたいと思っています。

企業同士のマッチングでは、例えば、STマイクロエレクトロニクス社のマイコンチップを靴のスタートアップの nnf に使ってもらったり。

小山さん: あと、会員さんのなかに、国際高校生ロボコンである FIRST Robotics Competition(通称 FRC)を目指して開発を進める高校生のロボコンチーム「RAIJINbotics」がいるのですが、毎日工房でロボット制作に勤しんでいます。
彼らのスポンサー探しや展示協力も、私たちがマッチングで協力させていただきました。

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(RAIJINbotics が製作したロボット。かっこいい。)

大沼さん: 個人や小規模メイカーのサポートは、「かゆいところに手が届く」ことを意識しています。例えば、開発・製造・ビジネス・法律のプロを呼んで、「メイカーズ相談会」を開催しています。スタートアップの場合は、テクノロジーを用いて解決したい課題は明確にあるのですが、法務や税務、IPO の準備なんかについてはあまり考えてなかったり、知識が足りなかったりすることが多いんです。

量産に関しては、スポンサーでもある SHARP さんや、ハードウェア製造実績のある Cerevo がサポートしています。人材のサポートは、パソナさんに協力いただいています。

他にも、審査はありますが、若手の個人や小規模チーム、起業前のスタートアップが無料で施設を使えるようになるスカラシップ制度を整えています。スカラシップになると、施設の利用だけではなく、ものづくりのためのログとして note プレミア厶が無料で使えます。あと、PR TIMES とも連携をはじめて、本来なら3万円かかるところを、無料でプレスリリースが出せるようになりました。

小山さん: ビジネスプラットフォームとして、アイディアを具現化することに伴う障害をなくすようなオフラインのサービスを充実させることと同時に、オンラインのプラットフォーム化も促進したいと思います!会員のみなさんは楽しみしていてくださいね。

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新型コロナウイルス感染拡大に伴うお知らせ

小山さん: 現在、DMM.make AKIBA は、5/6まで規模を縮小して営業しています。最新の情報は 公式 HP をご確認ください。

施設にとらわれずオンラインイベントや SNS などを通して、モノづくりを継続的に支援しています。

本記事は、日経 MJ での連載『デジもじゃ通信』での取材インタビューを基に執筆しています。

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