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大人こそ読みたい「13歳から鍛える具体と抽象」

先日、若手ビジネスパーソンを対象とした思考力強化の研修を企画する機会があり、まず教えたいと思ったのが「ロジカルシンキング」と「クリティカルシンキング」でした。どちらも思考力の基礎となるスキルであり、多くの方がその重要性に納得されるかと思います。

では、その次に何を教えるべきか?ここで意見が分かれるかもしれませんが、個人的には「具体化・抽象化」のスキルが重要だと思います。このスキルが身につくと、コミュニケーションや企画の質がグッと向上します。しかし、ロジカルシンキングとは異なり、参考になる教材やセミナーが少ないことに気づきました。

私自身も振り返ってみると、書籍や研修で体系的に学んだ記憶はなく、仕事を通じて自然と身につけていったように思います。

体系的にまとまった資料を探した結果、非常に素晴らしい書籍を発見しました。その書籍は「13歳から鍛える」と題されており、内容は非常に分かりやすく、かつ本質的な話が多く含まれています。学生や若手ビジネスパーソン、そして子を持つ親にまで、幅広い方々におすすめの一冊です。その内容を、3つの図とともにご紹介します。


具体と抽象の関係

具体と抽象の関係(書籍を元に作成)

「具体」とは、一つ一つの個別のものを指し、それらをまとめて一つとして取り扱うのが「抽象」という関係です。例えば、「動物」という抽象概念には、「犬」「猫」「猿」などの具体が含まれます。

次に、数字を例に取り上げてみます。「3」という数字を抽象概念とした場合、具体例には「鉛筆3本」「犬3匹」「本3冊」などが挙げられます。人間は数字という抽象的な概念を使うことで、「鉛筆と椅子をそれぞれ3つ持ってきて」といった効率的なコミュニケーションを行うことができます。これは、人間以外の動物には不可能なコミュニケーション方法です。

具体・抽象ピラミッド

具体・抽象ピラミッド(書籍を元に作成)

具体と抽象は2つの階層ではなく、いくつもの階層から成るピラミッド構造になっています。例えば「果物」が2階にいたとして、1階にはそれを具体化した「りんご」「みかん」「メロン」などが存在します。「果物」の上の3階の抽象概念には「食品」などがあり、「メロン」の下の地下1階には「夕張メロン」といった具体例がいるといった構造です。

「1階=具体」といった白黒はっきりした定義はなく、どちらがより濃い(薄い)グレーなのかという関係になります。2つの比較対象があって、どちらがより具体(抽象)なのか?といった観点で見る・考えることが重要となります。

具体化と抽象化

具体化と抽象化(書籍を元に作成)

人間は他の動物よりも知的能力が高い(賢い)と言われていますが、「賢い」とはどういうことなのか、具体と抽象の観点から考えます。人類は生きていく上で不可欠の「生活の知恵」を大量に蓄積し、それを日々活用することで賢く生活していました。例えば天気予報がない時代、ある地域で3/24、5/8、9/20、11/7と違う日に「前日に夕焼けを見て晴れになった」という経験をしたとします。これを一般化して「夕焼けが出ると翌日は晴れになる」という法則を導く事ができます。

このような多数の経験から法則を導き出す「経験則」というのが、具体(個々の経験や事象)を抽象(知恵や教訓)に変えていくことの典型的な例であると言えます。そして、知恵や教訓は、実際に具体的な場面で活用(今日は夕焼けが見れたから、明日は晴れると思って準備しよう)して初めて生活に役立つことになります。

人が経験から学んで賢くなっていくプロセスは、具体から抽象への「抽象化」が起こり、その後に抽象から具体への「具体化」が起きるという順番になります。

一万円分のドーナツ問題

人が使う「言葉」というものは、「世の中の現象の一部を切り取って単純に表現する」手段と言えます。つまり具体的なモノやコトを、抽象に変えるというプロセスになります。言葉は自分の考えを一言で表現できるというメリットがありますが、各個人の状況によって現象の切り取り方が異なるため、トラブルにもつながりかねません。

本書を読んだ後、SNSでこのような投稿を見つけました。

どちらが悪いかという議論は置いておいて、具体と抽象という観点からこのトラブルを読み解いていきたいと思います。

依頼者は「ドーナツなど、小腹を満たすような食べ物を適量買ってきて」という指示をしたつもりが、受け手側は「ドーナツを1万円分買う」という指示として受け取ったという事で、依頼者側は抽象的な依頼をしたつもりが、具体的な依頼として受け取られたという構造だと思われます。

言葉を使う際にはこのようなトラブルが起こり得るという事を想定し、状況や相手によって具体・抽象のレベルを使い分けるといった事が重要なのでしょう。

個人の成功事例は参考にならない?

本書の内容を元に、このような事例についても考えてみました。偉人やビジネスの成功者等が書いた書籍を読むと、「あの人だから成功したのであって、書いてある事を実践してもうまくいきそうにない」「あの時代、あの状況だからうまくいったにすぎない」等と思ってしまいませんか。

ここでも大事になってくるのは抽象化・具体化のスキルであり、個人の成功事例という具体例の共通項を見つけ(抽象化)、自分の行動へ落とし込む(具体化)することができれば、決して無駄にはなりません。

共通項を見るけるには一つのテーマについて複数の書籍を読む事をおすすめします。その中には意見が異なる著者がいるかもしれませんが、抽象度のレベルを上げると共通項が見えてくるかもしれません。これができるようになると、読書の有用性がグッと上がるように思います。

見える世界が飛躍的に広がる

抽象・具体の構造が理解できていると、見える世界が飛躍的に広がります。英語を話すと世界が広がる、会計が分かると世界が違って見えるなどと言った事はよく聞きますが、個人的な経験からすると「抽象・具体の理解」が最も自分の世界を広げてくれたように思います。

そしてこのスキルは生活や仕事のあらゆるシーンにで活用できる、最も重要かつ土台となるものであると、本書を読んで確信しました。ご興味を持たれた方は、ぜひご一読ください。

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